J.H.倶楽部

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Learning Design 2021年01月刊

特集│HR TREND KEYWORD 2021│人事│エスノグラフィー 文化や人間関係もふまえた 課題の本質をつかむ調査手法

「エスノグラフィー」という調査手法をご存知だろうか。
定量調査では得られない結果や真因を得られるという。
その調査手法を企業の各種調査に用い、自身も「エスノグラファー」として活動する神谷俊氏に、ニューノーマル時代だからこそ知っておきたい、人の成長や組織の変化のとらえ方を聞いた。

神谷 俊(かみや しゅん)氏
エスノグラファー 代表取締役

エスノグラファー代表取締役。ビジネスリサーチラボリサーチフェロー、面白法人カヤック社外人事、GROOVE X エスノグラファー/社外人事。
企業・地域をフィールドにエスノグラファーとして活動。
参与観察によって得た視点を経営コンサルティングや商品開発、地域開発など様々なプロジェクトに反映させ、本質的な取り組みを支援。経営学修士。

[取材・文]=菊池壯太 [写真]=神谷 俊氏提供

エスノグラフィー(ethnography)とは、もともとは文化人類学や社会学等で使われる調査手法である。自分とは異なる価値観や文化をもつ人やグループに対して、調査者が自ら参加し、観察やインタビューで得られた質的なデータを用いて、その実態を理解しようというものだ。

一見、経営や人事、組織開発といった分野からは遠いものと感じられるかもしれないが、近年、企業がこの手法を使って様々な調査を行うケースが増えてきているという。「エスノグラファー」として、企業や地域で調査やコンサルティングを行う神谷俊氏は次のように話す。

「エスノグラフィーは、日本だと少し特殊なイメージがありますが、海外では一般的で、『エスノグラファー』とよばれる人もたくさんいます。企業においては、プロダクト開発やマーケティングに関する調査、UX(ユーザーエクスペリエンス:ユーザーが1つの製品やサービスを使用することで得られる体験の総称)の一環として取り入れているケースが多いのですが、人事や組織開発に関する調査にも用いることができます。私のところにくる依頼も、マーケティング的な業務と人事や組織開発的な依頼が半々です」(神谷氏、以下同)

定量調査だけでは見えないリアルな実態を導き出す

具体的には、どんな方法で調査を行うのだろうか。

「エスノグラフィーの調査では『フィールド(現場)』と『参加』が重要なキーワードになります。調査対象となるフィールドには、必ず特有の文化や人間関係が存在しています。多様な影響要因があり、断片的なデータのみで合理的に考えることが難しい領域ですから、定量的な調査だけでは本質をつかむことができません。エスノグラフィーはそうした特有の文化や人間関係に、実際に足を踏み込んで行う調査です。そのため、意外な結果や、リアルで生々しい実態が見えてくることが多いのです」

ビジネス分野では、図1のような場面で活用されるケースが多いという。調査方法やその意外な結果、実態について、人事や組織開発、マーケティングにおける事例をいくつか見ていきたい。

ケース1:離職の真因が判明

まず神谷氏が紹介してくれたのは、ある企業で若手の“比較的優秀な”人材が多く辞めていくので原因究明をしたいというケースである。辞めていく人材は、評価も高く給料も悪くはなかった。その背景にどんなメカニズムが働いていたのか。

「実際に辞めていたのは、評価でいうとA ではなくB +くらいの人材でした。A クラスの人材は優遇されているのに対し、B +の人材は、それほど優遇されていない。一方、仕事はある程度できるため結果を出せと負荷をかけられつつ放任され、愚痴や相談もあまり聞いてもらえない――現場に入り、観察やヒアリングをしたところ、“比較的優秀な人材”とは、そういう“不公平感を抱きやすい”人材であることが見えてきました。

この仮説に基づいて、アンケート調査を設計し、負担感のレベルを定量的に測定した結果を人事評価と照合してみると、B +の人材とピタリと一致したのです」

神谷氏はこのように、参与観察や記録の分析などで質的に実態を把握したうえで仮説を構築し、さらに経営学や心理学などの知見に基づく定量的な調査を実施し、解を導き出している(図2)。

「フィールドに重きを置くエスノグラフィーですが、フィールド調査だけを行うのではありません。幾多のフィールド調査を重ねている法政大学の長岡健先生も『発見は書斎で起こる』と言っています。現場の状況を記録し、それを持ち帰って机の上に並べて比較してみる。さらに本棚から関連する文献を引っ張り出してあれこれと考察することによって、ようやくフィールドで起こっている事象が立ち現れてくることが多々あります」

ケース2:社員の成長過程を分析

2つめは、ある企業で優秀な人材の特性を分析し、そうした人材を増やすべく調査を行ったケースである。優秀な人材の能力を分析したところ、「創造的思考力と問題解決能力が高い」という結果が得られた。ただし、この2つの能力は入社当初から高いのではなく、パフォーマンスが上がるにつれて急激に伸びる傾向があるという。

「そこは、メーカーの工場でしたが、実際に工場で働いている人たちと話をしてみると、ある管理職の方が『生意気な社員ほどかわいい』と言い出しました。どうやら毎年、1人2人は入ってくる、やや大きなことを口にしがちな社員のことです。

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