J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年03月刊

連載 中原淳教授のGood Teamのつくり方 第11回 経営学の教科書が通用しない!? 家族的なチームのつくりかた

伊那食品工業では“社員の幸せ”の実現を一番の目的として掲げ、「社員は家族である」という考えが貫かれています。
“家族”のようなチームはどのようにしてつくられているのでしょうか。

伊那食品工業株式会社

1958年に木材会社の系列会社としてスタート。
以後、業務用粉末寒天の製造を開始、現在では家庭向け商品や寒天を素材とした食品、ゲル化剤などを開発する。
2007年「グッドカンパニー大賞」グランプリ、2017年「日本でいちばん大切にしたい会社」中小企業庁長官賞など受賞。
資本金:9,680万円
年商 :195億円(2018年12月期)
社員数:470名 (2019年1月現在)


中原 淳(Jun Nakahara)氏

立教大学経営学部教授。立教大学経営学部ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。
東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授などを経て、2018年より現職。
著書に『職場学習論』、『経営学習論』(共に東京大学出版会)、『研修開発入門』(ダイヤモンド社)、『駆け出しマネジャーの成長論』(中央公論新社)など多数。
研究の詳細は、Blog:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/)。Twitter ID : nakaharajun

取材・文/井上 佐保子 写真/松井 一真

“社員の幸せ”が目的の企業

「かんてんぱぱ」ブランドで知られる長野県の寒天メーカー、伊那食品工業は、「いい会社をつくりましょう」を社是に掲げる。“社員の幸せ”の実現を一番の目的とし、木の年輪のように着実にゆっくりと成長する「年輪経営」で、48期連続で増収増益を達成。その独自の経営哲学は経済界からも注目を集めている。

そんな同社では、社員同士が部署の垣根を越えて“手伝い合う文化”があり、それが会社全体の効率化にもつながっているという。つまり、会社全体が“伊那食ファミリー”という大きな家族的チームとして機能しているということだ。代表取締役社長の塚越英弘氏に、組織の在り方について話を聞いた。

目指す組織はファミリー!?

中原:

まず、御社が目指すチーム像をお聞かせください。

塚越:

我々が目指す組織は“ファミリー”です。つまり、日本の昔ながらの家族経営を単純に広げたものといえます。そして、我々が目指すものは“社員の幸せ”です。幸せにもいろいろな形がありますが、私たちは家族仲良く暮らすという幸せの形をイメージしています。この“ファミリーになる”ということこそが大きな目的のひとつであり、チームとして成果を上げたり、パフォーマンスを高めるためにファミリーになるわけではありません。

中原:

ファミリーになることそのものが目的というのは、今の経営学とは逆の考え方ですね。経営学では、社員を幸せにし、エンゲージメントを高めるのは、“パフォーマンスを高める”という目的のためですから。

塚越:

はい、真逆だと思います。チームも同様で、業績を上げるためにグッドチームにするのではなく、グッドチームになることが目的そのものなのです。

中原:

グッドチームやファミリーになることが目的で、利益は二の次というのは、非常に興味深いです。

塚越:

ファミリーが暮らしていくためには、稼がなくてはならないので、そのためにお互いに助け合って稼ごうということです。単純に家族でやっていることを大きくしているだけです。

中原:

しかし、社員全員が「家族」という価値観を受け入れられるものでしょうか。

塚越:

目指すものが共通なので、家族としてやっていけるのです。部活のチームを思い浮かべてもらえばいいでしょうか。高校野球のチームに例えると、「目指せ甲子園」など、共通の目指すべきものがあれば、他人であっても家族的になっていきます。我々の場合、目指すものは「いい会社をつくりましょう」という社是です。この土台があるので、家族的なチーム・組織が成り立っているのだと思います。

中原:

多くの方は御社の書籍などを読み、共感して入社するのですか。

塚越:

そうです。そして、基本的に新卒一括採用です。会社は学校というか教育の場所だと考えていて、入社後は先輩が後輩を教えます。新入社員研修はありますが、それ以降は最低限の研修制度しかありません。年長者が年少者に教えるというのも、家族をイメージすれば、当然のことですよね。

人件費は目的そのもの

中原:

入社後に「合わないから」と辞めていく人はいませんか。

塚越:

合わなくて辞めていく例はゼロではないですが、ほとんど記憶にないですね。弊社は終身雇用制度で、1年ずつ給料が増える年齢給です。“毎年、社員の給料が増える”というのも、大切なこと。利益が出たから給料を増やすのではなく、定年の65歳まで毎年給料が増える。そのためにみんなで頑張ろうというわけです。

中原:

評価制度はどうなっているのですか。

塚越:

