OPINION1 管理職を“何でも屋”から「高度専門職」に 「管理職になりたい」人を増やすためにすべき4つのこと 田中 聡氏 立教大学 経営学部 准教授
昨今、「管理職になりたくない」人が増えているといわれている。
なぜ、管理職は敬遠されてしまうのか。
「管理職になりたい」人を増やすには、どんなことに取り組めばよいのか。
管理職に関する調査・研究を数多く手掛ける、立教大学経営学部准教授の田中聡氏に聞いた。
[取材・文]=増田忠英 [写真]=田中 聡氏提供
管理職の「専門性」が見えないことの問題
かつて、若い世代の社員にとって、管理職になることはキャリアにおいて目指すべきステップの1つだった。しかし昨今は、管理職になりたくないと考える人が増えているといわれている。その理由について、人材開発・チーム開発を専門とする立教大学経営学部准教授の田中聡氏は、次のように語る。
「調査をすると、管理職になりたくない三大要因として、責任の重さ、仕事の多さ、そして給料の安さが上がってきます。それらに加えて、調査結果になかなか現れてこない、割と深刻な課題だと思うのが、管理職の『専門性』が曖昧になっていることです(図1)。多くの企業では、管理職が専門性のある仕事だとあまり意識されていません。当事者である管理職の人たちも、自分たちの専門性について問われると答えに窮してしまうのではないでしょうか」
管理職の専門性が曖昧にされていることの象徴的な例として、社内キャリアにおいて、管理職コースに進むか、専門職コースに進むかの選択が挙げられる。このことは、管理職が専門職ではないことを暗に示している。
なぜ専門性が重要なのか。それは、若い世代の多くがキャリアにおいて専門性を持たないことに危機感を感じているからだという。
「普段、大学で学生と接していると『専門性が身につく仕事に就きたい』という声をよく耳にします。専門性を武器にしながら、1つの会社にとどまらないキャリアを考えている若者が多い。つまり、専門性は彼らにとって、就職先を選ぶ際の重要なキーワードになっているわけです。このように専門性志向の強い若い世代にとって、管理職になっても何の専門性が身につくのかが見えない状況では、管理職が敬遠されても仕方ありません」
一般社員から見ると、「上から数字を詰められて厳しそう」「人間関係の厄介な問題を抱えて大変そう」といった管理職のマイナスイメージばかりが目立ち、そこに何の専門性があるのかが見えてこない。
「要は面倒くさいこと、誰も引き受けたくない仕事を引き受けるのが管理職。そのうえ、現場から離れてしまうことで、他社でも通用するような専門性が衰えてしまう。このような漠然とした不安や危機感から、管理職を敬遠する人たちが多いのです。そして、同じような印象を現役の管理職も抱いているのではないでしょうか」
管理職の置かれた厳しい状況を改善すべき
そもそも、管理職の本質的な役割とは何か。
「“Getting things done through others”という有名な管理職の定義があります。『他者を通じて事を成す』という意味です。特定の領域やテーマは、管理職の定義には入っていません。むしろ、あらゆる組織において、“管理職は組織の成果を最大化することが専門の仕事”と考えれば、管理職の見方はまったく変わってくるはずです。しかし、現実の管理職からは、そういうイメージがかき立てられない。この状況は非常にもったいないことだと思います」