経営学の教科書が通用しない!? 家族的なチームのつくりかた
伊那食品工業では“社員の幸せ”の実現を一番の目的として掲げ、「社員は家族である」という考えが貫かれています。
“家族”のようなチームはどのようにしてつくられているのでしょうか。
“社員の幸せ”が目的の企業
「かんてんぱぱ」ブランドで知られる長野県の寒天メーカー、伊那食品工業は、「いい会社をつくりましょう」を社是に掲げる。“社員の幸せ”の実現を一番の目的とし、木の年輪のように着実にゆっくりと成長する「年輪経営」で、48期連続で増収増益を達成。その独自の経営哲学は経済界からも注目を集めている。
そんな同社では、社員同士が部署の垣根を越えて“手伝い合う文化”があり、それが会社全体の効率化にもつながっているという。つまり、会社全体が“伊那食ファミリー”という大きな家族的チームとして機能しているということだ。代表取締役社長の塚越英弘氏に、組織の在り方について話を聞いた。
目指す組織はファミリー!?
中原:
まず、御社が目指すチーム像をお聞かせください。
塚越:
我々が目指す組織は“ファミリー”です。つまり、日本の昔ながらの家族経営を単純に広げたものといえます。そして、我々が目指すものは“社員の幸せ”です。幸せにもいろいろな形がありますが、私たちは家族仲良く暮らすという幸せの形をイメージしています。この“ファミリーになる”ということこそが大きな目的のひとつであり、チームとして成果を上げたり、パフォーマンスを高めるためにファミリーになるわけではありません。
中原:
ファミリーになることそのものが目的というのは、今の経営学とは逆の考え方ですね。経営学では、社員を幸せにし、エンゲージメントを高めるのは、“パフォーマンスを高める”という目的のためですから。
塚越:
はい、真逆だと思います。チームも同様で、業績を上げるためにグッドチームにするのではなく、グッドチームになることが目的そのものなのです。
中原:
グッドチームやファミリーになることが目的で、利益は二の次というのは、非常に興味深いです。
塚越:
ファミリーが暮らしていくためには、稼がなくてはならないので、そのためにお互いに助け合って稼ごうということです。単純に家族でやっていることを大きくしているだけです。
中原:
しかし、社員全員が「家族」という価値観を受け入れられるものでしょうか。
塚越:
目指すものが共通なので、家族としてやっていけるのです。部活のチームを思い浮かべてもらえばいいでしょうか。高校野球のチームに例えると、「目指せ甲子園」など、共通の目指すべきものがあれば、他人であっても家族的になっていきます。我々の場合、目指すものは「いい会社をつくりましょう」という社是です。この土台があるので、家族的なチーム・組織が成り立っているのだと思います。
中原:
多くの方は御社の書籍などを読み、共感して入社するのですか。
塚越:
そうです。そして、基本的に新卒一括採用です。会社は学校というか教育の場所だと考えていて、入社後は先輩が後輩を教えます。新入社員研修はありますが、それ以降は最低限の研修制度しかありません。年長者が年少者に教えるというのも、家族をイメージすれば、当然のことですよね。
人件費は目的そのもの
中原:
入社後に「合わないから」と辞めていく人はいませんか。
塚越:
合わなくて辞めていく例はゼロではないですが、ほとんど記憶にないですね。弊社は終身雇用制度で、1年ずつ給料が増える年齢給です。“毎年、社員の給料が増える”というのも、大切なこと。利益が出たから給料を増やすのではなく、定年の65歳まで毎年給料が増える。そのためにみんなで頑張ろうというわけです。
中原:
評価制度はどうなっているのですか。
塚越:
評価は育成のために実施しています。もちろん、能力差は出ますので昇進ペースが異なったりすることはあります。
中原:
給料が一律の年功賃金となると、さぼる人は出てこないですか。
塚越:
あまりいません。もちろん、仕事の早い遅いはありますし、能力の違いもあります。しかし、さぼっているわけではありませんから仕方のないことでしょう。もちろん、できないからといって追い出すようなことはしません。家族ですから。
中原:
20代、30代よりも40代、50代の方が高い給与を得ているということで、世代間でギクシャクするようなことは起きませんか。