J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年11月号

CASE.2 千葉県立袖ヶ浦高等学校 生徒を信頼しモラルを育てる 生徒も教員も変えるITを活用した学びのあり方

千葉県立袖ヶ浦高等学校情報コミュニケーション科では、全生徒に1人1台、iPadを必携させ、あらゆる科目でITを自然な形で活用し、日々の授業を実践している。「2012年度日本e-Learning Award」において、県立高校にして並みいる先進企業を抑えて大賞を受賞したことからも、その取り組みの先進性が伺える。同校のこれまでの取り組みと、生徒や教員に生じた変化を紹介する。

永野 直氏
情報コミュニケーション科 主任

千葉県立袖ヶ浦高等学校
1976年に開校した普通科の高校。2011年、情報コミュニケーション科を新設。生徒数:880名、教員数:60名

[取材・文]=高橋テツヤ(又隠舎) [写真提供]=袖ヶ浦高校 [写真]=本誌編集部

●背景情報コミュニケーション科新設の目的

千葉県立袖ヶ浦高校は、生徒数定員880人、1976 年に開校した県立高校である。2011年に新設された情報コミュニケーション科は、ITを活用し、コミュニケーションをとれる若者を育てるためにつくられた。コンピューターやプログラミングの技術者・専門家を育成する学科ではない。あくまで、「社会の変化に対応し、主体的に情報手段を積極的・適切に活用し、社会で活躍し、生涯にわたって主体的に学び続ける生徒の育成」を目的としている。

2011年の情報コミュニケーション科の立ち上げからかかわっている永野直氏は、世の中でインターネットやコンピューター、モバイルデバイスがごく当たり前の存在になってきているのに、学校現場ではまだまだ特別視されていることに危機感を抱いていたという。

そのためITをもっと日常的に、ツールとして自然に使いこなすことで学習効果を上げていくことが、この学科創設に当たって意識された。

「eラーニングといっても、従来の教科書をデジタルに置き換えるといったことや、所与のデジタルコンテンツをiPadで学んでいくといったことではありません。これまでの授業、通常の教科書に、1枚の写真、10 秒の動画を利用することで、大きな学習効果が生まれるのです。

そうであれば、プラスアルファとして気軽に利用していこう、生徒の表現や創作、思考のツールとしても日常的に使っていこう、そうすることが、問題解決力やIT 活用能力、コミュニケーション力の高い若者を育てることにつながると考えたのです」

このような学びの環境を実現するため、情報コミュニケーション科では生徒に1人1台、iPadを購入することを義務づけることとした。併せてPages、Keynoteといったいくつかの有料アプリも、生徒負担で必携とした。

学校には、千葉県が引いたインターネット回線が通っていたが、それは利用せず、学校側で20 数台のアクセスポイントを設置し、Wi-Fi環境を整えると共に(なお、インターネット回線については、セキュリティー上の制約がある県の回線ではなく、生徒用の回線を別途調達し、授業用のiPadだけにしかつながらないよう設定している。生徒の個人情報や成績などを扱うネットワークとは物理的に分離されている)、各教室に1台の電子黒板、AppleTV、そしてiPadを保管しておけるカギ付きの個人ロッカーといった装備を整えた。

●具体的な学習の中身生徒と教員で開発するITを使った授業

このような環境のもとで、どのような学びが行われているのか、まずは実例を紹介しよう。iPadだけで授業をすることはなく、通常の教科書とノートと一緒に使用されている。

●効果生徒・教員・学習の変化

iPad 1人1台環境を実現し、ITを表現やコミュニケーションのツールとして活用するようになった結果、授業の形が変わった。従来は、教員から生徒への知識・技術の移転が中心であったが、学びの形・学びの場が広がっていくこととなった(図表)。

まず、生徒同士の学び合いが発生し、学びの形が変わってきた(保健体育、情報の事例参照。また、英語では、各自が数枚の英単語カードをアプリで作り、全員で共有して学習している)。

さらに、教室の壁を越えて、地域や家庭、産学官に学びの場が広がっていった(校外学習の事例参照)。

「学びの形、学びの場が広がってきたことの印象的な例として、次のようなことがありました。国語の授業で、和歌を作ったうえで、その内容にふさわしいイメージを添えて発表しなさいという課題を与えました(著作権の例外規定に当てはまらない授業)。するとある生徒が、インターネット上のイラストをどうしても利用したいと言い、作者にメールをして使用許諾を取ったのです。

『情報』の授業では、著作権の侵害事例について学んでいます。だからこそ、許諾を取るといった面倒は避けようという方法も採れたはずなのですが、この生徒は正しい知識を持って、ルールに従って、自主的に動いて許諾を取りました。

教室の壁を越えて、問題解決力、主体性などを発揮してくれた。これは私たちが理想とする学びの形にかなり近いですね」

さらに、ITによりフリップド・ラーニング(反転授業)が可能になった。これは従来の①授業で基本的なことを伝え、②実践や練習は宿題などの形で各自が行う、という手順を反転することである。つまり、①自宅でITを利用して基本的な知識を身につけ、②授業では実践やディスカッションをする、ということである。

袖ヶ浦高校ではクラウドに保管されている教材や動画を、生徒が家庭であらかじめ視聴することで基本的なことを学んでおき、それをベースに、教室でディスカッションしたり、発展的な課題に取り組むという学習の進め方ができるようになってきた。これにより、教室に“集まって”行う授業の意味がますます深まった。

「よく、ITを入れて生徒と向き合う時間があるのか、と言われるのですが、逆です。生徒と向き合う時間は増えました。

朝も、教師の朝礼で決まった事務連絡をTwitterで生徒にどんどん流すので、ホームルームは事務連絡に時間を割かなくてよくなりました。ITを活用すれば、生徒とコミュニケーションをとる時間は増えるんです」

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