J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年10月号

CASE.3 キングジム 考え抜くために必要なものとは 思いつきを深めて形にする “チームで対話し考える力”

キングジムといえば、スクエアマークのファイルなど、オフィス文具の老舗だ。デザイン性の高さや単機能が製品の特長で、近年ではデジタル技術と連動した商品でヒットを連発。そうした独創的な商品を考える力は、どのように生まれているのか。商品開発部長の安蒜康英氏に伺った。

安蒜 康英 氏 開発本部 商品開発部長
「もちろん社員は全打席本塁打を打つつもりで臨みます」と語る安蒜氏。

キングジム
1928年創業。初代社長 宮本栄太郎氏が印鑑簿、人名簿など日本の商習慣に合った文具を販売したのが原点。スクエアマークの「キングファイル」が有名だが、近年は「ポメラ」「ショットノート」などデジタル機器関連の商品も多数開発。資本金:19億7,869万円、従業員数:連結2,305名、単体411名(2013年6月現在)、連結売上高:292億8,400万円(2013年度)

[取材・文]=道添 進 [写真]=キングジム提供、本誌編集部

●秘訣1 研修よりも実戦で学ぶ

ラベルライター「テプラ」をはじめ、乾電池式のテキスト入力専用機「ポメラ」など、文具回りのニッチを突く商品を生み出しているキングジム。その牽引役である商品開発部門には現在、約35名の社員がおり、5つの課に分かれている。それぞれアナログ文具に強い課、あるいはITを取り入れた新商品が得意な課などの特色を持つが、近年はそうした垣根を越えた商品企画も続々と世に出している。「誰もまだ考えついていないものを世の中に先駆けて商品化し、市場でポジションを確立していくことがキングジムの開発ポリシー」と語るのは、商品開発部長の安蒜康英氏だ。

そうした同社の開発部では、思考力を高める訓練が常々なされているのだろうと想像するが、意外なことに、考える力を磨くための研修は取り立てて行っていないという。「その代わり、開発メンバーには、入社1年目から実際に企画をどんどん立案してもらいます。自分のアイデアを世に問うチャンスを、新入社員の時から持たせるのです」(安蒜氏、以下同)ロングセラー商品を改良したり、決まった仕様のものをつくったりするのであれば、経験やノウハウが大いに役に立つ。

だが、「これまでにないもの」という未知の領域では、むしろ素人目線からのほうが斬新なアイデアを生みやすい。新人もベテランも誰もが横一線、みんなが挑戦者というわけだ。しかし、本当にそれで機能するのか。「実は、他にも個々の考える力を最大限に引き出すため、非常に大切にしていることがあります」

その一つが、「形式ばらないディスカッション」だ。企画会議や企画に関する相談は、決まった時間に決まった場所で行うわけではなく、多くの場合、各自が好きな時に声をかけ合う。その“ゆるい会議”が自然発生しやすいよう、開発部の机は、大部屋に各課が島を形成する形でレイアウトされ、島と島の距離もあまり離れていない。雑談的かつ日常的にディスカッションが始まり、隣の課の話にも自由に首を突っ込める環境になっている。

●秘訣2 考えを研ぎ澄ます投げかけ

未来のヒット商品の種子は、一人ひとりの頭の中に眠っている。普段の生活で「あったらいいな」と思うものをイメージし、少しずつ膨らませていくことから始まるのだ。だが、一人で考えていると不安に駆られたり、迷いが生じる。新機能を付け足したほうがいいのではないか、最初にやりたかったことはこうなのだが、どうも違うほうに進んでいるように感じる……といったように。だからこそキングジムでは、他の人とのディスカッションや対話を通じて原点を再確認し、誰に、どうやって使ってもらいたいのかを明確にしていく。

この時、他の人の質問に対し「Q&Aでちゃんと答えられるか」が大きなポイントだという。実際に世の中にその商品を出したと仮定して、想定される問題を一つずつ潰していくのだ。開発者がそれらのQに明快に答えられればよいが、答えられない場合は、商品のイメージが本人の頭の中でまだ見えてきていない証拠だ。他の人からのQは「君のやりたかったことは、つまるところ何なの?」という投げかけであり、商品のコンセプトや仕様の是非について深く考えるきっかけになる。

●土壌1 仕事は自分でつくるもの

個人の自由なアイデアを上手に引き出し、そしてチームで考えを深めていく同社のカルチャー。だが反面、これはとても厳しい仕事を求められているということでもある。「開発の仕事は自らつくる、というのが基本。主体的に企画を出さなければ、他の人の手伝いで終わってしまいます。そして開発したものがヒットするという経験もできません」もっとも、そんなことは杞憂と思えるほど、主体的に考えるのが大好きな人々がキングジムには集まっている。「プライベートで訪れた文具店や、セレクトショップ等で受けた刺激が、いつヒラメキに変わるかわかりません。メンバーにはぜひそうした時間を楽しんでもらいたい」価値を生み出す人はいつもどこか頭の片隅で、ヒントへのアンテナを立て、考えを巡らせていることが求められる。しかし、それを楽しめる雰囲気が同社にはあり、楽しめる人材がいる。

●土壌2 責任はトップが取る

そうした社風には、トップの姿勢が大きくかかわる。その意味でも、開発メンバーは恵まれた環境にある。同社では、商品の企画から商品化まで、開発者(発案者)が一貫して担当する。しかし一度商品が店頭に並べば、責任はゴーサインを出したマネジメントが取ると、トップが明言しているのだ。

「野球に例えるなら“10打数1安打でいい”と社長の宮本(彰氏)は言っています。その1打は本塁打が望ましく、もちろん社員は全打席本塁打の気概で臨んでいる。ですが、空振り三振でも、その経験を次の打席に生かしてほしい、といわれるような社風です」

開発担当者に責任を問わないことは甘えにつながらないのか。同社の開発者に限っていえば、彼・彼女らは結果を一番真摯に受け止めるという。そして、失敗の理由を自分なりに振り返り、「次で挽回しよう」と、新しいアイデアを考える。その繰り返しが、キングジムの独創性を支えているのである。

2つのヒット商品開発秘話に見る“考える力”

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