J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年12月号

~人は「育てる」べきか「育つ」のか~ これからの企業内育成を考える 人事座談会

近年のビジネス環境の急速な変化を受けて、人材開発の考え方や仕組みを見直す企業は多いようだ。そうした中、7社の人事・人材開発担当者に、その根本となる問い――人は「育てる」ものか、「育つ」ものなのか――を投げかけた。結果、この問いの答えを考えることは、人が育つ要因や、それを阻害する社内外の要因、そして、昨今の人材開発に関する課題について議論するということであった。記念すべき300号の第2特集として、2013年9月5日と12日の2日にわたり行われた人事座談会のエッセンスを紹介する。

Day.1(2013年9月5日)
【参加者】
佐藤一直(さとう かずなお)氏
● 内田洋行
管理本部 人事部 人事企画課 課長
赤津恵美子(あかつ えみこ)氏
● 日本オラクル
人事本部 人材・組織開発部
シニアディレクター
鈴木 明(すずき あきら)氏
● 三菱マテリアル
人財開発センター 所長
庭田 平(にわた たいら)氏
● ピジョン
人事総務本部 人事総務部
人事グループ マネージャー

【司 会】
日本能率協会マネジメントセンター
山田 学氏

Day.2(2013年9月12日)
【参加者】
加藤庄司(かとう しょうじ)氏
● 東京エレクトロン
人材開発センター 主事
中村満美(なかむら まみ)氏
● ブリストル・マイヤーズ
人事総務部門 タレントマネジメント シニアマネジャー
信夫ふみ(しのぶ ふみ)氏
● エイチ・アイ・エス
本社人事本部 人事グループ
人財開発チーム チームリーダー

【司 会】
日本能率協会マネジメントセンター
野本敦史氏
[取材・文・写真]=井戸沼尚也、増田忠英

Day.1(2013年9月5日)

Day .1では、「育つ」「育てる」というキーワードを中心に、そのための環境整備や、逆に阻害要因となるものなどについて意見交換がなされた。それぞれの企業が抱える課題や、行っている取り組みについて、話は尽きなかった。

「育てる」時代から「育つ」時代へ

──人は「育てる」ものなのか、「育つ」ものなのか──根本的なテーマになりますが、皆さんの会社の状況やお考えはいかがですか?

赤津(日本オラクル)

以前は「育てる」だったと思います。しかし、受け身で研修に参加しても身につきません。居眠りや内職も散見されましたし。また、「良い研修だった」で終わってしまい、学んだことが実践されないと意味がありません。受講者本人が「この研修に参加して、ぜひ○○を身につけたい」という切実感を持って研修に参加することが必要です。

この切実感を醸成するために数年前に導入されたIDP(インディビジュアル・デベロップメント・プラン)が役立っています。目標を実現するために必要な能力と、それをどのような方法で身につけるかについて、社員がシートに記入し、上司と話し合いのうえ合意します。また、学んだことを確実に実践するために、実際に使う場も用意します。こうすると、なぜこれを学ぶ必要があるのかが腑に落ち、実践の度合いがモニターされるので、上司の支援も得やすくなります。

庭田(ピジョン)

若手のほうが、学ぶ意欲は高いように感じます。当社の場合、当初グローバル研修に限ってですが40 歳以上を対象から外しました。「誰に投資するか?」を全社員のTOEICスコアをもとに検討し、費用対効果を考えた結果です。

人は「育てる」のか「育つ」のかという意味では、優秀な人材はどこにいても「育つ」とも考えられますが、適材適所の配置を行うことによって、より人は「育つ」という実感が私にはあります。

佐藤(内田洋行)

当社では約40 年前からMBOを行っていますが、なかなか単年度以上のスパンで部下を見られなかったり、処遇連動のため、どうしても会社主導になってしまったりします。そうするとやらされ感が徐々に出てくるので、一部の技術職に、3年スパンでキャリア開発に取り組む「キャリア・デベロップメント・プログラム」を導入しました。

どのタイミングでどの研修を受け、どういうスキルを身につけて、どういう規模感のプロジェクトに携わるかということを3年スパンで計画して、それを半年ごとに見直し、常に3年後の目標を立てていきます。これを始めてから、技術者の資格取得に対する意欲がかなり上がった印象があります。

きっかけがないと自ら学ばない?

── 各社工夫をされているのは、自ら学んでもらうにはやはりきっかけが必要ということでしょうか?

