短期連載 研修効果測定の実証研究 第2回 受講者とその上司が模造紙に書いた内容から、 研修効果を分析する
連載2回目の今回は、製造業S社の中堅社員研修での研修効果をどのようにして測定したかについて言及していく。研修が行動変容と業績向上にいかに寄与したのか。約4ヵ月にわたる受講者の問題意識と行動の変化を、本人とその上司が書いた模造紙の内容からたどることで、研修効果の測定を試みた。
連載の第1回(3月号)では、研修効果測定の必要性と実証研究の不在について述べ、調査を行った製造業S社の中堅社員研修の概要と特徴を示した。そこで第2回では、研修が受講者の行動と業績向上にどのような影響を与えたかを検証する。まず研修の各ステップで得られた資料を明らかにし、行動変容と業績向上の視点から効果測定と評価を行いたい。
4. 効果測定の方法と使用する資料
(1)研修の各ステップと得られる資料
第1回で述べたように、本研修は実施前から3ヵ月後までの各ステップを段階的に用意している(図表1)。
まず、受講者は研修前に業務上の問題点を模造紙に書いてくる。受講者の上司も研修前に部下の問題行動を明確にし、模造紙に書いて提出する(Stepl) 。研修では問題解決の技法を学習し(Step2) 、職場に戻ってその実践に取り組む(Step3) 、という各段階を経て、行動変容と業績向上を目指す仕組みである。さらに、研修3ヵ月後に職場実践発表会を行って、どのようにして問題解決に取り組んだか、結果はどうだったかを、模造紙に書いて報告し合う(Step4)。
このように、本研修では約4ヵ月にわたる受講者の問題意識と行動の変化を、本人とその上司が書いた模造紙によってたどることができる。なお、上司の模造紙は研修中に受講者本人に渡し、全員分を張り出して行動変容の指針としている。
S社の研修では、模造紙を使った発表を積極的に活用している(写真)。各人が持つ情報や意見を他の大にもよくわかるように示し合い、情報の共有化を習慣づけているのである。最近ではPC ソフトによるプレゼンテーションが大勢を占め、模造紙の使用は少数派といえよう。しかし、書式に制限されずに自由に書けるなど利点が多い。
そこで研修効果を検証するに当たっては、この模造紙の内容を読み取って分析し、得られたデータによって研修の効果を測定することにした。この方法はアンケート調査に比べて、得られる情報の質と量において個人差が大きい、研究者の判断が分析結果を左右しやすい、などの限界がある。しかしながら、各人が自由に書いた模造紙を読み取ることにより、すべての調査対象者に関してより具体的で詳細な情報が得られると考え、この方法を採ることにした。なお補足的な調査として、3人の受講者とその上司に対してインタビューを行った。
(2)効果測定の方法と使用する資料
前述のように模造紙の分析によって得られる図表1 の①から⑧ までの資料が効果測定に使用するデータである。
まず、受講者の研修受講後の行動変容を検証するために、「② 部下の困っだことデータ(問題行動)」を本人が研修後にどれくらい改善したかを測定し、それを「⑥上司の指摘した問題の改善度」とした。
また研修受講後の職場実践において、目標をどれくらい達成したかを筆者2 名が3 段階で評価し、「⑦目標達成度」とした。その目標達成度に研修受講が影響を与えているのかを考察したものが、「⑧ 職場課題の解決に貢献した行動と研修の関係」である。受講者の研修後の行動が研修によってもたらされたものかどうか、またその行動が目標の達成に寄与したかどうかを評価した。
さらにょり優れた効果が表れるのはどのような場合かを検討するために、「⑦ 目標達成度」と、受講者の職種、「④職場実践課題」、「③上司と部下の問題認識の共有度」の3つの要因との関係を検討するが、これについては連載の第3回に譲りたい。
5. 行動変容に関する評価
(1)上司の指摘した問題点
まず、受講者の研修後の行動にはどのような変化が生じたのか、研修がその変化に貢献しているのかを検証する。