短期連載 研修効果測定の実証研究 第3 回( 最終回) 研修効果を上げる要因は何か一 研修後の業績向上要因を解明する
研修の効果は、受講者全員に等しく表れるものではない。どのような受講者に優れた効果が表れ、どのような受講者に効果が上がらなかったのであろうか。今回は、調査対象としたS社の中堅社員研修修了者のなかで、研修後に業績を向上できた受講者はどのような要因で業績向上を果たしたのかを分析。同時に、一連の検証から得られた事実から、効果的な教育・研修の立案、実施のあり方について言及する。
7. 研修効果に影響を与える要因
本連載では、製造業S社の中堅社員研修の効果を、行動変容と業績向上に焦点iを当てて実証してきた。前回(4月号)明らかにしたように受講者自身が書いた模造紙の内容の丹念な分析によれば、受講者の研修後の行動変容と業績向上に一定の効果が見られた。
しかし、すべての受講者に同じ程度の研修効果が表れるわけではない。どのような受講者に優れた効果が認められるのであろうか。
そこで今回は、研修後の業績向上がどのような要囚によってもたらされるかを検討する。具体的には、受講者各人の職場の問題・課題における目標達成度を被説明変数とし、受講者の職種、研修後に職場で取り組んだ課題の種類、上司との問題認識共有、の3つの要因を説明変数として、その関係を探ることにする。
(1)受講者の職種
図表1は、受講者の職種ごとに目標達成度を比較したものである。
これによれば、技術・生産・間接ではほぼ9割以上の人が何らかの成果を出しているのに対して、営業職の約半数が成果を得ていない。営業職の受講者が直面している課題に、本研修で習得した知識やスキルが活かせなかったのであろうか。
営業職の教育ニーズと研修内容がミスマッチであったならば、営業職に必要な研修内容を検討する必要がある。効果測定によって、本研修の問題点が見出されたといえよう。
(2)職場実践課題の種類
図表2 では、職種別、取り組み課題別に目標達成者の人数を比較した。これによれば、「複数の部署がかかわる業務がうまく進まない」という課題に取り組んだ技術職の目標達成者が突出している。つまり、複数の部署がかかわる業務を担当し、その業務に問題を抱えていた技術職にとっては、役に立つ研修であったといえよう。
一方、他の課題に取り組んだ大たちにとって、本研修は本人の抱えていた問題の解決に十分な効果がなかったことも予想される。特に「担当業務にミスやトラブルが発生する、仕事の質が低い」に取り組んだ7人の受講者には、目標達成者が1 人もいない。
その原因としては、ミスやトラブルの削減に必要な知識・技能と、研修の内容とが一致していなかったことが推察できよう。ミスやトラブルの発生という重要な問題に対して研修が効果を表わさなかったとすれば、本研修の見過ごすことのできない弱点であると考えられる。
本研修は、S社中堅社員の教育ニーズをあらかじめ教育部門が予想し、問題解決の思考プロセス習得とコミユニケーションスキルのトレーニングを主なテーマとして実施した。研修の効果を実証した結果、幅広い部署と折衝や調整を行い、理解と協力を得ながら業務を進める必要性に直面する受講者、しかも技術職において、最も効果的な研修であったことが明らかになった。
一方、教育部門の想定しなかった二- ズを持つ受講者には、もっと効果的な研修が必要であった可能性を否定できない。今後の研修計画において検討すべき課題が明らかになったといえる。