連載 人事制度解体新書 [第9回] 千葉夷隅ゴルフクラブ 高品質サービスは社員の満足と思いの共有から。 仕事を通じて成長する風土と仕組みを形成
経営危機のゴルフ場が多いなか、干葉夷隅ゴルフクラブ(GC) は料金を下げることなく、高いレベルの入場者数を誇ることで知られている。これも開場以来20 数年、立地条件の悪さを克服するために、個人客に重きを置いて、サービスの「質(クオリティー)」を高く保つ努力を続けてきたからにほかならない。 1997 年には徹底した顧客満足経営の実施を評価され、「日本経営品質賞」を受賞したことでも、それは証明済みだろう。総支配人である加藤重正氏に、同GC のお客さま第一を実現する強固な人材育成の仕組みについて話を伺った。
「立地条件の悪さ」を凌ぐサービスもヒト次第
近年、企業を取り巻く経営環境は大きく様変わりしてきた。きわめて多様な価値観を持ち、それぞれに生きがいを求めて企業に対峙する人々が多くなっていくなかで、これからは市場をコントロールするというより乱顧客と企業が協力して価値を創造する時代が到来してくるように思う。そうした環境下においては、これまでのような「効率重視」「画一的」なシステムはうまく機能していかない。「多様性」や[流動性] を前提とし、「ヒト」に基軸を据えたうえで、相互の関係性を意識した経営スタイルというものが求められてくるだろう。
「ただ単に顧客の期待や要望を探っていき、それに応えるような製品・サービスを提供していくだけでは限界があります。これからの時代、提供する製品やサービスの仕方全体の期待・要望に対して、柔軟に応えていくことが必要なのです。だからこそ、『顧客志向』から『顧客満足』へと発想を転換し、顧客との継続的関係を図りながら、経営全体を見直していくことが大切になってくるのではないでしょうか」と、取材が始まるやいなや、熱く「信念」を語る取締役総支配人の加藤重正氏。
さらに、「ヒトは機械ではありません。本来的には管理やコントロールができない、と考えたほうが正しいでしょう。しかし、経営する側の“思い”や“志”の方向性というものをきちんと示していけば、その成果たるや、実に計り知れないものになるはずです」(加藤氏) と、一気に「人材論」を展開していく。もちろん、それには理由があった。
「お客さまがゴルフ場を選ぶ際の条件として、まずは『立地条件』があり、それから『サービスの良さ』と『納得できる料金』が続いてきます。客観的に見て、私たちのゴルフ場は決して立地条件は良くありません。ですから、第2・第3の条件で勝負していくはかない。要はサービスの良さをベースとし、アクセスとサービスを加味しか納得できる料金が提供できるよう、日々改善と改革を進めていくしかないのです。そして、それを実現せしめるのはヒトでしかありません](加藤氏)
では、ヒトをどのように動機づけすればいいのか?
それは、チェスター・バーナードの理論にもあるようにまずは皆が共感できる「目的」をトップが提示することだという。次に、その目的に向かって各自が役割を自覚し、役立ちたいと思う「貢献意欲(サービス精神)」を生んでいくこと。そして、問題を解決していくために、現場で皆が積極的に対話していく「コミュニケーション」を育む風土というものを、組織に深く根づかせていくこと。これが立地条件でハンディを背負う千葉夷隅GCにとって、何よりも重要なテーマだった。
「最も大切なことは、従業員がこの会社で働いていて本当に良かった、と思ってもらえること。これに尽きます。従業員満足(ES )が実現できなければ、顧客満足(CS )も実現できませんから」(加藤氏)
「事前期待」を上回る顧客満足の提供
「立地条件の悪さを、サービスの向上を図ることによって、ご来場してくださったお客さまが満足をして嬋っていただき、再度のご来場を促進する」。これが、干葉夷隅GC のサービス基本コンセプトである。基本方針としても。「千葉県一サービスの良いゴルフ塲創り」を置いている。それを実現するには、「事前期待」を上回るサービス提供が欠かせない。
図表1のマトリックスをご覧いただきたい。顧客満足の構造を「事前期待」と「実績評価」とで兒たものだが、これからわかることは、たとえ顧客が期待しているサービスを提供できたとしても、それは当たり前のことであって(C)、むしろできなければ不満として残ってしまうし、場合によっては顧客を失いかねない状況が生じることもある(B)。それよりも、こうしてもらえたら嬉しい、あるいは予想もしなかったようなサービスが享受できたとしたら、その満足は他の比ではないということなのだ(A)。千葉夷隅GC は、まさにこの「A」という事前期待を上回るサービスを提供できている、実は全国でもたぐいまれなゴルフ塲である。
ところで、そもそもサービスには次のような「特性」が存在するということを、念頭に置いてみて欲しい。
○無形性(不良サービスの把握が困難である)
○生産と消費が同時(不良サービスの提供は即、顧客を失う)</b