連載 起業するイノベーターたち 第18 回 社員の自主性を重視する床暖房メーカー
中小・ベンチャー企業の創業者、後継者の実話から変革への要点を探る
低温水式床暖房「うららシリーズ」が人気を呼ぶ富士環境システム。前田智幸社長は大手家電量販店の常務取締役時代に脱サラ。経営コンサルタント業を経て、メーカーの社長に就任するという波乱万丈のビジネス半生を送ってきた人である。環境貢献を旗印に、2000年のパルプ積層断熱材に続き、先ごろ、段ボールと間伐材を組み合わせた新しい断熱ボードの開発にも成功した。社内においては、社員の自主性を重視した独自の経営を展開。環境貢献同様、多くの経営者にとって見習うべき点は多い。
不況下でも活発な社会貢献活動
長引く不況にもかかわらず、地域社会への貢献や文化・芸術支援など、本来の経営活動を超えた社会貢献活動を行っている企業は多い。企業による社会貢献活動は、“フィランソロピー”の名で知られる。日本経済団体連合会(日本経団連)によると、1社平均の社会貢献支出額は95年以降、一貫して伸び続けており、企業が熱心に取り組んでいる様子がうかがえる。
フィランソロピーとともに、よく耳にするのが“メセナ”という言葉だ。こちらは企業の文化・芸術に対する支援活動のことをいう。企業メセナは、今日では若手芸術家に教育や発表の機会を与えたり、芸術家が地域の子供たちに直接指導する場を提供するなど、活動内容は多様化している。
フィランソロピーにしろ、メセナにしろ、ひところに比べ個々の活動の規模は小さくなったが、「むしろバブル期よりも最近の方が内容は濃い」と評価する向きが多い。しかも最近は大企業ばかりでなく、中小企業やベンチャー企業の間でも積極的に取り組むところが増えている。不況下なのになぜか。
企業姿勢が共感を得る
床暖房メーカーの富士環境システムでは、例年、東京湾の「三番瀬クリーンアップ大作戦」のスポンサーとなるのを始め、環境ライブの開催、熱帯雨林再生活動への参画など、目的別に予算を計上し、環境保全に努めている。同社は業績好調とはいえ、社員8人の小企業。それでも社会貢献活動を行うことについて、前田智幸社長は次のよ引こ言う。
「床暖房メーカーだからといって、室内環境を良くするために自然環境に悪影響を及ぼしては何にもならない。 20世紀前半から始まった工業化社会の進展は、人間の際限のない欲望を満たすため、動植物にとっても暮らしの場であるはずの自然環境を破壊し続けてきた。それがやがて人間の生存さえも脅かす状況になってきた。かつて豊かであった海も海洋汚染の進行とともに姿を変えてしまった。当社では、企業人である前に環境企業市民であることが大切、という考えに立ち、自然環境の再生に積極的に協力することにした」
同社の低温水式床暖房システム(商品名「うらら」) は、温水を通す管と、その熱を床面に伝える放熱板に熱伝導率の高い銅を使用している。そのため、通常のシステムが70 ℃前後の温水温度が必要であるのに対し、50 ℃前後で十分に暖まるほか、銅イオンによりダニやシロアリの発生を防げるという特徴がある。
「人に優しいということを実現するには、身体に害がなく暖かいということだけではなく、設備の安全匪、耐久性など高度な性能が求められる。また快適に過ごしたい本人だけではなく、家族や子孫、地球環境にも優しい商品でなければならない。環境好感度企業を目指すからには、循環型社会の実現に向けた社会活動に対して協力するのは当り前」(前田氏)