J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年10月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 人は“育てる”のではなく“育つ”―― 会社は学ぶ大切さを伝え自ら学ぶ人を支援するのみ

1993年に伊藤忠商事から、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人へ。そして社長などを歴任した後、2009年にカルビーの会長兼CEOに就任した松本晃氏。この4年間で収益性を改善し、株式上場を果たすとともに、海外事業の大幅拡大を打ち出した。新しいステージに入ったカルビーが求める人材像や、企業人に必要な成長の要件とは。

松本 晃(Akira Matsumoto)氏
カルビー 代表取締役会長 兼 CEO
生年月日 1947年7月20日
出身校 京都大学農学部
主な経歴
1972年4月 伊藤忠商事入社
1986年11月 センチュリーメディカル出向 取締役営業本部長
1993年1月 ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル( 現ジョンソン・エンド・ジョンソン) 代表取締役プレジデント
エチコン エンドサージェリー・ジャパン事業本部長
1999年1月 ジョンソン・エンド・ジョンソン 代表取締役社長 就任
2008年1月 ジョンソン・エンド・ジョンソン 最高顧問 就任
2009年6月 カルビー 代表取締役会長 兼 CEO 就任
現在に至る

カルビー
1949年4月30日設立。原料の馬鈴薯開発、調達、製造、店頭での販売に至るまでの一貫したバリューチェーンを構築。国内スナック菓子市場では約5割のシェアを誇り、今後はグローバルな食品企業へ転換をめざす。
資本金:115億8,600万円(2013年3月31日現在)、連結売上高:1,794億1,100万円(2013年3月期実績)、連結従業員数:3,352名(2013年3月31日現在)

インタビュアー/赤堀 たか子 写真/太田 亨

ポテンシャルを引き出し方向性を示す

――2009年にカルビーの会長兼CEOに就任されましたが、それまでのいきさつを教えてください。

松本

ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下J&J)の社長を辞めた後、カルビーの社外取締役を引き受けた際に、この会社はポテンシャルが高い会社だと、まず思いました。スナック業界ではトップシェアを誇り、商品もいい。ただ、利益率は低く、売り上げも伸び悩んでいた。ですから、「ここを変えればいい会社になりますよ」と経営陣に提言していたのです。すると、退任する社長の後任として社長をやってくれないか、と言われたのです。ですが、すでに何回か社長業を経験し、大変さを十分知っていたので、「社長はやりません」とお断りしたところ、「では会長を」というお話をいただいたので、カルビーが持っているポテンシャルを引き出すこと、5年、10年先の進むべき方向性を示すことを自分の役目と考え、お引き受けすることにしました。

――その決意の通り、自己資本利益率(ROE)は、2009年3月期の5%から2013年3月期に11.4%と、2倍以上に拡大しました。コスト削減の成果ですか。

松本

コスト削減といっても、何かを事細かに指導したのではなく、コストを抑える仕組みをつくりました。食品業界の営業利益率のスタンダードは15%くらいですが、当時、カルビーのコストは、売上規模が当社の3分の1程度の競合よりも13%ほど高かった。3分の1規模の会社であのコストを実現できるのなら、当社はもっとできるはずだと考え、可能にする仕組みをつくったのです。まず、変動費をできるだけ下げ、下がった分は商品の価格に反映させて顧客に還元しました。価格が下がれば、価格競争力が高まり売り上げが伸びますから、工場の稼働率が上がり、その結果、固定費が下がりました。製造業を経験した人でも固定費と稼働率の相関関係を理解している人はあまりいませんが、稼働率が上がると固定費は結構下がります。固定費が下がって出た利益を会社に取り込んだのです。まあ、当たり前のことを当たり前にやっただけのことなのですが。

――当たり前とおっしゃいますが、特に外から来た人が何かを変えようとすると、“笛吹けど踊らず”ということも少なくありません。そうしたご苦労は。

松本

抵抗がゼロだったとは言いませんが、もともと皆さん、とても素直で愛社精神がある方たちですから、苦労はありませんでした。

また、なるほどと納得できることには誰もが協力しやすいでしょう。ですからそう思わせるまでしっかり説明しました。そして、実行して出た成果はちゃんと従業員にも還元し、成果を実感させる。そうすれば、おのずと従業員の意欲も高まります。

