J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年12月号

OPINION 1 識者が振り返る人事管理の20年 進む多様化、グローバル化――解決のカギは「仕事と役割」にあり

過去20年の間、企業の人事管理において進んだのは「成果主義」だった。一方、働き手の多様化が進み、外部環境ではグローバル化の波が押し寄せた。伝統的な人事管理が機能不全に陥る中、解決の糸口を模索し続けた日本企業。日本企業独自の良さを生かしながら、変化の激しい時代に適応するには――学習院大学 経済学部 経営学科 今野浩一郎教授に聞いた。

今野浩一郎(いまの こういちろう)氏
学習院大学 経済学部 経営学科 教授
1946年東京生まれ。1971年、東京工業大学理工学部経営工学科卒業。1973年、同大学大学院理工学研究科(経営工学専攻)修士課程修了、同年、神奈川大学工学部助手。東京学芸大学教育学部講師、同大学助教授を経て現職。主な著書に『能力開発と自己啓発』(日本労働研究機構)、『人事管理入門(共著)』『勝ちぬく賃金改革』(共に日本経済新聞社)『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社)などがある。

[取材・文]=西川敦子 [写真]=本誌編集部

引き返せない成果主義の道

──人事管理をめぐるこの20年間の変化とは。

今野

すでに1980 年代、日本的経営は繁栄の陰で変革を迫られつつありました。高度経済成長が終焉を迎え、規模を拡大することが難しい時代になったことがその背景にありますが、それと共に国際競争の激化の中、経営の高付加価値化を進めなければならないことや、市場の不確実性が増す中で、市場の変化に柔軟に対応できる経営体質をつくらねばならないということがありました。そのおかげで、従来の年功制は企業にとって負担となる制度になってしまいました。高齢化が進んだことが、それに拍車をかけています。また有期契約などの周辺社員を増やす企業が相次ぎ、それまでの正社員中心だった雇用ポートフォリオは変化していきました。

さらに最近では、国内市場に固執していたのでは成長に限界があることから経営のグローバル化が急速に進み、国際的に活躍する社員の育成、処遇も問題になっています。

このように、人事管理は常に歴史の制約を受けるもの。かつてうまく回っていた仕組みが機能不全に陥るのは当然のことでしょう。そこで導入されたのが仕事と成果を重視する「成果主義」です。

──成果主義が日本になじむはずがない、といった批判もありましたが。

今野

もちろん、初めから完璧な制度など存在しません。トライ&エラーを繰り返しながら改善していくしかない。よく指摘される「行き過ぎ」というのも、試行錯誤の範疇といえるのではないでしょうか。仕事に基軸を置く人事管理を行う米国企業も、試行錯誤を重ねて現状にたどり着いたといういきさつがあります。

1980 年代までの米国は、かつての日本と同様、巨大な国内市場を相手に牧歌的な人事管理を行っていました。ところが、やがて競争が激化し始め、株主価値が重視され、IT化も進みました。組織形態が市場や製品に基づいて変貌し、人事管理に市場原理が組み込まれるようになったのは当然の流れかもしれません。

1980 年代以前の、極端な職務の細分化も見直されました。かつての米国企業では、職務給が40 階級に分かれているといったところもザラだったのです。ところが市場が急スピードで変化し始めると、各人が決められた狭い範囲の仕事しかしない仕組みでは、とうてい対応できなくなります。そこで職務給の階級をぐっと減らし、一人ひとりの職務の幅を広げたのです。これがよく知られている「ブロード・バンディング」です。

そうなると、職務は同じでも能力で賃金に差が出ることになります。そこで日本でいう職能給的要素を取り入れた結果、現在の人事管理にたどり着いたのです。

日本も米国もグローバル化や市場の変化に対応しようと、人事管理の改革を進めてきました。この潮流は歴史の必然でしょう。景気が改善したとしても、もはや後戻りはできません。

多様化と公平性のバランスを取る

── 一方、働き手の変化とは。

今野

最大の変化は「社員の多様化」です。冒頭に申し上げたように、企業は正社員を減らす代わりに周辺労働力を増やしてきました。

パート社員や契約社員がそれで、同じ職場に正社員と混在している状態です。かつては正社員と職域が分かれていましたが、今は同じような仕事をしているケースが多く見られます。今増えている、定年後に再雇用されたシニア人材についても、同じような状況です。

正社員の中でも「多様化」が進んでいます。正社員というと、転勤や労働時間をいとわない「無制約社員」型の男性正社員が典型でした。しかし、今では、家事や育児で転勤等の難しい「制約社員」型の女性社員が増えています。そのうえ、男性正社員を取り巻く状況も変わり、親の介護や自身の病気を抱えていたりする人が増えています。このようにして正社員の中でも「多様化」が進むので、家庭を妻に任せ、仕事に専念していた「無制約社員」型の昔の企業戦士は、マイノリティーになりつつあるのかもしれませんね。

──社員の多様化によって起こった問題とは。

今野

「多様な社員間の公平性をいかに保つか」でしょう。かつては正社員と非正規社員の間はもちろん、同じ正社員でも総合職と一般職は別の存在という扱いがされてきました。

しかし、この仕組みは徐々に変わりつつあります。年功的運用――つまり職能給から、仕事や役割で処遇を決める方向にシフトする企業が増えました。立場はどうであれ、役割や貢献度で評価することで、多様化や高齢化、グローバル化に対応しようとしてきたのです。

総合職と一般職、正社員とパート社員、現役社員と定年後の高齢社員等の間の処遇の均衡が労働法制上も問題になっていますが、これも時代の流れといえるでしょうね。

制度改革に立ちはだかる「若手の社内育成」

──共通の評価尺度は、やはり仕事(役割)と成果ということですね。

今野

ただし、例外もあります。育成中の若手たちです。成長過程にある彼らをマネジメント層と同じように、役割で評価することはできません。

実は、「若手の社内育成」は日本の人事の最大の特徴であり、かつ最大の問題でもあるのです。

若手の育成をどうするかで人事管理の骨組みは大きく変わります。企業がこの役目を放棄すれば、多様な社員を仕事と成果で共通して処遇する方向に、人事管理はダイナミックに進むでしょう。

ところが今のところ、大手企業の多くは「若手の社内育成」の大前提を崩そうとしていません。何といっても社内で教育すれば、その会社に合った人材を効率よく育成できる、と考えられているからです。

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