講演録|~そして新たな企業文化の創造~ JAL再生への軌跡 大西 賢氏 日本航空 特別理事・前会長
「一層激変する経営環境に対応するには、戦略実現のための将来の人と組織の在り方を構想できる経営視点をもったHRリーダーが必要である」――こんなコンセプトで、
2019年から20年にかけて、都内某所で全5回の会合「HRリーダー・コロッセオ」が行われた。
講師には、経営者や人事畑を経験した役員など、錚々たる面々がそろい、経営と人事の関係や真髄を伝えた。
そこで、講義のダイジェストを誌面で再現し共有したい。
今回は第1会合より、日本航空株式会社の前会長・大西賢氏の講義を紹介する。
1.悔恨の思いから下した 「過去との決別」
皆さまご存知のとおり、2010年1月19日にJALは経営破綻をしました。お客さまをはじめ多くの方々にご迷惑とご心配をおかけしましたこと、この場をお借りして深く陳謝いたします。
私どもは京セラ名誉会長の稲盛和夫氏に弊社会長として就任いただき、絶大なるご指導の下に再生の道を歩みました。ここでは私の社長就任後から再上場までの具体的な道のりについてお話しして参ります。
2.経営破綻の原因を洗い出す
社長就任後、最初の仕事として取り組んだのが破綻の原因を突き止めることでした。具体的には企業文化と環境要素を基にした、原因の徹底的な洗い出しです(図1)。ここでは一部を解説しましょう。
●破綻原因①:企業文化
そもそも、世の中の多くの企業は、非常に高い目標をもち、知恵と工夫を駆使し、達成するための努力をしているはずです。しかし、JAL はそこに気づいていませんでした。また、社会貢献を含め、様々な目標を達成していく過程においては、何らかの葛藤が生じるはずです。しかしJALは、“葛藤をまったくしない企業”でした。象徴的なのが、「採算意識の不足」です。
「永続的な経済成長を前提とした経営」とは、何度も浮沈を経験しているはずなのに、なぜか「この苦境が過ぎればまたずっと右肩上がりになるだろう」と考えていた、ということです。
「政府出資の『国策の航空会社』として設立」というのは、言葉を選ばずに言えば、JALが“親方日の丸”体質だったということです。縦割りということですが、縦割りが有効に機能するのは、特定のことをやっていればいいときです。しかしながら、お客さまからの要望は時々刻々と変化し、それに対して商品やサービスを変えていくためには、縦割りでは動けません。その意味で、我々は完全に硬直化した組織でした。
●破綻原因②:環境要素
「限定的な競争環境」に関しては、国内のマーケットを見る限り、JALとANAで80%以上を占めており、完全な寡占状態となっているということです。
国際線については、経営破綻前は外航との戦いは今ほど熾烈ではありませんでした。かつてのJAL のマーケットは主に日本人であり、日本の航空会社の青か赤かを選んでいただけました。寡占の業態とはいえ、JALとANA が切磋琢磨する環境にあれば、サービスの独自性が生まれたはずですが、実際には、お互いを見つめ合って、その結果コスト体質を悪くする構造ができてしまいました。