J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年03月号

TOPIC スタンフォード大学心理学教授 キャロル・ドゥエック氏に聞く マネジャーが前向きなマインドセットを高める方法

ビジネス環境の変化が激しさを増す中、企業が顧客に対して高い付加価値を提供し続けるためには、継続的な変革、成長が必要だ。組織でそれを実現するために中核的な役割を果たすのがマネジャーである。では、マネジャーたちが、部下の本来持っている能力を高め、よりよい成果に結びつけるためにはどうすればよいのか。そうした人の能力発揮に密接に関連する心の持ち方、「マインドセット」について、『「やればできる!」の研究』(原題:『Mindset』)の著者であり、米国スタンフォード大学心理学教授の、キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)博士に話を聞いた。

キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)氏
スタンフォード大学心理学部 教授。社会心理学、発達心理学等における世界的研究者。どうしたら人は成功を収められるのか、達成を促進できるかといった、モチベーションや人間関係、精神保健に関する研究で大きな業績を持つ。2000年の著書、『Selftheories:Their Role in Motivation,Personality,andDevelopment』 は数カ国語に翻訳された。

取材/青木 千絵、構成・文/渡辺 史敏、写真/片岡 大輔

fixedマインドセットとgrowthマインドセット

――まず最初に、あきらめずに最後までやり抜くためのマインドセットの重要性とは何でしょうか。

ドゥエック

マインドセットはその課題に関し、非常に重要な役割を果たします。マインドセットには、「fixedマインドセット」と「growthマインドセット」の2種類があります。fixedマインドセットとは、自分の能力は成長せず固定してしまっていると思い込む心の状態です。そうなると、他人から見て「できない自分」が無能に見えてしまい、チャレンジが必要な状況を避けてしまうのです。このマインドセットを持つと、「ミスをするかもしれない」「足止めをくらうかもしれない」「失敗するかもしれない」などと萎縮し、自身の能力を疑ってしまいます。一方、growthマインドセットとは、「自分の能力は開発して高めていくことができる」と考える人たちが持つ心の状態。彼らは、チャレンジすることで新しい能力を身につけられると信じていますから、チャレンジが必要な難しい課題を歓迎します。ミスや失敗は仕事をしていくうえで自然に起こりうるという前提のもと、チャレンジを続ければ将来の成功を得られると考えるのです。それが、「あきらめずに頑張り続ける」という気持ちの土台になります。ここシリコンバレーには「早めに、たくさん失敗しろ、そしてすぐに成功しろ」という諺があるくらいです。

マインドセットは変更可能

――マインドセットは場面によって変わるものでしょうか。

ドゥエック

多くの研究によって、人はマインドセットをfixedからgrowthへと、段階的に変えていくことができると証明されています。そして、同じ人でも、分野や状況によって異なるマインドセットを併せ持つことも可能だと思います。例えば、数学的能力に関してはfixedマインドセット、他の分野に関してはgrowthマインドセットを持つ、といった具合に、です。

――知識や能力を十分持っているのに、発揮できる人とできない人がいます。この違いは何でしょうか。

ドゥエック

この差の理由こそ、マインドセットにあるのです。ハードルが高い課題に対して、挑戦すること自体を楽しいと思うか、目的を持てるか、障害があっても乗り越えていくことができるか。まさにこれらは、マインドセットの持ちようによって変わってくるのです。Southern Methodist University(南メソジスト大学)のCox Schoolof Business准教授ピーター・ヘスリン(Peter Heslin)氏が行っている研修を例に挙げましょう。彼は、自身の研究をもとに、企業のマネジャーが身につけるべきマインドセットに関する研修プログラムを開発しました。その研修の構成は、大まかには以下のようなものです。まず、学ぶことによって脳がどのように変わるのか、そして、年齢に関係なく、いつでも人は新しいスキルを学び、能力を伸ばすことができるということを受講者に話します。その後、受講者であるマネジャーたちに、growthマインドセットを高めるために、次のようなエクササイズをしてもらうそうです。3つ例を挙げれば、1つめは、「最初はうまくできなかったが、最近になってとてもうまくできるようになったこと」を挙げてもらうもの。2つめは、「絶対にできないと思っていたことが実際にはできた」という経験を話してもらうというもの。そうすることで、その人には成功するための能力があることが示せます。同時に、「本当はできるはずなのに、できないと思い込んでいることはないか」質問します。これも目的は同じで、どんな人にも必ず身につけられる能力があるということを示すのです。3つめは、手紙を書くエクササイズ。これまで順調に成長していたのに、最近壁にぶつかって悩んでいる部下や後輩に手紙を書いてもらいます。マネジャーとして、問題を抱えている人のメンターになって、「一貫性を持って努力を続けていけば、能力は伸ばせるはずだ」と伝える文章を書くのです。そして、その手紙を書いた人に適切なフィードバックができれば、マネジャー自身の成長も期待できます。メンターとしての能力を自覚すれば、自分から積極的にメンターを引き受けようという気持ちにもなります。そうしてgrowthマインドセットを持てたマネジャーは、自分にも他人にも重要なことは、自分が他人のメンターになることだと理解できるようになります。一方で、fi xedマインドセットしか持たない人は、「メンターなんて必要ない」「能力がある者が結果を出すだけだ」という思考から抜け出せません。

失敗から学べるか

――先生が企業で研修を行う際には、「マネジャーはリスクを取ることを厭わず学び続けましょう」と講義されるとのこと。リスクを取り、失敗から学ぶことの意味とは。

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