連載 人事制度解体新書 第13 回 成長する段階なら、「インフレ」も構わない。 自社らしさを認識し、実践できる制度を つくることの方が大切
いうまでもなく、ソフトウエア会社は「価値創造」がすべて。新たな価値を創造し、高収益企業として成長していくためには、事業活動を通した「人の成長」が何よりも重要だ。サイボウズはまさにそのことを実践し、短期間で会社も、そして人材も急成長を遂げたベンチャー企業として知られている。その卓越した経営手腕の1つに、「成長ステージ」に合わせたユニークな人事制度の構築があげられる。今回は人事制度の構築、改定の中心となって活躍したスタッフ本部人事総務グループリーダー・石井和彦氏に、その辺りの具体的な話を伺った。
さらなる成長を目指した人事制度の改定
1997 年8月、愛媛県松山市でたった3人からスタートしたサイボウズ。その後、大阪を経て現在の東京へと移転してきた。この間、設立わずか4年目にして、顧客満足度No.l (「日経コンピュータ」調べ)の評価を勝ち得てきたのには、ただただ敬服するばかりだ。さらには、最短での東証二部上場と、ハイスピードで成長してきたゆえに、当初から「実績主義」を標榜していたものの、その運用面ではなかなか実態に追いついていかない部分もあったのも事実だろう。
そんなこともあり、サイボウズでは2002年8月に創業来からの人事制度を改め、一度抜本的な人事制度の改定を行っている。確かに、ここまで増収増益を続けてきた同社ではあるが、次の新たなる成長を遂げるためには、いままでのやり方では難しいとの経営判断があったことだろう。これは、急成長を実現したベンチャー企業が迎える、最初の大きな「壁」ともいうべきものである。
「まずは、組織変更が不可欠でした。これまでは、管理部、開発部、企画部、営業部など部割りの組織だったものを、製品ごとの事業部制へと変えていきました。何より事業部ごとの独立採算とすることで、事業部マネジャーが各々の事業に特化した戦略を立て、損益管理を行えるように組織を変えていったわけです。
これで、よりフレキシブルな戦略を行うことが可能となり、さらなる成長を促しやすい組織へと体制としては整っていったと思います。ですから当然、それに伴う人事制度、とりわけ評価制度の部分での改革は急務でした」と語るのが、スタッフ本部人事総務グループリーダーの石井和彦氏である。
実際問題として、以前の人事制度は多分に試行錯誤によって作成されていたこともあり、「実績主義」をうたってはいたものの、その内実は、「全体的に昇給率が低かったこともあって、社員間の格差が生じることはありませんでした。別に、評価自体に差がついていなかったわけではないのですが、その結果が処遇に十分反映されていなかったということです。実態としては、全員一律に近い状況で、とてもメリハリのある処遇とはいえませんでした。
それまで、目標の達成度合いということでの評価を行っていた関係で、それぞれの仕事の重さが的確に評価されず、結果的に処遇へと反映できていなかったという問題もありました」(石井氏)。
独立採算の事業部制としたからには、「成功報酬」という側面を前面に出していかないと、社員のやる気も起こらないとの思いは強かったと思う。そのためにも、従来の「絶対評価」から、よりチャレンジングになれる「相対評価」へと、人材評価の基本ポリシーを変えていった。
求める人材像の行動指針「サイボウズの五精神」
ところで、2000年8月の東証マザーズへの株式上場(2002 年3月に東証二部へ市場変更)に合わせて、「求める人材像」としての行動指針「サイボウズの五精神」を決めている、経営目標を実現するために、どのような人材が必要なのかということで、以下の5項目を明記している。
1. 一芸に秀でる
スペシャリストを目指し自分だけの技を極めていこう。様々な分野のトップに触れてみよう
2. ベストを尽くす
立ちはだかる壁を乗り越える努力をしよう。逃げてはダメだ
3. 誠実
いかなる小さな嘘も無く勇気をもって自分をさらけ出そう、常に柵手の気持ちになってみよう
4. チームワーク
一人でできる事は限られているから仲間を信じて委ねよう。全貝一丸となって成功の喜びを共に得よう
5. 人から学ぶ
全ての人を師と仰ぎ優れたところを学び得よう。人を好きになり積極的に話を聞いてみよう