J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年12月号

CASE.3 キヤノン 実務家が語る③ 評価制度の説明や企業DNAの再確認で、個人と組織の関係を強化してきた20年

戦後間もない時期から、「公平・公正」という考え方を根底に据え、実力主義をうたってきたキヤノン。バブル崩壊後の低成長期にあっても、明確な経営方針のもと、成果とプロセスを評価する「役割給」制度の導入をはじめ、時代に即した先進的な制度を構築・運用してきた20年を振り返る。

大野 和人 氏 取締役 人事本部長

キヤノン
1937年設立。独自のイメージング技術により、カメラ、複合機などのオフィス機器、産業機器などの分野で事業を展開。
資本金:1,747億6,200万円(2012年12月31日現在)、売上高:単独2兆1,134億円・連結3兆4,798億円(2012年12月決算)、従業員数:単独2万5,696名、連結19万6,968名(2012年12月31日現在)

[取材・文]=増田忠英 [写真]=キヤノン提供、浦上毅郎

● 背景(1963年~2000年)職能資格制度の導入と限界

1933 年、アパートの一室で、当時まだ存在しなかった日本製の高級カメラを開発する小さな研究所からスタートしたキヤノン(本社:東京都大田区)。創業時からの企業DNAである「人間尊重」「技術優先」「進取の気性」を脈々と受け継ぎ、世界的な精密・電気機器メーカーへと発展を遂げた。

人事制度においては、戦後間もない時期から職員(ホワイトカラー)と工員(ブルーカラー)という分け方をなくし、「公平・公正」という考え方を根底に据えてきた。その考えが制度として明確に反映されたのが、1963 年に導入した職能資格制度である。取締役 人事本部長の大野和人氏はこう語る。

「性別や学歴などにかかわりなく、その人の仕事と能力によって評価・処遇する仕組みであり、我々は『実力主義』の制度とうたっていました。職能資格制度は、人の成長や日本的な長期雇用、また当時の高度成長期の企業の成長にも非常にマッチした制度だったといえます」

1950 年代から海外展開に着手し、事業の多角化を進め、世界初の製品を次々と生み出すなど発展を続けてきた同社だったが、さすがにバブル経済崩壊後の1990 年代半ば、その成長にもブレーキがかかった。新卒採用の数も大幅に削減する中で、90 年代の終わり頃には「職能資格制度の理念と実態の整合性がとれなくなってきた」と大野氏は言う。

「職能資格制度では、社員の職務遂行能力に応じて各等級に当てはめ、かつ各等級に見合った仕事や役職に就かせる必要があります。ところが、企業の成長が止まると社員の数も増えなくなりますから、組織やポジションの数にもブレーキがかかります。一方で社員の能力の伸長は続くわけですから、等級に仕事や役職が追いつかなくなってしまうわけです。つまり、能力と仕事、賃金と仕事のアンマッチが起こってしまいます。そこで、21世紀に向けて新しい賃金体系を検討することになりました」

● 転換期(2001年~2005年)成果とプロセスを評価する「役割給」制度を導入

1990 年代後半、日本では新たな人事評価の仕組みとして「成果主義」の考え方が広がったが、同社ではそれをそのまま取り入れることはなかった。

「新しい賃金体系を検討するうえで、我々が前提としたのは長期雇用でした。日本においては、人は1つの企業の中で育っていくという状況は変わらないだろうと考えたのです。その場合、短期的な成果だけでなく、中期的に成果を再現させるためにはプロセスを評価することも大切です。その前提に立って採用したのが『役割給』制度でした」

役割給とは、仕事の内容を示す職務と、仕事の責任の度合いを示す職責の2つから報酬を決める制度である。

「我々は職能資格制度の頃から実力主義を重視しており、仕事の結果を評価するという意味では成果主義といえますが、それに加えてプロセスも評価してきました。役割給も同様で、仕事の結果とプロセスの両方で評価するという点では従来と変わりません。従来と異なるのは、評価と報酬にメリハリをつけたことです。高い評価を得た人には、従来以上に高い報酬を与えることにより、実力主義をより具現化する形で制度を設計したのです。たとえば、同じ課長職でも職歴年数と評価によって年収に最大で1.5倍の開きがあるようにしました。これにより、組織の成長の変化に柔軟に対応できる制度になったと考えています」

役割給制度は、2001年に管理職を対象に導入され、2005年には一般社員にまで拡大され、現在に至っている。

● 制度の定着(2005年~現在)正しい運用のため全社員への研修を徹底

役割給を導入するうえで最も重視したのが、社員に対する制度の正しい理解と運用の徹底だ。そのために、約5,000人の全管理職に評価者研修「ALP(Active Leader’s Program)研修」、約2万人の全一般社員には被評価者研修「MAP(My Action Program)研修」(いずれも1泊2日)を2007年まで行い、制度の定着を図った。1回の研修は40~ 50人規模で行うため、500回程度実施したことになる。これらを全て社内講師で実施した。

しかも、この研修は2013年度に再開され、上半期に管理職のうち約3,000人、下半期には一般社員のうち約2万人を対象に実施された(1日研修)。このタイミングで再開された理由は、労働組合が行った組合員の意識調査において「人事評価の納得性をもっと高めてほしい」という要望が上がったためだ。とはいえ、評価については組合員の約7割が納得しているという。

「7割は必ずしも低くはないと思いますが、割合をさらに高めようと、8割超えを目標に労使で一緒に取り組んでいます」

この制度は、期初に上司と部下との間で目標を決め、7月に中間面接で振り返りを行い、期末(12月)の面接で1年間を振り返り、評価を決定して翌年度の処遇に反映する。評価に納得するには、この一連のプロセスが大事だという。評価が低くても納得する人はたくさんいる。

「1年間を通して、部下の仕事に対して上司がきちんと指示をし、確認し、適切なアドバイスをする。こうした関係がしっかりとできていれば、たとえ評価は高くなくても納得度が高いという調査結果が出ています。したがって、制度の納得性を高めるには、上司と部下との間で仕事のPDCAサイクルをしっかりと回せているかどうかが大事だといえます」

全社員を対象とした研修を徹底することによって、役割給制度への理解と納得性を高めているのである。

同社がALP・MAP研修をここまで徹底するのは、実は役割給制度の定着以外にも理由がある。

近年、OJTや職場での育成が機能しにくくなっているという声が多く聞かれるが、ALP研修やMAP研修の実施はそれを防ぎ、職場での育成支援にも役立つと考えられているのだ。

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