赤津

いつも会社から働きかけなければならない、ということはありません。当社では、社内SNSや自主的な勉強会も盛んです。

鈴木(三菱マテリアル)

「育てる」必要があるのは、どんなに長く見ても入社から10 年ほどまででしょう。入社後5~6年程度で一人前の社員になってほしいと思いますが……。まずは会社が「この人はこう育てたい」と考えて育てますが、どこかの段階で本人に、自ら育つことの必要性に気づかせなければならない。そのための仕掛けをつくるのが会社の役割だと思います。それが日常現場で行うOJT教育であるとともに、階層別研修や目的別研修などの研修機会を与えることだと思います。ですから、一人ひとりが育つ方向に進めるよう、できるだけ短期間に会社がいろいろな仕掛けを設けることが重要だと思います。

── ピジョンさんは、グローバル研修では40歳で線引きされていましたね。

庭田

はい。ただ、会社が「毎年全員TOEICを受けてください」と言ったら、年齢に関係なく、みんな英語を勉強し始めました。そういう意味ではきっかけは大事だと思います。

佐藤

当社の場合は、人の違いが鮮明になり始める時期である3年目までは会社主導で育てています。その後は“勝手に育つ人”が増えるといいなと考えています。

赤津

当社ではあまり年齢や年次では線を引きませんが、トップタレントには、より多くの教育の機会やチャレンジングな役割を与えます。

佐藤

そういう意味では当社も選抜型で機会を提供します。その人にロールモデルになってほしいという期待があるからです。30 代後半で最初に選抜されたメンバーはいわゆる「ジュニアボード」として、5人ずつ、2チームに分かれて事業を提案し、優秀な提案は事業化が検討されます。ただ、どんな研修でもそうですが、終わった後どうフォローして、学んだことを活かすよう本人に自覚させるか。そのことのほうが、研修の内容よりも大事だと思います。

育つ環境を阻害する要因とは

── 人が育つには環境も大事ですが、成長を阻害する要因になっていると感じることはありますか?

鈴木

おそらく、価値観の変化のスピードがものすごく速いこともあり、新入社員の専門的な能力が低下していると感じます。大学でも、かつては1から10まで学んだものですが、今は1から5までしか学んでこない。当社では、技術的専門領域や人間的能力をカバーするために、4年ほど前から若手社員教育を組織的に行うようになりました。

赤津

最近の新卒社員は、良い意味でも悪い意味でも、「仲良し」が好きで、自分だけが違う選択をしたり、突き抜けたりすることを嫌う傾向があります。ですが、「会社では、ユニークなのは良いこと。たとえば、他社と同じことをしてもお客様には選ばれない。だから、これからどう差別化するかを考えて行動してください」と伝えると、すぐ変わります。挨拶も基本を教えると、次の日からきちんとしている。それほど柔軟性のある人たちなので、受け入れ側の責任は重大だと感じます。

庭田

ずっと採用にかかわっていますが、ゆとり世代は、執着するところが地位や名誉やお金ではないと特に感じます。震災のボランティアに行くという話もよく聞きますし、いい子なんですよね。その性質をゆとり教育の1つの成果と見るべきか、それではビジネスの環境では戦えないと見るべきかはわかりませんが。

職場環境の阻害要因

── 職場環境にある阻害要因についてはいかがですか?

庭田

どの会社でもそうだと思いますが、中間管理職、特に課長職が忙しくなり過ぎて構ってやれないことは、非常に大きいと思います。

鈴木

実際、本人たちが学びたいと思わなければ育たないと思うんですが、特に、もう昇格の見込みがないとあきらめていた上司が仮にいた場合に、そうしたベテランの学ぶ意欲の低下と、そのことが組織に与える影響は、今後、より大きな問題になってくると思います。

赤津

「長時間労働」も、学びを阻害する要因の1つだと思います。海外では、会社に勤めながらMBAや学位を取る人がたくさんいます。欧米は長期休暇がしっかり取れますが、実はその期間で勉強していることも多い。アフターファイブは個人の時間なので、早く帰っても別に何も言われません。

一方、日本ではまだ早く帰りにくい雰囲気があると思います。会社が全社員の個々のニーズや習熟度に合った研修をタイムリーに提供することは困難なので、「自ら必要な勉強をする」というスタイルに変わる必要があります。また、自分で主体的に学ぶことが、内容の習得にも好影響を与えます。ですから、働き方を変えることは非常に意味のあることだと思います。

庭田

当社では震災後、それまでの20 時退社ルールを19 時には完全退出に改め、徹底しています。そうしたら学ぶ人が増えました。

赤津

19 時退出でも会社のパフォーマンスは落ちないわけですよね。

庭田

そうですね。17 時や18 時以降というのは、どうしても仕事のパフォーマンスが下がりますから。

グローバル化の育成への影響

── グローバル化の育成への影響についてはいかがですか?