経営は、守るべきことを決め繰り返し伝えること

――J&Jのクレドー(右図)を元に、カルビーの「ビジョン」もつくられました(左図)。

松本

J&Jのクレドーは真理です。私がJ&Jに勤めていたからそう言うのではなく、世界中で「世の中で最も優れたビジネスドキュメント」と言われているものです。実際に読み、会社の中で指針として使ってみれば、その意味が本当によくわかります。企業は放っておくと、“儲けたい”“売りたい”という方向に進みがちですが、“ちょっと待て、その前にやることがある”と言っているのがクレドーです。何かあったら“Backto Our Credo”、クレドーに戻る。つまり、クレドーは経営の軸なのです。カルビーのビジョンは、クレドーをシンプルにしたものですが、1番は顧客、2番目は従業員とその家族、3番目はコミュニティ、そして4番目が株主だという基本的な考え方は変わりません。この順番を間違わずにいれば、会社は必ず良くなっていきます。たとえば、利益率の改善もそうでした。お客様が求めているのは、“美味しいものを安く”ということです。カルビーは、“美味しい”という部分で苦労はありません。ポテトチップスは、後発だったにもかかわらずダントツでトップになりました。しかし、それで安心してしまった結果、高コスト体質になってしまった。だからまず、変動費を下げて、お客様が求める“安く”を実現しました。その結果、購入してくれるお客様が増えたので工場の稼働率が上がり、収益性が向上したのです。

――ビジョンや理念を絵に描いた餅にせず、貴社のように実際の行動に結びつけるには何が必要でしょうか。

松本

ビジョンや理念は、本当にいいものをつくらないと使えません。ですが逆に、最初にいいものをつくりさえすればずっと使える。J&Jのクレドーは1943年に制定され、70年経った今も使われ続けています。いいものを定めた後は、その内容を繰り返し繰り返し繰り返し説く。私は、社内で従業員の耳にタコができるほど同じことを言っています。試しに従業員に聞いてみてください(笑)。企業の経営は、他のことに比べれば簡単なんです。守るべきビジョンを決めて、それを繰り返し繰り返し言い続けて実行すること。それだけです。

好かれることと知恵を出すこと

――もう一つのCEOの役割として挙げられた「将来の方向性を示す」ことですが、現在、5%程度の海外の売上高を、近い将来30%に拡大する方針を掲げられています。今後、海外事業はどんな形で進めるご予定ですか。

松本

カルビーの海外事業は、日本人ではやりません。最初の仕組みをつくるところは日本人がやりますが、仕組みができれば、後は権限を委譲して現地の人に運営を任せます。すでにその取り組みは始まっており、世界の8カ所の拠点のうち、日本人がトップのところは2カ所だけで、あとは現地の人です。そうなると、日本人の仕事は基本的な方針をつくることと、新しい市場をどんどん開拓することになります。世界には国が195ほどあるのですから、開拓する市場はいくらでもあります。

――海外事業の強化には、どんな人材が必要になりますか。J&Jの社長時代、求める人材は「地頭がいい人、人から好かれる人、気が短い人」とおっしゃっていましたが。

松本

気が短いほうがいいというのはセールスの場合です。営業を気長にやっていたら、いつまでも売り上げが上がりませんから。仕事によっては、根気も必要になるでしょう。ただ他の2つ――「地頭の良さ」と「人から好かれる」という要素は、どんな仕事にも共通します。基本的な頭の良さ、これは学歴の問題ではありません。知恵があるということです。それから、人に好かれるというのは、会って話をした相手に“この人は好きだな”と思われるということ。好かれるというのは、もともと本人が持っている要素もありますが、好かれるコツを知っていることも大切です。たとえば、人が内心、言ってほしいと思っていることを言える、あるいは、やってほしいことをやってあげる、それができる人は好かれます。逆に、人がやってほしくないことをやったら好かれない。そうしたコツは教えられるので、覚えれば誰でも、人に好かれる行動がとれるようになります。それから、海外でビジネスをまとめるという観点では、英語はもちろんですが、その国の法律や経済、アカウンティングなど、いろいろな知識が必要になります。専門家ほど深い知識は必要ありませんが、幅広く通じているジェネラリストになる必要があるでしょう。

学ばなければ始まらない「松塾」で学ぶ風土を醸成

――日本とは文化や考え方が異なる環境で事業を成立させることは容易ではありません。壁にぶつかった場合、どうすれば乗り越えられるでしょうか。

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