J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年09月号

OPINION 迫りくる採用戦国時代 生き残りのカギは採用戦略の構築と採用プロフェッショナルの育成

「2016年問題」など、新卒一斉採用のあり方に対する疑問が各所で提起される中、経営学の立場から採用について研究する「採用学」を立ち上げ、注目を浴びている服部泰宏氏。「採用の『曖昧さ』に問題がある」と話す服部氏に、「採用学」の立場から見た日本企業の新卒採用の問題点と、今後の人材獲得競争に生き残るための処方箋を聞いた。

服部 泰宏(はっとり やすひろ)氏
2009年、神戸大学大学院経営学研究科博士課程を修了、博士号(経営学)を取得。滋賀大学経済学部准教授を経て2013年4月から現職。日本企業における組織と個人のかかわり合い
(組織コミットメントや心理的契約)、シニア人材のマネジメント等多数の研究活動に従事。著書『日本企業の心理的契約:組織と従業員の見えざる約束』(白桃書房)は、第26回組織学会高宮賞を受賞。現在「、採用」に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けた「採用学プロジェクト」に従事、同プロジェクトのリーダーを務める。

[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=菊池 壯太

「採用学」とは何か

私が「採用」をテーマとした研究、「採用学」を立ち上げたのは、2013年9月のこと。もともとは企業と個人とのかかわり方、「企業と個人の心理的契約」を研究していた。企業と個人で価値観のズレなどによるミスマッチ、ボタンの掛け違いのようなことが起こるのはなぜかと探るうち、「入口の採用段階に起きている可能性が高い」と感じるようになった。

調べてみたところ、米国ではリクルートメント研究という分野が確立されている一方、日本では採用に関する研究がほとんどなされていないことがわかった。また、ちょうどその頃、数社の人事担当者から立て続けに採用についての相談を受けるという偶然も重なり、「採用学」という研究分野を起こし、研究者と現場との領域がかかわる場として産学共同の「採用学プロジェクト」(http://saiyougaku.org/)を立ち上げるに至った。

新卒採用3つの問題点

私は日本の採用活動の問題点は、「曖昧さ」にあると考えている。具体的には、以下の3点だ。

1.曖昧にされる期待

2.曖昧な能力評価

3.「曖昧さ」による活動の過熱化

1.曖昧にされる期待

大手就職支援サイトの会社案内ページには、「若い人も活躍できる職場です」「成長できる仕事です」などと学生たちの期待を高める前向きなコピーが躍っている。一方、雇用条件、労働環境、必要とされる能力要件などの情報は極めて限定的であり、初任給や福利厚生などは書いてあるものの、年収、配属先や業務内容など肝心なことはわからず、曖昧なまま入社するケースが一般的である。こうしたことは、中途採用が中心の欧米においても少なからず見られるのだが、日本においてはそれがより顕著なのだ。

新卒一括採用という形をとっている以上、仕方がない面もあるが、働く側にとって重要なことを曖昧にしたまま雇用契約がスタートしており、このことがミスマッチ、早期離職につながっていると考えられる。また、「曖昧な期待」を抱かせるということは、学生側が持つ企業や仕事への期待との摺り合わせをさせないということであり、大量エントリーの一因にもなっているだろう。

なぜ、このようなことが起こるのか。端的に言うと、企業側が「できるだけ母集団を多く集めたいから」である。「初年度の年収はいくら」「若手の登用はめったにない」などと正直に言うと、学生が集まらないと考えてしまうのだ。

2.曖昧な能力評価

採用時の能力評価もまた曖昧である。新入社員に期待する能力として多くの企業が「コミュニケーション能力」や「自発的に行動する力」などを挙げているが、コミュニケーション能力といっても、聞く力、話す力、プレゼン力などさまざまな要素がある。そして、これらの能力をどう定義し、どのように測定、評価するのか、といった基準が曖昧なまま採用活動が行われていることが多い。結果、面接で適切な評価ができず、「一見」優秀そうに見える学生に内定が集まる。学生側も何をどうアピールすればいいのかわからず、ネットの情報に振り回されるなど、就職活動がさらに複雑化している。

3.「曖昧さ」による活動の過熱化

そして、1と2によって就職、採用活動双方の過熱化を招いていることが、第3の問題点だ。「曖昧さ」により期待と能力のミスマッチが起き、学生だけでなく企業側も必要以上の労力を使うことになり疲弊しているのである。

特に大企業は「たくさん集めてたくさん落とす」採用となっている。ある大企業では5万人の応募者を20人体制で見ているという話を聞いたが、これで果たしてきちんと見極めができるだろうか。学生側の就職活動も「たくさん応募してたくさん落ちる」ものだ。結局、そもそものスタートラインで「曖昧さ」を残していることが原因で互いに余計な労力を使うこととなり、活動の過熱化を招いているのだ。

今、あちこちで「採用がおかしい」と言われているが、一番の解決策は「企業が変わること」だ。「採用学」では、「採用に科学を」というスタンスで採用に関する知見を集め、現状を企業側から変えていきたいと考えている。

面接評価No.1は活躍人材か

「採用学」は始まったばかりだが、いくつかの研究プロジェクトが進み、興味深い調査結果が出ている。

1つは採用時の人事データ検証だ。企業内には多くの人事データが眠っている。業績評価データはもちろんのこと、採用担当者は適性検査や筆記試験、面接評価などのデータを、研修担当者は研修の効果測定のデータ、経営企画は従業員満足度調査のデータを持っているかもしれない。しかし、これらのデータを組み合わせて活用・検証が行われることはなかなかない。多くの場合、各部署でデータをバラバラに持ったままだ。

そこで、いくつかの企業から協力を得て、採用時の評価と入社後の評価の相関を分析した。すると、第一次、第二次、最終面接と、面接間の相関は非常に高く、面接の評価と適性検査の評価の相関も高い。しかし、これらの面接や適性検査の評価の高さは、入社後のパフォーマンスには必ずしもつながっていないことがわかった。さらに、最終面接でついた評価の順位は、入社後大きく入れ替わり、ほとんど相関がないということもわかった。

では、採用時の評価で入社後のパフォーマンスに相関しているものはないのか。どうやら適性検査項目の中の、頭の回転の速さ、地頭のよさのようなものを見る一部の評価項目が、ある程度相関しているようである。

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