J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年11月号

OPINION 2 メディアに規定される思考 デメリットの把握がより良いeラーニング活用に

「いつでも、どこでも、何度でも」。そのアクセス性や双方向性の高さから、手軽に利用されるようになったeラーニング。企業教育を大きく飛躍させる可能性がある一方で、Webでの学びにはネットならではの課題もある。その長短を知ることで、eラーニングを真に活用することができるのだ。

仲林 清( なかばやし きよし)氏
千葉工業大学 情報科学部 情報ネットワーク学科 教授
日本電信電話で、並列処理プロセッサ、文字認識システム、教育支援システムなどの研究開発に従事したのち、NTTレゾナントでeラーニングサービスの開発運営に従事。放送大学ITC活用・遠隔教育センター教授を経て現職。

[取材・文]=西川敦子 [写真]=本誌編集部

便利さの裏に危険もeラーニングの罠

──eラーニングによって、学習の機会はどんどん広がりつつあります。さまざまな教育現場や企業で、いつでもどこでも、しかも何回でも学べる環境が整ってきました。

仲林

好例は何といっても小倉第一病院(46 ページ)の事例です。看護師などの人手不足が著しい医療業界では、人材育成が火急の問題となっています。また、その他職種を含め、医療機関で働く人々の就業時間帯はまちまち。そのうえ常時、不測の事態に備えねばならない。当然ながら一斉研修を実施するのは困難です。

そこで同病院では、全職員を対象に業務内容を学べるeラーニングコースを導入しました。短時間で学習できる内容を工夫するなどした結果、自主的に受講する職員が増えたそう。さらに、2009 年からは新入職員全員にiPadを配付。モバイル・ラーニングを開始しています。

このケースからもわかるように、eラーニングの最大の強みはアクセス性の高さ。いつでもどこでも、さらに何度でも、学習することができます。

──教育を提供する側からの働きかけも可能になっているのでは。

仲林

双方向性も大きな強み。「どの学習者がどのくらい進歩したか?」「この学習者の得意分野、不得意分野は?」「今、何を勉強しているか」。

CD-ROMの教材で勉強していた時代にはありえなかった「受講者の顔が見える教育」が実現できるようになりました。受講履歴から学習進度や熱意などを汲み取ることができ、キャリア支援、タレントマネジメントに結びつけることも可能です。

逆に学習者がグループウェアで、講師に質問や要望を投げかけることもできる。グループウェアで学習者同士がつながり、励まし合うなど切磋琢磨できる時代になりました。

好例が大学受験生向けのサイト「m マナビーanavee」(図表1)です。現役大学生の講義を無料動画で配信しています。仲間とコメントのやり取りなどを楽しみながら受験勉強ができる仕組みです。

このようにモバイルやSNSの普及、浸透で、eラーニングはさらなる進化を遂げようとしています。

特に近年、注目されている手法が「ゲーミフィケーション」。人を夢中にさせるゲームの要素をマーケティング手法として活用するものです。最近では企業の宣伝活動のみならず、人材開発・育成や、教育分野にも導入されつつあります。

──企業の人材開発においても参考になりそうです。

仲林

そうですね。ただ、企業は、ITの活用には懸念すべき点があることを知っておくことも重要です。

カナダ出身の英文学者、文明批評家、ハーバート・マーシャル・マクルーハンはITメディアの広がりについて、次のように警鐘を鳴らしています。

「(メディアについて)重要なのは使い方だ、という考えは、テクノロジーをまるでわかっていない鈍感なスタンスである」

「(テクノロジーは)知覚パターンを着実に、いささかの抵抗に出会うこともなしに変化させていく」

実際、今年2013 年8月に厚生労働省の研究班が、インターネットに病的に執着してしまう「スマホ依存症」(図表2)の中高生は52 万人に上るという調査結果を発表しました。

── なぜ私たちは、これほどまでにインターネットに惹きつけられ、なおかつ翻弄されるのでしょう。

仲林

第一の理由は、インターネット特有の五感に訴える表現性。

ネットにアクセスしている間、我々の脳の視覚野や聴覚野は絶え間ないインプットにさらされます。絶えず配置の変わるテキスト、写真、動画、ポップアップ広告、ウインドウに、全感覚が占有されてしまうのです。

SNSに代表される双方向性にも罠が潜んでいます。FacebookやTwitterで、友人やフォロワーとのつながりが強まったり増えたりするのは誰しも楽しい。しかし、投稿やつぶやきによって得られる反応に、人は自分でも知らぬ間にとらわれてしまいます。

その結果、他人の反応を得るためにひたすら発信を続けてしまうのです。あたかも、餌を得るためレバーを押し続ける“実験用ラット”のように。

これが行き過ぎると、思考が短絡的になり、物事の深い理解や、クリエイティブな思考が妨げられます。

インターネットは反応による報酬(快楽)を即座に伝達する、ある意味、危険な側面も持ち合わせているのです。

20秒で忘れられる?インターネットの学習内容

──ソーシャルゲームはまさにこの心理システムを最大限に活用したメディアですね。

仲林

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