J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年03月刊

気づきのトピックス講演録 JAL再生への軌跡 ~そして新たな企業文化の創造~

「一層激変する経営環境に対応するには、戦略実現のための将来の人と組織の在り方を構想できる経営視点をもったHRリーダーが必要である」――こんなコンセプトで、
2019年から20年にかけて、都内某所で全5回の会合「HRリーダー・コロッセオ」が行われた。
講師には、経営者や人事畑を経験した役員など、錚々たる面々がそろい、経営と人事の関係や真髄を伝えた。
そこで、講義のダイジェストを誌面で再現し共有したい。
今回は第1会合より、日本航空株式会社の前会長・大西賢氏の講義を紹介する。

第1 会合
担当講師
日本航空 特別理事・前会長
大西 賢氏

1.悔恨の思いから下した 「過去との決別」

皆さまご存知のとおり、2010年1月19日にJALは経営破綻をしました。お客さまをはじめ多くの方々にご迷惑とご心配をおかけしましたこと、この場をお借りして深く陳謝いたします。

私どもは京セラ名誉会長の稲盛和夫氏に弊社会長として就任いただき、絶大なるご指導の下に再生の道を歩みました。ここでは私の社長就任後から再上場までの具体的な道のりについてお話しして参ります。

2.経営破綻の原因を洗い出す

社長就任後、最初の仕事として取り組んだのが破綻の原因を突き止めることでした。具体的には企業文化と環境要素を基にした、原因の徹底的な洗い出しです(図1)。ここでは一部を解説しましょう。

●破綻原因①:企業文化

そもそも、世の中の多くの企業は、非常に高い目標をもち、知恵と工夫を駆使し、達成するための努力をしているはずです。しかし、JAL はそこに気づいていませんでした。また、社会貢献を含め、様々な目標を達成していく過程においては、何らかの葛藤が生じるはずです。しかしJALは、“葛藤をまったくしない企業”でした。象徴的なのが、「採算意識の不足」です。

「永続的な経済成長を前提とした経営」とは、何度も浮沈を経験しているはずなのに、なぜか「この苦境が過ぎればまたずっと右肩上がりになるだろう」と考えていた、ということです。

「政府出資の『国策の航空会社』として設立」というのは、言葉を選ばずに言えば、JALが“親方日の丸”体質だったということです。縦割りということですが、縦割りが有効に機能するのは、特定のことをやっていればいいときです。しかしながら、お客さまからの要望は時々刻々と変化し、それに対して商品やサービスを変えていくためには、縦割りでは動けません。その意味で、我々は完全に硬直化した組織でした。

●破綻原因②:環境要素

「限定的な競争環境」に関しては、国内のマーケットを見る限り、JALとANAで80%以上を占めており、完全な寡占状態となっているということです。

国際線については、経営破綻前は外航との戦いは今ほど熾烈ではありませんでした。かつてのJAL のマーケットは主に日本人であり、日本の航空会社の青か赤かを選んでいただけました。寡占の業態とはいえ、JALとANA が切磋琢磨する環境にあれば、サービスの独自性が生まれたはずですが、実際には、お互いを見つめ合って、その結果コスト体質を悪くする構造ができてしまいました。

また、「首都圏空港発着枠の慢性的な不足」についてお話ししますと、空港で運航できる回数を「発着枠」と呼びます。これは、「経年機・大型機大量保有」とも大きく関係します。発着枠はすぐにいっぱいになる傾向にありますが、そうすれば競争は起こりません。新規参入しようとしてもできないからです。JAL が何を勘違いしたかといえば、競争環境がないという安心感から「競争などない方がいい」と思い続けてきたことです。このようなマインドセットこそが、そもそもの問題だったと言えるでしょう。結果、古い機材をたくさん持ち続けるような、非効率な運営が行われることとなりました。以上のような要因が積み重なり、最後にはリーマン・ショックからキャッシュ・ショートに陥り、経営破綻に至りました。

3.外側からの事業構造改革

破綻の原因を突き止めた後、我々は2つのことに着手しました。1つは、事業構造を改革するための“外科的手術”です。毎月赤字なので、出血を止めなければ、出血多量で死んでしまいます。

もう1つは“内科治療”です。いくら外科的手術を繰り返しても、根底にあるマインド、すなわち、内面的な構造改革を行わないかぎり、病気は治癒しません。この2つの処置によって初めて、新しいJAL(=“TheNew JAL”)をつくることができると考えました。

●“外科的手術”とは

“外科的手術”として、破綻の原因に対し、構造改革のための集中的な取り組みを行いました。まずは事業規模の縮小です。

破綻前のJALは、事業規模が大きすぎて、赤字路線も数多くありました。そこで大切なライフラインとなっている路線は残しつつ、それ以外の不採算路線からの撤退として、地方交通機関や他社で代替してもらえる路線は撤退する決断をしました。そうした事業規模の縮小とともに人員を削減。大型機の退役として、機材の切り替えにも着手しました。

また人件費も削減し、企業年金の改定も行わせていただきました。前例のない規模の減額をしてもよいものかと、心が痛みました。

●“外科的手術”の効果①:“第三のポジション”の確立

事業規模を3分の2にしたところ、営業収入は2012年に2008年ごろと比べ6割程度になりました。しかし、営業利益率で見ると、2012年は15.8%。2018年は11.8%。ずっと10%オーバーを続けています。エアラインにとって、この10%オーバーというのが重要で、数%の利益率では雇用が守れません。

LCCは、低価格を好む層を徹底的にマーケティングして現在は好調ですが、経済成長や人口増加が成熟した市場では、今後これまでのように急拡大することはありえない。また、LCC も規模が大きくなれば、収益率は落ちます。

現在、JALはLCC 並みの収益を上げている第三のポジションを確立しつつある状態です。今後、いかに現在のポジションにとどまっていられるかが、極めて重要な課題だと認識しております。

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