震災からの復興を経て未来を見据える 地域の人的資本経営 戸塚 絵梨子氏 パソナ東北創生 代表取締役社長
戸塚 絵梨子氏
災害は悲劇だが、それを乗り越えようとする過程で、人と人との関係性が、時に強く結び直される。
東日本大震災を経験した岩手県釜石市は、震災以前から人の絆が息づいていたまちだ。その土壌の上に新たな地域づくりが進む。
「地域の人事部」として、人を起点に課題解決を行う戸塚絵梨子氏に、地域の人的資本経営や、自身のリーダーとしての軌跡、釜石に根づく関係性の力について聞いた。
[取材・文]=菊池壯太 [写真]=益子翔太

「地域の人事部」は地域の人的資本経営
―― 貴社は釜石の内外で人と仕事のマッチングをされています。今、取り組まれている「地域の人事部」とは、どのような取り組みなのでしょうか。
戸塚絵梨子氏(以下、敬称略)
「地域の人事部」とはひと言でいうと、地域全体を1つの会社に見立て、その会社の人事部のように人の循環や活躍を支えていこうという取り組みです。もちろん、私たちがすべてを担うわけではなく、行政や商工会議所、市内の金融機関、教育機関、地元企業など、それぞれが持つ役割を生かしながら、一緒に地域の人材戦略を考えていくものです。
「地域の人事部」について、私のなかでしっくりきている表現は、「地域の人的資本経営」です。たとえば採用なら、共同で採用を行うだけではなく、その対象や概念をより幅広く、細かく、長いスパンで見ていきます。たとえば、いったん東京などに転出した後、将来的にUターンして活躍したいと考える人や、インターンに訪れた学生たちが就職した後の育成支援までを考えてみる。現在だけを切り取って考えるのではなく、20年、30年後の未来を見据えて人の流れや人の活躍を考えていくというイメージです。
―― 中長期的に人の流れを捉える。
戸塚
私が釜石に関わり始めた2012年当時、市の人口は3万7,500人ほどだったと記憶しています。それが現在では2万7,000人台になっています。10年ちょっとで1万人もの人口が減ってしまうなかで、担い手不足といった、地域の課題を本質的に、短期間で解決することは難しい。釜石でも震災から時がたつにつれて復興が進みましたが、生活インフラが整ったからこそ「どうやって持続可能な地域をつくるのか」「企業はどう存続し、人々はどう幸せに生きるのか」という、正解のない問いが突きつけられています。目先の課題の解決だけにこだわっていてはいけないという思いを強く持っています。
―― 行政との協力関係も不可欠です。
戸塚
創立以来、私たちは国や釜石市などの行政機関とも様々な連携をしながら歩んできました。たとえば、総務省の地域おこし協力隊の制度を活用し、「こういう人材がもっと増えれば地域の復興や持続可能な地域づくりに寄与できるのではないか」と考えて、ローカルベンチャーの立ち上げを支援しました。また、地域の担い手を育成したり、地元企業の経営者の右腕となるような人材のマッチングをしたりと、いま現在に至るまで試行錯誤を続けております。
同時に自社の事業としては、地元の水産加工業、建設会社など複数企業の課題解決をテーマとした合同企業研修や、大学生インターンシップの受け入れ、専門性を持った人材を地場企業につなぐ副業・兼業マッチングなども行ってきました。
「地域の人事部」は、行政の公共性と、私たち民間企業ならではの柔軟なマッチング力を掛け合わせることで、よりうまく機能するものだと思っています。