評価は育成のために実施しています。もちろん、能力差は出ますので昇進ペースが異なったりすることはあります。

中原:

給料が一律の年功賃金となると、さぼる人は出てこないですか。

塚越:

あまりいません。もちろん、仕事の早い遅いはありますし、能力の違いもあります。しかし、さぼっているわけではありませんから仕方のないことでしょう。もちろん、できないからといって追い出すようなことはしません。家族ですから。

中原:

20代、30代よりも40代、50代の方が高い給与を得ているということで、世代間でギクシャクするようなことは起きませんか。

塚越:

起きませんね。というのも、以前はあまり知名度がなく、人が集まらない会社だったので、20代、30代よりも40代、50代の人数がぐっと少ないからです。もちろん、給与分ほど働けない人もいますが、「仕方ないよね」という感じです。家族で考えてみても、おじいちゃん、おばあちゃんは現役世代ほど家事などができないかもしれませんが、話好きでいろいろ経験を話してくれたり、ニコニコしていたりすれば、それだけでも価値があるでしょう。

中原:

現在20代、30代の方々も年齢は上がっていくので、今後の人件費は、少しずつ上がっていきますよね。

塚越:

それはもう、稼ぐしかない。人件費は目的そのものですから。だからこそ、少しずつ人を増やし、その分少しずつ成長して稼ぎを増やすということをバランスよく行いながら、ゆっくり末広がりに成長する「年輪経営」なのです。そもそも人件費がどうの、しくみがどうの、ということを心配するなら、その知恵をもっと売る、もっと稼ぐ方に使うのが正しい考えではないでしょうか。

中原:

確かにそうですね。しかし、成長スピードをコントロールするためには、変化の激しい分野に突っ込むようなことはできませんね。

塚越:

そうですね。もちろん時代のニーズに合わせて柔軟に対応していく部分もありますが、ベースは本業に残しておき、全部をそちらに傾けることはしません。

中原:

いま、国内市場は縮小しつつあります。海外進出か多角化か、拡大する方法は限られています。

塚越:

海外進出は積極的に考えているわけではありません。

中原:

となると、国内市場で多角化していく形で広げていこうということですね。他の会社とは真逆の方向性です。正直、一般的な企業の考え方とは反対すぎて、なかなか理解が追いつきません……。

塚越:

世の中の動きとは逆のことを進めていく方がいいということがわかってきましたので(笑)。皆さん「先が見えない」とおっしゃいますが、本当にそうかは誰にもわからないでしょう。私はまだ可能性はあると考えています。弊社の主力商品の寒天も、単品としての売り上げは3割で、一番の柱はゲル化剤です。これは、以前は想像もしなかったことです。未来にはまた別の使い道があるかもしれず、ただやってみるしかないと思っています。

「何を目指すのか」が重要

中原:

御社には、“手伝い合う文化”があるとうかがいました。具体的にどんなふうに行われているのですか。

塚越:

たとえば、店舗の方に大勢のお客様がいらして忙しくなりそうだとなると、「今日は2名、店舗のお手伝いをお願いします」といった形で各部署に連絡し、まったく関係のない部署からも応援に来てもらいます。いまの時期は野沢菜漬けの袋詰め作業が始まります。そうなると、各部署へ連絡が行くわけです。皆さん嫌がらずにやってくれます。

中原:

そうなのですね。こうした御社独自の考え方は、どのようにして社員に伝えられているのですか。

塚越:

新入社員研修はありますが、それ以降は一緒に働きながらだんだんと染み込んでいくという感じです。学校の校風などもそうですよね。ともに過ごすうち、組織のカラーが何となく染み込んでいく。それには「一緒にいる」ことが大前提ですので、集まって話すこと、みんなでやることを大事にしています。毎朝の清掃、ラジオ体操のほか、我々は休憩も一緒に取ります。1日2回、工場もラインを止め、食堂でみんなでお茶を飲むのです。年に一度は、「かんてんぱぱ祭り」というイベントを全員そろってやっています。

中原:

時空間をともにすることが大切なのですね。若い人たちもすぐに順応しますか。

塚越:

最近の若い人たちの方が順応しやすいイメージがあります。みんな社員旅行を楽しみにしていて、ほぼ全員が参加します。ちなみに2年に一度は海外旅行です。

中原:

経営的な観点から、みんなが一緒にいることにコストをかけるということですね。

塚越:

コストではなく、それが目的です。家族旅行に行きたいから仕事を頑張る、ということです。

中原:

確かに家族旅行はコストとはいいませんね。しかし、経営の教科書では絶対に通用しない考え方です(笑)。御社の「家族的」経営に欠かせない一番大切なものは何ですか。

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