第39回 「僕から体操を取ったら僕じゃない」強いチームをつくるため、自分に課していたこと 内村航平氏 元体操競技選手
内村航平氏
個人総合で五輪2連覇、世界大会8連覇を達成した体操界のキング、内村航平氏。
選手のころは「個人より団体で金メダル」の想いを強く持ち、チームマネジメントにも力を入れてきた。
「とにかく体操が大好き」という内村氏が語る体操人生と今後の展望とは。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=中山博敬
日本はやってきたことを出し切れた
―― 昨年開催されたパリ五輪では、体操男子団体で日本が2大会ぶりの金メダルに輝きました。最終種目の鉄棒を前に、1位中国と3.267点差という絶望的な状況からの大逆転! 現地でどう見ていましたか。
内村航平氏(以下、敬称略)
最初は、正直厳しいかなと。そもそもやる前から団体優勝は難しい、3点ぐらい差をつけられるかもしれないと見ていました。実際、リードされたじゃないですか。ただ、鉄棒で2度落下した中国の選手は代表歴が少なく、一昨年の世界選手権でも鉄棒で2度落ちていました。体操で“何か”はめったに起こらないのですが、もし起こるとしたらそこじゃないかと。
結局、日本はやってきたことをそのまま出せたけれど、中国は出し切れなかった。違いはそこだけであり、そこがすべてでした。
―― パリ前年の世界選手権では強化合宿にコーチとして参加し、かなり厳しく指導されたそうですね。
内村
初代表の選手が2人いましたからね。代表の座というのは国内の選考会でミスなくできた人がつかめるわけですが、国内の選考会と世界の舞台はまったく違う。その2人にはまず「代表に選ばれていまはいい気分だと思うけれど、信頼度は0だから」とはっきり伝えました。日本代表は世界一を目指すチームなので、中途半端な気持ちでやってほしくない。甘さが出ますから。
―― 意外です。内村さんというと、そういう精神論とは縁遠いクールなイメージがありました。
内村
いいえ、僕にはむしろ気持ちしかありませんよ。メンタルの強さだけで勝ってきたようなものだし、何よりも体操に誇りを持っているんです。他のどの競技より難しくて、圧倒的にすごいことをやっている。だから、世界一になりたい。もっと多くの人に見てもらいたい。選手はみんなそう思っているはずです。