J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年03月号

若手研究者対談 ワークショップにまつわる深ーい誤解

「ありきたりの研修にはもう飽きた」「対話型で楽しくやりたい」――理由はさまざまだが、研修にワークショップを取り入れたい、と望む企業も増えている。しかしながら、いざやってみようとすると何か物足りなかったり、対話が盛り上がらなかったり……。その原因は、ワークショップをそもそも理解していないからではないか。
そこで『ワークショップデザイン論――創ることで学ぶ』の共著書もあるワークショップ研究者の安斎勇樹氏と、学生時代から数々のワークショップ実践に携わり、『ワークショップと学び2 場づくりとしてのまなび』『プレイフル・ラーニング』などの共著書がある舘野泰一氏という若きワークショッパーのお二人に話を聞いた。最近、彼らが企業からの依頼で直面するという「ワークショップに対する誤解」から、ワークショップの本質を理解していこう。

安斎 勇樹(あんざい ゆうき)氏
1985年生まれ。東京大学工学部卒業。現在、東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍。学部生時代に教育系のベンチャー企業を立ち上げ、ウェブサービスや中学生や大学生向けのワークショッププロジェクトを展開。現在は、事業開発や人材開発のための産学連携ワークショップに取り組んでいる。2009年から、舘野氏と「ワークショップ部」の活動を共にする。新著『協創の場のデザイン―ワークショップで企業と地域が変わる』が4月に刊行予定。

舘野 泰一(たての よしかず)氏
1983年生まれ。青山学院大学文学部卒業。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。教育工学・学習科学等の知見をもとに、大学生のキャリア教育やアカデミック・ライティング、社会人を対象にした、越境学習の研究を行う。2009年から「ワークショップ部」の活動を開始し、現在は企業ワークショップも手掛ける。2013年から現職のほか、ビジネスリサーチラボ研究員、専修大学、立教大学で非常勤講師も務める。


[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=杉山 正直

ワークショップは“研修を面白くする方法”!?

── 企業からの依頼を受ける際、ワークショップに対する誤解を感じるとか。

安斎

ワークショップを、単に研修を面白くする方法論として捉えているケースが多い気がします。企業内で人材育成にかかわる方々は特に、研修をID(インストラクショナルデザイン※注)でつくっているためか、ワークショップをプレイフルID、「楽しい研修」と捉えているのではないでしょうか。

舘野

そもそもワークショップのよさは、いつもと異なる視点を体験できるところにあります。しかしながら、そのよさはゴールの決まったID型の研修ではなかなか生きません。 例えば、新人向けのマナー研修で「名刺の渡し方」を教える際、ゴールが「名刺交換が型通り行える」といったものであれば、ID型の研修でいいわけです。そうしたゴールが決まったお題には、ワークショップの要素を加えることはできますが、ワークショップのよさを生かすことはできません。

安斎

「名刺の渡し方」がテーマならば、むしろ「新しい名刺の渡し方を発明しよう」というほうが、ワークショップ向きですよね。従来の名刺の渡し方を問い直してみることで、新たな型が生まれるかもしれないし、改めて型通りのマナーの大切さに気づくかもしれない。ただし、どんな結論になるかはやってみなければわかりません。

舘野

10人いたら10人を狙い通りのゴールに連れて行きたい、という目的のものにはワークショップは向いていません。しかし、かと言って「好き勝手にどこを走ってもいい」というものでもありません。プログラムはよく練ってあるけれども、受講者は自由にやっているように感じると言いますか。

安斎

僕はワークショップについて説明する時に、「はしご」というメタファを使います。ワークショップでは、参加者の日常にはしごをかけて、いつもと違う景色から日常を眺め直してもらう。そのはしごのかけ方は、入念にデザインします。ただ、その先に何を見つけるか、どこに向かって飛ぶのか、はしごを降りるのかは参加者に委ねられています。一方、IDでつくった研修は、よく「階段」のメタファで説明されます。一段一段、全員が足並みをそろえて確実に到達したいゴールをめざしていく、というイメージです。

舘野

きっちりゴールが決まっているワークショップをつくるのは難しいです。さらに、単にアイスブレイクをしてアクティビティを組み合わせれば、ワークショップが成り立つわけでもありません。よく企業の方から「レゴに替わる面白いツールはないですか」と質問されますが、ツールやプログラムのパーツだけでなく、組み合わせや流れが重要です。

