J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年08月号

TOPIC『人材教育OPINION セミナー』 研修の幅を広げる新しいワークショップデザイン入門セミナー 若手ワークショッパーがワークショップ実施のコツを伝授

誰もが一度は「ワークショップ」を体験したことがあるだろう。しかし、その目的や方法を正しく理解したうえで実施され、意図する効果が引き出せているだろうか。本セミナーは、小誌2014年3月号で対談した(52ページ「若手研究者対談ワークショップにまつわる深ーい誤解」)、舘野泰一氏、安斎勇樹氏を講師に、その基本的な考え方やデザインの仕方について、実際にワークショップ形式で学ぶものである。当日の様子を紹介する。
開催日:2014年5月26日 
会 場:ベルサール新宿グランド コンファレンスセンター
講 師:舘野 泰一 氏 (立教大学経営学部 助教)
安斎 勇樹 氏 (東京大学大学院情報学環 特任助教)

舘野 泰一(たての よしかず)氏
1983年生まれ。立教大学経営学部助教。博士(学際情報学)。青山学院大学文学部卒業後、東京大学大学院学際情報学府博士課程満期退学。東京大学大学総合教育センター特任研究員を経て現職。教育工学・学習科学などの知見をもとに、大学生や社会人を対象にした教育に関する研究を行う。2009年から「ワークショップ部」の活動を開始し、現在は企業ワークショップも手掛ける。
安斎 勇樹(あんざい ゆうき)氏
1985年生まれ。東京大学大学院情報学環特任助教。東京大学工学部卒業後、東京大学大学院学際情報学府博士課程満期退学。学部生時代に教育系のベンチャー企業を立ち上げ、さまざまなワークショッププロジェクトを展開。舘野氏と「ワークショップ部」の活動を共にする。主な著書に『協創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる』『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』がある。

取材・文/菊池 壯太 写真/中原 美穏子

本セミナーの主な参加者は、自社の社員教育や課題解決のためにワークショップを効果的に実施したいと考えている方々である。グループワークがしやすいよう、参加者はあらかじめ6つのグループに分けられ着席している。セミナー前半の趣旨は、まず「ワークショップとは何か」を理解するというものだ。導入部分では、アイスブレークとして、グループごとに図1の自己紹介ツールを使いながら、職場の課題を病名に喩えてみたり、「ワークショップ」を別のものに喩えて一言で述べるといったワークが行われ、アイデアがシェアされ、盛り上がりを見せた。

「創ることで学ぶ」活動

続いて、舘野・安斎両講師により、ワークショップへの理解を深めるための講義が行われた。そもそも「ワークショップ」とは何か。安斎氏は、次のように語った。「ワークショップとは捉えどころがなく、定義するのがとても難しい手法です。昨今開催されているものも、参加者属性からも形式やテーマもさまざまで、実に多様なものが“ワークショップ”と呼ばれています。そこで私は、ワークショップを『創ることで学ぶ活動』としてシンプルに定義しています」さらに、「普段とは違うテーマで、新しいものを創り出すために、普段とは異なるものの見方を体験するもの」。そして、その過程で新しい学習の生起をめざすものであると続けた。ワークショップで創る対象もさまざまだ。必ずしもモノを生み出すというわけではなく、アイデアだけを出し合う場合もある。個人で創る場合もあれば、集団で話し合いながら創る場合もある。共通しているのは、当たり前のことを「問い直す」ことや、新たな何かに「気づく」ことを目的としていることである。

