J.H.倶楽部

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Learning Design 2021年01月刊

気づきのトピックス講演録❷ HRカンファレンス2020秋レポート

2020年11月17日~20日、25日の5日間にわたり開催された、「日本の人事部」主催のカンファレンス。
春に続き、全日程オンライン開催となったが、早々に受付終了する講演が続出するなど、盛況振りがうかがえた。
小誌では特に人気が高かった2講演のダイジェストを紹介する。

富士通
テクノロジーをベースとしたグローバルICT(Information and Communication Technology)企業。
2020年4月よりいち早くジョブ型人事制度を導入し、注目を集める。

コーン・フェリー・ジャパン
世界50カ国90オフィスを構えるグローバルな人材コンサルティング会社。
現在の人材マネジメントにおける主要なコンセプトを発信しながらクライアント企業を支援している。

ニトリホールディングス
幅広い事業領域を活用した「暮らし提案」企業。
世界を視野にいれた長期ビジョンで経営に取り組んでいる。

ロート製薬
「健康寿命」への挑戦を掲げ、製薬会社の枠を超え、あらゆる美と健康のための提案を行っている。

服部泰宏氏
神戸大学大学院経営学研究科准教授。
日本企業における組織と個人のかかわりあいや、経営学的な知識の普及などを研究している。

Image by tadamichi/PIXTA
取材・文=菊池壯太

国内大手企業でも先行してジョブ型人事に着手した富士通。報酬制度やキャリア構築のしくみから、全社的なシステム改革まで、総務・人事本部長が現在までの取り組みを紹介。変革を支援するコーン・フェリーが日本企業への示唆を解説する。

7割が導入を検討している

岡部

ジョブ型人事は最近、もっともホットなトピックですが、制度としての長所と短所が両方あります。半年前の調査では、1,000人~1万人と1万人以上の企業の7割はジョブ型人事を導入、もしくは導入を検討中でした。年功的なやり方にひずみができているのです。

ジョブ型人事を進める課題でもっとも多かった回答は「経営陣や現場責任者の理解不足」です。メンバーシップ型からのフルモデルチェンジに近く、人事部だけで推し進めるのは難しいでしょう。経営陣や現場がメリット、デメリットを理解し、必要なコミュニケーションやリーダーシップをとれるかが鍵です。

人が起点のメンバーシップ型に比べ、ジョブ型は仕事が起点で、事業・組織戦略との接合性も高くなります。戦略に応じて組織をつくり、そのためのジョブがあり、最適な人材を充てる。ジョブのサイズが同等なら転職してもある程度、一定の市場価値に基づく報酬が払われます。長らくメンバーシップ型だった日本企業には、ジョブ型のノウハウや人材、方法論がありません。ジョブをいかに定義し、タレントマネジメントと連動するか。また、ジョブディスクリプションは、導入と運用の2段階で設計する必要があります。

成果主義の反省から、ありたい姿を議論

平松

当社は単体で3万2,000人、グループ会社を含め、国内8万人、グローバルでは13万人を抱えています。

ジョブ型転換への契機は、2019年6月の社長交代で「IT企業からDX企業への変革」を掲げたことです。「DX企業への変革には会社のカルチャーを変える姿勢が必要だ。ジョブ型にしたい」というトップの強いコミットメントと人事への期待が後押しとなり、改革を始めました。

同年7月に「イノベーションによって世界をより持続可能にしていくこと」とパーパスを変え、中長期的な戦略テーマから各組織の具体的戦略をつくりました。同時並行して、社内DX 推進プロジェクト「フジトラ」のDX オフィサー15名を中心に、人事制度改革と社内のシステム変革を進めました。

当社は1993年、成果主義と目標管理を同業他社に先駆けて導入し、数年間実施しましたが、結果的にうまくいかず、成果主義の失敗例として知られています。「激しいグローバル競争で、評価制度もグローバルスタンダードに」と成果主義を強く押しましたが、今思えば、ビジネスに応じた組織やカルチャーをつくるという発信が足りなかったと反省しています。

今回はパーパスの変更にともない、人や組織の「ありたい姿」から議論しました。DXカンパニーとして多様・多才な人材がグローバルに協働し、その先にイノベーションやDXの実践がある。全社員が常に学び、成長し続け、自律的に魅力的な仕事へ挑戦する。そんな企業風土をグローバル・グループワイドな人事基盤で支える姿をまず考えました。

