No.03 “怒り”を使った指導では、なぜ人が育たないのか? 益子直美氏 バレーボール元日本代表/公益財団法人日本スポーツ協会 副会長/日本スポーツ少年団 本部長/一般社団法人 監督が怒ってはいけない大会 代表理事|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
人は誰しも指導者になる。
これは講師やマネジャーに限った話ではない。
組織で働く人であれば、一度は人を育て、チームを育む指導的役割を担う機会が訪れる。
本連載では人の成長に寄与し、豊かな成長環境を築くプロ指導者たちに、中原淳教授がインタビュー。
第3回はバレーボール元全日本代表選手で「監督が怒ってはいけない大会」を全国に広めている益子直美さんにお話を伺った。
[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=山下裕之
「監督が怒ってはいけない大会」の始まり
中原
益子さんは「監督が怒ってはいけない大会」を開催し、全国に広める活動をなさっています。きっかけはどのようなことだったのですか?
益子
2015年に福岡の指導者の方から「小学生の大会をやってほしい」という依頼が来たので、お受けしたのがきっかけです。当時から全国で様々な大会が開催されていましたが、どちらかというと有望選手発掘、といったコンセプトのものが多く、監督たちも熱が入るのか、子どもたちがめちゃくちゃ怒られていたんです。せめて私の名前のついた大会では、子どもたちが監督に怒られる姿を見たくない、楽しんでプレーしてほしい、という思いがずっとあり、主催者の方にも賛同いただけたので、試合当日、「今日、監督は怒っちゃだめです」と発表したのが始まりです。
中原
当日に「怒ってはいけない」というルールが発表されたのですね。反発はなかったのですか?
益子
当時はまだ「何バカなことを言ってるんだ」と言われかねない風潮だったので、監督たちからはブーイングでしたが、子どもたちは「やったー!」ととても喜んでくれて。2年目は誰も来てくれないかな? と思ったら、キャンセル待ちが出るほど人気になりました。
中原
「監督が怒ってはいけない大会」では、怒った監督が怒られたりするんでしょうか?
益子
そういうわけではありませんが、私がピンクのTシャツを着て見回り、試合中に怒ってしまった監督には×マークを付けたマスクを渡して着けてもらいます。「参加する子どもが最大限に楽しむこと」「監督(監督・コーチ、保護者)が怒らないこと」「子どもたちも監督もチャレンジすること」が大会の理念。楽しみながらやっているので、決して深刻な感じではなく、笑顔が印象的だった人には「スマイル賞」「スマイル監督賞」が贈られます。
「選手たちが監督に怒られている姿を見たくない」
中原
「監督が怒ってはいけない大会」の原点は、益子さんご自身が現役時代に受けた“怒り”を使った過酷な指導にあるそうですね。
益子
バレーボールの強豪校にいたこともあり、中学、高校時代、監督や先輩から日常的に怒られていました。ぶたれたり叩かれたりしない日の方が少ないくらいで、最高記録は往復ビンタ21発。ただただ怒られないためにやっているような感じで、私にとってバレーは恐怖でしかありませんでした。早く辞めたくて引退することを目標に競技を続けていたと言っても過言ではありません。