扱いやすい/扱いにくい課題

では、そうした「創ることで学ぶ活動」は、企業の研修や課題解決の手段として有効といえるのだろうか。舘野氏は、「ケースバイケース」であり、ワークショップで扱いやすい課題と扱いにくい課題があるという。「まず、ワークショップの“使いどころ”を理解しましょう。ワークショップを企画している方々から相談を受ける際、深く話を聞くと『それはワークショップで扱う必要がないのでは』と感じることがよくあります。課題によっては、これまで行われてきたインストラクショナルデザインの考え方を使ってデザインしたほうが有効な場合も多いのです。例えば、“グローバル化と英語”という課題で『英語力を身につけること』を目的とするならば、語学習得がゴールになるので、ワークショップ形式にする必要はないかもしれません。しかし、もう少し広く、『新たな言語を理解することの楽しさ』を学ぶなどのテーマ設定をすれば、ワークショップである意義が出てきます」扱いやすいようで実は難しいテーマもあるという。例えば「多様性の大切さを理解する」といったものだ。多様性こそ、さまざまに意見を出すワークショップなら扱いやすそうに思われるかもしれないが、実は難しい。なぜなら「職場では多様性への理解が不可欠」ということを前提としており、初めから“落としどころ”が決まっているからである。しかし「職場における多様性とはそもそも何を指すのかを問い直そう」というようにテーマを設定すれば、ワークショップで扱いやすくなる。同じテーマでも捉え方や視点を変えることで、ワークショップで取り組めるテーマの裾野が広がっていく。この“落としどころ”について、安斎氏も次のように話す。「ワークショップは本来、参加者もクライアントも、ファシリテーターでさえ『わからない』ことにアプローチするためのものです。ファシリテーターだけは落としどころがわかっていて、参加者をそちらに誘導したり、答えを押しつけたりというような活動は、ワークショップではありません」みんながわからないことを探求する。ワークショップとは、本質的に学ぶための場なのである。

WSの4つの要素

続いて、ワークショップが通常の研修やブレストと異なる点や、ワークショップに欠かせない要素について話が及んだ。ワークショップには、次の4つの要素が含まれると安斎氏。「1つめは、“非日常性”。普段取り組まないような、遊びや非日常的な要素が含まれていることです。2つめは経験を振り返って意味づけする“リフレクション”。3つめは、”即興的なファシリテーション”の要素。これも不可欠です。入念にプログラムを準備しても、実際はどう進んでいくか、事前にプロセスが予測できないからです」そして、4つめの要素は、参加者が意図通りに学んだかどうかをいちいち“評価しない”ことだという。これはワークショップがノンフォーマル(学外・企業外)で発展してきたことに由来する特徴だ。企業内にワークショップを導入する場合は、ここが悩ましい。その点に関して安斎氏は次のように補足する。「授業や研修であれば、参加者の学習達成度をテストなどでチェックする必要がありますが、ワークショップでは、参加者の学びが目標からそれたとしても、それを失敗だとは捉えない場合が多い。むしろ評価をしないことによって、参加者の創造性やモチベーションを引き起こすところが魅力です」また、このことはワークショップの価値観に通ずると舘野氏。「通常の授業や研修での講義は、いつでもどこでも常に同じ効果が得られるように均一性が重視されます。それは例えるならば音楽CDのようなものです。一方、ワークショップはライブに近い感覚です。ライブでは、基本的な内容は同じでも、日によって即興的につくられるアレンジや会場の雰囲気そのものが楽しみの対象になります。ワークショップも同様で、それが価値観になるのです」

企業で実施される3つのWS

実際に企業ではどんなパターンのワークショップが行われているのだろうか。安斎氏は、大きく分けて3つに分類できるという。「1つめは“リフレクティブ・ワークショップ”。若手やマネジャーなどに自己の仕事のあり方やキャリアを内省するタイプです。2つめは、『人材教育』2014年3月号の協和発酵キリンの事例のような“センスメイキング・ワークショップ”。これは組織の理念をつくり直すようなケースです。『うちの会社の理念はこうだ』と社長が一方的にアナウンスするのではなく、改めて会社全体でその意味を考えるもので、組織開発に近いタイプです。組織に多様な人がいることを理解したうえで、新しいコンセプトや共通理解をつくっていくことを目的として実施されます。

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