鈴木

グローバル研修の受講者のアンケートを見ると、全員が将来海外で勤務したいわけではないようです。半分は海外で勤務してもいいと回答しますが、あとの半分は国内で海外の仕事に携わりたいという。海外に行きたくないという社員もいます。今後、特に若い世代はグローバル思考を持って、グローバルに活躍しなければならないのに、そのことを正しく捉えられていないように感じます。

庭田

当社が経営からのメッセージとして最近強く押し出しているのは、「仕事のできる人は頼むから英語を話せるようになってくれ」ということ。語学ありきではなく、仕事ができることがより重要なんですね。

鈴木

現地で活躍できる人の特徴として、まずは、現地の人と話す機会を自ら多く持つこと、そして、異文化をよく理解していること、また、文化的習慣をよく知っている“したたかさ”があること、が挙げられます。ノンバーバルなコミュニケーションでもいい、相手のふところに飛び込んでいく勇気が必要だと思います。また、家族ぐるみの付き合いが必要な国では、その国の習慣に従うという謙虚さと思考の柔軟さが大切ではないでしょうか。

赤津

私の上司は、2年前までは日本の人事部長だったのですが、現在はグローバル・レポートライン(本社の直属組織)になり、上司はオーストラリア人になりました。電話会議も多いので、英語でのコミュニケーション力が求められます。相手の話をよく聞き、相手や会社の状況をよく理解したうえで、こちらが主張したいことをきちんと説明したり、役立つ情報を提供することが大事です。継続的な実践が力になるので、会議で必ず1回は発言するなどのルールを自分や自チームに課して努力しています。

人は「育てる」ものか「育つ」ものか

── では最後に改めてお聞きします。人は「育てる」ものでしょうか、「育つ」ものでしょうか。

庭田

圧倒的に「育つ」だと思います。場を与えることで人は育つ。特に、いわゆる修羅場を若いうちに経験させることが大事だと思います。

鈴木

私は、ある年代までは育てなければならないと思いますが、きっかけを与えたり、あるいは動機づけをすれば、その後は自然に育つものだと思います。教育体系も、そういう観点でつくり上げていく必要があるのではないでしょうか。

赤津

私も基礎的なところは育ててあげることが大事だと思いますが、社会人人生はずっと学びですよね。会社が全て面倒を見ることは無理なので、個々人が「自ら育つ」という気持ちを持つ必要があると思います。ただ一方で、環境の変化が激しいので、今までのやり方では難しい状況── グローバル化によって環境が激変するような場合──もあると思います。そうした場合には、会社の援助が必要になるでしょう。

佐藤

育てる意識は必要だと思いますが、会社がずっと育て続けることはできませんから、結局は、どうやって育つ環境をつくることができるか、だと思います。

環境変化も激しいですが、一方で変わらないものも間違いなくある。たとえば環境変化に合わせて「自ら変わる力」というのは、昔から不変の基礎能力でしょう。「昔からこういう人が伸びるよね」とか「こういう力が結局は必要だよね」というもの── それが何なのかを今、社内で考え直しているところです。

仕掛けとして新しいものは必要です。しかし我々の仕事とは、結局、人が育つ環境の根本は昔から同じで、それをどう実現するかということを、ずっと考え続けていくということなのだと思います。

【参加者】

佐藤 一直 氏/内田洋行 管理本部 人事部 人事企画課 課長

入社13年目。システム開発部門を経て2003年より人事部、2013年より現職。人材育成から評価、処遇など全社をまたぐ人事制度全般の企画、運営を担当。[企業情報]創業103周年の老舗商社。「教育」「情報」「オフィス」の事業分野を柱とし、「ChangeWorking」で顧客価値創造に取り組む。1910年創業、1941年設立。従業員数:3,007名(連結、2013年7月20日現在)

赤津 恵美子 氏/日本オラクル 人事本部 人材・組織開発部 シニアディレクター

人事制度企画、採用、企業風土改善、人事ビジネスパートナー、ダイバーシティ&インクルージョンなど多彩な経験を有し、現在は人材育成や組織活性化に取り組む。[企業情報]米オラクルの日本法人として設立。事業活動の基盤となる情報システム構築のためのソフトウェア・ハードウェア製品、サービス、ソリューション等を提供。1985年設立。従業員数:2,497名(2013年5月31日現在)

鈴木 明 氏/三菱マテリアル 人財開発センター 所長

入社以来人事教育関連業務を担当。現在、階層別研修をはじめ人財育成を目的にした各種研修を企画、立案、実施等を行う部門の統括責任者。[企業情報]100社を優に超えるグループ会社で構成される三菱グループの大手非鉄金属メーカー。1871年創業、1950年設立。従業員数:連結22,181名、単体4,168名(2013年3月末現在)

庭田 平 氏/ピジョン 人事総務本部 人事総務部 人事グループ マネージャー

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