J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年11月号

CASE.1 小倉第一病院 高いITリテラシーを基盤に自分たちでつくり、自分たちで学ぶ 基本情報現場に溶け込むモバイルラーニング

福岡県北九州市にある医療法人真鶴会小倉第一病院は、医療業界でいち早く、2004年より職員教育にeラーニングを導入した。さらに2009年からは新入職員全員にモバイル端末を配付、モバイルラーニングの実践を通じて、職員の学習意欲向上などの効果を生んでいる。これからの企業教育のあり方や、企業におけるモバイルラーニング推進に際してのヒントを学ぶべく、モバイルラーニング先進事例を取材した。

中村 秀敏 氏
小倉第一病院 副理事長 兼 院長
隈本 寿一氏
純真学園大学 保健医療学部 医療工学科 特任講師 (元 小倉第一病院 MIT部長)

小倉第一病院
福岡県北九州市。1972年12月開院。診療科目は、腎臓内科、糖尿病内科、人工透析内科、内分泌内科、リウマチ科で、血液透析・腎臓病・糖尿病が専門。入院許可病床数:80床。職員数:119名。

[取材・文]=高橋テツヤ(又隠舎) [写真・イラスト提供]=小倉第一病院 [写真]=本誌編集部

小倉第一病院( 北九州市)は、1972 年12月に開院、血液透析・腎臓病・糖尿病を専門とする病院で、職員数は119 名である。パイオニア的なeラーニングの導入活用で、日本e-Learning大賞・審査委員特別優秀賞を受賞(2005 年)した他、北九州市から「子育てしやすい環境作りを進める企業・団体等表彰の市長賞」(2006 年)、「ワークライフバランス表彰市長賞」(2008年)などの表彰を受けるなど、人材教育と魅力的な職場づくりに力を入れていることで知られている。

● 背景見て盗むよりも確実な学習を

かねてから新人看護師の育成は、プリセプター制度といわれる、マンツーマンのOJT 制度を通じて行われていた。しかしながら、伝統的な医療現場には、教える側に「見て盗むもの」という意識があったり、一刻を争う中で丁寧な指導ができなかったり、学ぶ側も納得できるまで質問することが難しい場面があった。たとえば医師の手技の介助1つをとっても、その手順は込み入っているうえに、病院ごとの決まりがあるなど暗黙知的なノウハウも含まれる。患者の状態によって、いつどの看護師が、その介助をやらねばならないかもわからないため、全員がOJTで覚えていくには時間がかかる。

また、夜勤や交代勤務のある職場であるため、全員が集まっての勉強会も不可能である。ワークライフバランスにも配慮した、柔軟な研修方法が求められる中、2002年頃から、eラーニング導入が検討されるようになったのである。

といっても、医療者のためのeラーニングコンテンツが市販されているわけではない。当時すでに病院内に導入されていたイントラネットで、点滴の手順や、血圧低下時の対処法といったマニュアルが公開・共有されていた。そこで、このマニュアルをベースにeラーニングコンテンツを作成していこうという方針のもと、まずは看護師3名、臨床工学技士3 名から成るプロジェクトチームが結成され、コンテンツづくりが始まった。

目標は、2004 年度の新入職員を迎えるまでにeラーニングを導入すること。LMS(学習管理システム)とハードウェア込みの予算は100万円とされた。

● コンテンツづくりのポイント試行錯誤でルールづくり

コンテンツを作成することにしたとはいっても、医療現場でのeラーニングの実践など、まさに前例のない取り組みであり、当初は何をどんなふうに作ればよいのか、全くわからない状態であった。当時MIT(MedicalInformation Technology)を担当していた隈本氏は「試行錯誤の連続で、9 割は失敗だった」と語っている。

大きな失敗は、コンテンツを作っても、職員に読んでもらえなかったこと。そこで、写真やイラストを多用してグラフィカルに作成するように工夫を重ね、コンテンツのフォーマットを試行錯誤しながら少しずつ固めてきた。今では、フォーマットがあることで誰でも教材をつくることができるようになっている。

「何のコンテンツを誰が誰のためにつくるのかについても、最初は定まりませんでした。『新人がほしがっているコンテンツ』『教育担当者が学ばせたいコンテンツ』『看護部長が学ばせたいコンテンツ』がなかなか一致しないこともありました。

しかしさまざまな試みをやってみると、上から押しつけられたコンテンツや、ベテランが作成したコンテンツの受講率はあまり上がらない。それよりはむしろ、たとえつたない内容であっても、まだ勉強中の若手看護師が作成する具体的で実践的なコンテンツが、新入職員によく読まれるということがわかりました。こうして、この分野のニーズが高いということが理解できるようになってきたのです」(隈本氏)

このように試行を繰り返しながら、「2 ~ 3 年目の看護師が、新入職員向けにコンテンツを作成する」という現在の仕組みが形作られていくこととなったのである。

コンテンツのフォーマットを、「胃管カテーテルの挿入」(次ページ参照)を例に説明していこう。

テキストは全部で20 枚ある。最初にカテーテル挿入の目的を明記し、必要備品を写真入りで全て紹介する(使用する薬や備品が変わったらその都度変更する)。

次に、全体の手順を簡単に説明。その後に、具体的なやり方を、一手順につき1枚で説明していく。その際、なぜその動作がいるのかという理由と、暗黙知的なノウハウやコツ(たとえば教科書には「カテーテルを鼻腔から挿入します」とだけ書かれることでも、「鼻粘膜を傷つける恐れがあるので、力を入れ過ぎない」といったコツを書くことで作業がしやすくなる)といったことも含めて、実際の作業写真を添えて丁寧に書き出してある。

胃管カテーテル挿入という手技自体は、看護学校で教わりはするが、実際に現場で行っている手順で学ぶことがわかりやすいのだという。

小倉第一病院では、このような自作のコンテンツをこれまでに30 本ほど蓄積してきた。

コンテンツ自作を推進していくポイントは3つある、と中村氏は語る。

まず、コンテンツ作成のフォーマットを決めること。「写真を添えて手順を明記する」「ちょっとしたコツを添える」といった記述ルールに加え、フォントなどのデザイン面でもルールを作り、作成者が誰でも、迷うことなくコンテンツを作成できるようになっている。

次に、看護師が現場から離れてコンテンツ作成に専念できる時間を確保したこと。月1回程度とはいえ、現場の仕事をせずに、教材作成に専念できる日をしっかり取ったことが、功を奏した。

そして、最後に写真の撮り方を指導したり、イラストも使えるようにしたことだ。小倉第一病院には、イラスト見本が入ったファイルが何冊もある。

「実は看護師の中にイラストレーターである松井真理子さんがいます。松井さんが作成した、理事長の飼い犬をモチーフにしたマスコットキャラクターのハッピーや、職員の似顔絵などのテンプレートを、コンテンツ作成時に自由に使えるようにしたのです。松井さんは看護師ですから、病気に関するイラストでも細かいこちらのリクエストにも応えてくれます。イラストが入ることで、教材づくりも、ぐっと楽しくなるようで、みんなよく使っています」(中村氏)

小倉第一病院では2009年からiPodtouch、2011年からはiPad2、2013 年はiPad miniを新入職員全員に配付することとなった。院内の一部にはWi-Fi環境が導入・整備された。

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