半分は昇給し、半分は降給に

平松

人事制度改革では、スピード感と全体の整合性を意識しました。「ジョブ型人事制度へのフルモデルチェンジ」のポイントは次の4点です。

自ら重い職責、グレードの高いポジションを狙い、職責に応じて報酬が変わる「チャレンジを後押しする報酬制」。戦略から組織を追求し、人を集める「事業戦略に基づいた組織デザイン」。人員計画やキャリア採用の権限を現場へ委譲する「事業部門起点の人材リソースマネジメント」。最後は「自律的な学び/成長の支援」です。

今回の改革では、国内グループ会社を含めて1万5,000人の管理職を格付けし、職責で報酬を定額制にしました。したがって、半分は昇給し、半分が降給となりました。降給対象者には経過措置を設け、1年めが現状維持、2〜3年めに各5%減、4年めに本来の給与となります。その間、「ポスティングでより上位のポジションに挙手して合格すれば、その報酬を適用する」と挑戦を促しました。

評価制度は見直し中です。本部長クラス以上の上級幹部は、バランススコアカードを使い、財務指標、KPI、行動指標をグローバルに共通の評価指標としました。今後、さらに下位の幹部社員の評価基準のグローバル共通化も検討中です。

要員計画を現場へ権限委譲

平松

DXカンパニーへの変革は在籍する社員だけでは実現できません。今まで全社計画していた採用を、戦略やビジョンから組織設計し、現状とのギャップがあれば採用や育成、足りなければM&Aも選択肢に描けるよう、各本部長へ権限委譲しました。

一方、ジョブディスクリプションは作成中です。まずひな形をつくり、効率的に展開したいと考えています。責任権限・人材要件を明確化し、グローバルスタンダードなロールかつレベルごとに決めていく予定です。

また、ジョブ型の導入と、タレントマネジメントは両輪だととらえています。7~8年前から取り組んでいますが、今までは漠然と役員候補を選別していました。ポジションに求められる人材要件がどう変わり、どんな特性や経験が必要なのかが具体的になってきたので、計画的に資質のある人を見極め、いろいろな経験をさせる必要があります。2020年中に約1,100名にアセスメントを実施し、将来有望な人材を見極めます。

自ら挑戦する機会を拡大

平松

仕事が変わらなければ報酬も変わらないしくみになったので、挑戦を促すポスティング機会の大幅拡大も行う予定です。

具体的には、まず2021年4月に登用する予定の新任課長、富士通グループで600ポジションをすべて挙手制で選びます。10月にジョブディスクリプションを公開し、今、選考中です。

本当に立候補してくれるか不安もありましたが、結果的に1.5倍の人が手を挙げ、挑戦したい人が潜在的にいるのだという確信ももてました。

自律的学びの促進や現場支援に注力

平松

人材育成では平均的な成長カーブを想定した階層別教育を行っていましたが、社員のキャリアの多様性を考え、一律的な教育や標準的な成長曲線はないと反省し、学習動画を自由に視聴できるオンデマンド型教育を導入しました。自身のキャリアを上司との相談によってイメージし、必要なスキルや経験に向けた自律的な学びを支援するしくみです。

上司部下の関係性も変えようと、1on1ミーティングを社長から新入社員までの全レイヤーで今年7月から始めました。実施3カ月後の調査で、85%が効果を実感したという結果が出ています。

権限委譲で責任が重くなる現場の本部長に対しては、人事がHRビジネスパートナー(HRBP)として支援します。必要な人材や要員計画を現場と一緒に考えるなど、外部の知見も得て取り組んでいきます。

制度改革には社員の自律性と会社への信頼関係が必須です。管理型や性悪説でつくられたしくみでは、社員も会社を信頼できません。社員を信頼しているという前提で制度をつくり、信頼できるコミュニケーションがとれれば、社員も自律的に働き、判断できるようになります。

日本企業の育成力がジョブ型成功の鍵

岡部

富士通から日本企業が学ぶべき点は3つです。

1つめは、DXカンパニーになる戦略と組織・人事施策が直結した変革が進んでいること。2つめは改革の速さです。3つめは人事機能が高度でグローバルスタンダードの導入にも積極的だということです。外部の物差しをどんどん採用し、世の中や自社を高い位置から俯瞰しています。

ジョブの定義でドライに「合う・合わない」を議論しても、人が集まらず、働く人のエンゲージメントも高まりません。ジョブとスキルが合わなくなったら、迅速に再教育する。まさに日本企業の得意分野です。日本企業の育成力がジョブ型人事制度でもさらに生きてくるでしょう。






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