―「パターン・ランゲージによる対話型組織開発」セミナーレポート―
組織開発をいきいきと動かす「パターン・ランゲージ」のすすめ 井庭 崇氏 慶應義塾大学 総合政策学部 教授
AKI(野口正明)氏 組織開発コンサルタント
井庭 崇氏
2026年7月27日、「パターン・ランゲージによる対話型組織開発」をテーマに、慶應義塾大学教授の井庭崇氏と、組織開発コンサルタントのAKI氏によるオンラインセミナーが開かれた。組織開発を進めようと既存の知恵や方法を活用するとき、しばしば「具体的すぎると他の場面に応用できず、抽象的すぎると実践につながらない」という壁にぶつかる。こうしたジレンマを乗り越える手がかりとして注目したいのが、実践知を活かすための「パターン・ランゲージ」である。ではパターン・ランゲージとはどんなもので、対話型組織開発においてパターン・ランゲージはいかに力を発揮するのだろうか。
[文]=編集部 [写真]=井庭 崇氏、AKI氏提供

対話型組織開発は、診断型組織開発のように現実を1つの客観的な事実として捉え、それを分析によって明らかにしていくものではない。人々の対話によって意味が形成され続ける場として組織を捉える。本稿で扱う組織開発はこの対話型組織開発を指す(以下、読みやすさを考慮し「組織開発」と表記することがある)。
では、その「意味が生まれる対話」は、企業の現場でどう実践しうるのか。多くの実践者が苦労するポイントだが、それには、実践のコツを抽出して共有することができる「パターン・ランゲージ」という方法が効くようである。
セミナーは、パターン・ランゲージの概要を説明しながら、AKI氏による「パターン・ランゲージは対話型組織開発のミッシング・リンクなのではないか」という仮説について考えていった。その後、2人の対話は、パターン・ランゲージを、人の内側に働きかけ、新しい実践を生み出す「生成の型」として捉え直す方向へ進んだ。
本稿では対話から浮かび上がった論点を再構成し、なぜパターン・ランゲージによって組織開発はいきいきと動き得るのかを探る。
1|パターン・ランゲージとは何か

そもそも、パターン・ランゲージとはどんなものなのだろうか。AKI氏は「あるテーマについて熟達者が持つ暗黙知を、背景にある考え方や価値観も含め、他者が理解できる形にまとめた実践知の体系」と説明する。その基本をなすのが「状況(Context)→問題(Problem)→解法(Solution)」という型である。たとえば、プロジェクトが動き始め、メンバーから報告・連絡・相談が寄せられているという「状況」がある。そこですぐに反応しなければ、プロジェクトの進行が滞るだけでなく、発信したメンバーの意欲も下がりかねないという「問題」が起こる。そこでそれに対し、どんなに小さくてもよいので、メンバーからの投げかけには反応を示す、という「解法」を置く(図1)。
単に理念を掲げるのでも、手順を固定するのでもない。どんな状況で何が問題になり、何を大切にするとよいのかを実践可能なまとまりとして言葉にする。さらに、パターン名やイラストを与え、実践の知恵を思い出し、語り、使いやすくする。それをみんなで参照しながら語り合うことで、合意形成や課題解決などに役立てられるものである。
この形式は一見シンプルである。しかし、この「どこまで具体的に書き、どこを使い手に委ねるのか」という設計に、パターン・ランゲージの重要な特徴が隠れている。
2|成功事例でも理論でも届かない「具体と抽象」のジレンマ
AKI氏がパターン・ランゲージに惹かれて学んだ背景には、企業の組織開発を支援するなかで長年抱えてきた悩みがあった。2015年、AKI氏はそれまでの組織開発の実践を1冊の本にまとめようとしていた。ところが、現場で得た知恵を他者に伝えようとすると、2つの壁にぶつかったという。
成功事例として描けば臨場感があり、理解も共感も得やすい。しかし、その実践は、その会社、そのメンバー、その時期という固有の文脈のなかで成立している。「その組織だからできた話ですよね」と受け取られれば、別の現場へは移しにくい。
逆に、個別の文脈をそぎ落として理論や概念にまで抽象化すれば、普遍性は高まる。しかし今度は、「明日から何をすればよいのか」が見えにくくなる。
「具体に閉じると普遍性が失われ、抽象に寄せると実践性が失われる」。AKI氏が突破したかったのは、このジレンマだった。そこで自らの組織開発の秘訣を30のパターンとして整理したところ、知人から「これ、パターン・ランゲージですよね?」と指摘された。それをきっかけに井庭氏の研究を知り、本格的に学び始めたという。
その後、2018年に邦訳された『対話型組織開発』を読み、AKI氏は、自分が現場でやってきたことは対話型組織開発だったと確信する。一方、「では、その新しい意味を異なる現場でどう共有し、実践につなげるのか」という問いは残った。パターン・ランゲージを本格的に学びながら現場での試行錯誤を重ね、2025年末、組織開発コンサルタントとしての20年間の実践をその力を借りて形にしたのが書籍『クリエイティブファシリテーション』である。2015年に直感的に選んだ「パターン」という表現方法が、なぜ組織開発に有効なのか。その問いに、10年越しで1つの答えを示した本ともいえる。その鍵の1つが、「中空の言葉」という考え方だった。
3|絶妙なあいだにある「中空の言葉」
「中空の言葉」とは、具体的すぎず、抽象的すぎない、絶妙な粒度にある言葉を指す。井庭氏がつくった表現である。