安斎

「いいアイスブレイクの方法はありませんか」という質問も多いですよね(笑)。

舘野

そうしたアクティビティを取り入れればいいというものではないんです。特に説明もないまま、ゲームなどさまざまな楽しいアクティビティをやって、最後にいきなり、「いかがでしたか。今日の活動の中に、何か仕事のうえでも参考になる気づきがあったはずです」などと、なぞかけのようなことを言われても、参加者は困惑するだけです。

──確かにそれは困りますね……。

舘野

でもそうしたワークショップ、結構ありますよ。唐突に「振り返ってください」とか(笑)。振り返りの中身は、個人の意味づけに委ねられるわけですが、振り返りの「視点」が得られるようなデザインは必要なのです。

安斎

ワークショップをつくる人たちは、よく「揺さぶる」という言葉を使います。その人にとって当たり前の前提条件やその人が立っている足場を揺さぶって、一時的に別の見方を体験してもらうことで、いつもの見方を問い直してみるというのが、ワークショップによる学びの方向性です。ものの見方を変えるためには、日常と違ったことをしなくてはならず、必然的に体を動かしたり、手を動かしたりと非日常的な、ちょっと楽しそうな活動をすることになります。ワークショップは、そうした意図があって楽しい活動のようになっているのですが、それが「つまらない学びを面白くする方法」だと誤解されている原因なのではないかと思います。

舘野

同感です。大事なのは、全体のデザインなんです。例えば、アイスブレイクは、ワークショップのテーマに沿って、メインアクティビティの伏線としてデザインするものです。面白いアイスブレイクをやっても、内容が本テーマとズレていれば、そこで分断が起きるわけです。活動と活動の間に関連性がないと、「楽しかったけど、何だっけ?」というワークショップになりがちです。

ワークショップに向いているテーマは?

舘野

ワークショップでは、「ものの見方を揺さぶる」ことができるので、人材開発という面で活用すると「キャリア研修」になったり、商品開発や新規事業という面で活用すると「新商品開発ワークショップ」になったり、組織面で活用すれば、「組織開発、理念浸透ワークショップ」になったりします。

安斎

従来のスキル系の研修であれば、学習目標を行動レベルで表すことができます。しかし、人それぞれのものの見方の変容を行動レベルで記述することは不可能です。だから「価値観を変える」研修をIDでつくることはできないわけです。ワークショップでは「価値観を変える」まではできないものの、「別のものの見方を体験してみる」というアプローチはできます。それによってもとの価値観が相対化され、新たな見方に気がつき、価値観が変わる可能性がある、というわけです。共同研究をしたKDDI研究所(P.58)は、この例です。どうしても技術視点からサービスを考えてしまう人たちに、ユーザーの立場からサービスを発想する体験をしてもらうことで「開発観」に揺さぶりをかけたわけです。

舘野

理念やビジョン、経営計画など普段は話題に上がらないようなことについて語り合う、「非日常的な場をつくり出せる」というのもワークショップのよさですよね。日常の会議やコミュニケーションの中では「そもそも自分たちの仕事は何か」といった根源的な話を議論の俎上に載せることができないですから。

安斎

例えば、協和発酵キリンでワークショップを行った時(写真)は、社長、役員からさまざまな部署の管理職、若手社員までが同じテーブルで「自社はどんな会社なのか」をレゴでつくってもらい、語り合ってもらいました。その後で、社長の経営計画のプレゼンを受けて、一人ひとりに自分のビジョンをレゴでつくってもらいました。私を主語にして、現場視点でストーリーを語ってもらうことで、社長が一方的に立てた「経営理念」や「経営計画」の見え方も変わり、より納得感が得られます。

ワークショップの内製化の難しさ

安斎

ワークショップは、もともとはやりたい人だけが集まってノンフォーマルに行われてきたものです。企業外のサードプレイスだから起きていた創発性や豊かな学びに注目して、企業内に持ってこようとしても、その「非日常性」を維持することが難しい。

舘野

最近、「カフェで話すと話が弾むから」と、会社の中にカフェのような空間を設ける会社が増えています。しかし、話が弾んだのは、結局「会社ではない空間にいるから」だったりします。それを会社の中に持ってきても、矛盾するわけです。これと同じで、ワークショップも、「どこで誰とやるか」が肝心です。プログラム通り進めれば、いつも同じ場がつくれるわけではありません。

安斎

できるだけ外部の人材を参加させてもらいたいですね。それが無理でも、社内の誰に参加してもらうのか、どんな位置づけで実施するのかは慎重に考えてほしいです。

ファシリテーションより大事なこと

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