J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年08月号

中原淳の学びは現場にあり! 第26回 「耳」を養う研修、台本にない「なにか」を探る現場 テレビの中で育つアナウンサーの学び

テレビやラジオで活躍するアナウンサー。
フリーのアナウンサーも増えていますが、
ほとんどは就職活動を経てテレビ局に入社した
社員アナウンサー、“局アナ”です。
的確にニュースを伝えたり、臨場感溢れる実況を行ったり、
個性を発揮して番組を盛り上げたり…と、
テレビ、ラジオ番組に欠かせない存在であるアナウンサーたちは
どのように育っているのでしょうか。

中原 淳(Jun Nakahara, Ph.D.)
東京大学 大学総合教育研究センター准教授。著書に『職場学習論』『経営学習論』『活躍する組織人の探究』『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長論』など多数。
Blog: http://www.nakahara-lab.net/blog/ Twitter ID: nakaharajun

検証現場 TBS アナウンス部

「ウクライナの大統領選挙から一夜明けた26日、東部ドネツクの空港を包囲していた親ロシア派の武装集団に向け、ウクライナ軍が空爆に踏み切りました……」東京・赤坂のTBS本社11階にあるアナウンス部の会議室では、研修中のアナウンサー笹川友里さんが練習用のニュース原稿を読む声が響き渡っています。笹川さんは1年目に制作職を務め、2年目にアナウンス部に社内異動となった局内初のアナウンサー。一緒にICレコーダーで録音した声を聞き、「どこが気になった?」と、尋ねるのは指導役の清水大輔アナウンサーです。「親ロシア派の『親』の部分が少し強かったように思います」「そうですね、他には?」清水さんは再度、録音した音声を流します。原稿を読み、録音した音声を聞いて、発音や発声、アクセントで気になる部分を修正してまた原稿を読む……。アナウンスの基礎を学ぶ研修は、こうした地道な訓練の繰り返しだといいます。

3カ月間のアナウンス研修

「新人アナウンサーへの研修は約3カ月間。新入社員研修を終えた6月から8月までです。その後、クッション期間の9月を経て、番組改編期の10月から本格的に番組のレギュラーに入る、という流れが一般的です」と話すのは清水さん。冒頭で紹介した笹川さん他、新人アナウンサーの研修を担当します。清水さんは、札幌テレビ放送を経て1993年にTBS入社。主に野球、サッカー他、さまざまなスポーツ中継などを担当するベテランです。3カ月間の研修中は、1コマ1時間半の授業を1日3コマ受講します。研修のプログラム、テキストは長年、改訂を重ねながらTBSのアナウンス部で受け継がれてきたオリジナルです。アナウンサーの研修は、まず腹式呼吸でお腹から声を出す練習から始まります。「演劇も歌も同じかと思いますが、浅い呼吸で発声すると、喉が開かず、いい声が出ません」続いて、正しい口の形で正しく発音する練習をします。人によって癖があったり、間違った発音をしていたりするので、日本語の発音を一から学び直します。「最近はなぜか『さ、し、す、せ、そ』を、シャープに発音できない人が増えています。いずれにしても完璧な発音を身につけるには3カ月ではとても足りません」発音の仕方と同時に「促音、長音、鼻濁音」や「頭高型、中高型、尾高型、平板型」(アクセントの種類)など、日本語の音韻についての専門用語も学びます。研修では「『4月』は頭高ではなく、尾高で読んでください」といったやりとりをするので、アナウンス技術を伝えるために共通言語を持つ必要があるからです。その他、テキストには早口言葉のような滑舌を鍛える練習文なども載っています。

自分で気づく「耳を養う」

発声、発音の基礎を一通り学んだ後は、冒頭の笹川さんのように原稿を読んでは、録音した自分の声を聞き、修正する作業を繰り返します。この時、清水さんは、発音で気になるところがあっても、すぐに指摘せず、録音を聞かせて、自分自身で気づけるよう指導します。本人が気づかない場合も「この2行に1カ所あったけど、どこだと思う?」とヒントを伝え、辛抱強く待つのです。「すぐに答えを教えるのは簡単です。でもそれでは、自分で気づくことができなくなってしまいます。このやり方は少々じれったいのですが、繰り返すうち、聞き分ける精度が上がってきます」こうした「自分で気づかせる」指導方法はICレコーダーを導入した数年前から特に重点的に行っています。その理由について、清水さんは「読み方をどれだけ指導しても、3カ月の研修で身につけられるスキルはたかが知れています。しかし、現場に出たら我々の手を離れてしまい、丁寧に指導することはできません。結局、番組についた後は、発声、発音、アクセントなどを自分で直し、自分で上手くなっていかなくてはならないのです。そこで、研修期間は自分の声を客観的に聞く『耳を養う』ための訓練を丁寧に行っています」と話します。研修では、原稿を読む練習の他に、台本なしで話す「1分間フリートーク」や、屋外に出て目に映るものを描写してレポートするなど、自分の言葉で話す練習も行います。こうして3カ月の研修を終え、番組に配属されるわけですが、清水さんとしては「本当は1年ほどかけてじっくりと研修を行いたい」のだとか。ただ、現場からは「新人を使いたい」という声があり、男女問わず、早期に新人をデビューさせる傾向が強まっています。「アナウンサーは新人であることも価値。まだ拙く初々しい新人アナウンサーが育っていくのを視聴者の方々が楽しむ、というところもあるようです。こちらとしては『新人といえども甘えは許されない』としっかり訓練しているのですが……」。新人にフレッシュさを求める現場と言葉のプロとして育てたい育成担当者の間には苦しいギャップもあるようです。

担当番組から学んだこと

では、3カ月の研修を終えた後、アナウンサーは現場でどのようにして学んでいくのでしょうか。現在、夕方の報道番組「Nスタ」(月~金15時50分~19時)のキャスターを務める入社7年目の加藤シルビアさんにお話を伺いました。

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