ケース4 日本エイム 初めに戦略ありき 日本の半導体産業を支える 「技能的機動集団」の創出
変化の速い経済状況の下、製造業も、内部で技能社員をじっくり育成・雇用する形ばかりでなく、アウトソーシングを活用するケースが見られるようになってきた。そのなかで日本エイムは、半導体や液晶など、高度技能者を要する製造ライン、あるいは工場丸ごとに必要な人材を一括受託し、技能者を提供する製造アウトソーシングとして業績を伸ばす。「技能的機動集団」づくりという、技能者の新しい雇用モデルと人事システムの実際を伺った。
スキルが上がれば賃金が上がる明確な原則がモチベーションを支える
「われわれは『技能的機動集団』として、単なる人材派遣には不可能な八イパフォーマンスを実現しています。そのことで、お客さまの経営効率向上を支援しているのです」と語るのは、日本エイム代表取締役社長の若山陽一氏。
技能的機動集団とは?一氏の言葉を借りれば、それは「高いスキルとモチベーションを持った人材が組織化され、幅広い工程・業務に、スピーディーに対応できる]、そういった集団である。そんな同社の戦略を考える時、2つのキーワードが浮かび上がる。それは「習熟」と「一括受託」だ。
まず「習熟」とは、文字通り社員一人ひとりのスキルを向上させることである。この点について若山氏は次のよ引こ語る。「実は製造業の現場社員は、メーカーのなかでさえ第一線だとは考えられていません。しかし当社では、本当の意味で現場に光を当て、文字通り技術に磨きをかけることで評価される仕組みをつくりました」。
同社の人事評価制度は非常に明確だ。若山氏は「簡単にいえば、スキルが上がるにつれて賃金が上がる仕組み」だと言葉を続ける。
日本エイムの人事教育制度は、「ジョブ・グレード制度」「業績評価制度」「研修システム」という三つの柱で成り立っている(図表1 )。ジョブ・グレード制度は、「製造現場でのスキルを定量化し、働いている人に対して何をすればスキルが上がるのかを明確に示す。そして上がったスキルとはどういうものなのかを定義し、それによって賃金はいくら上がるのかを示した」ものである。
「ジョブ・グレード(JG )」はJG 1からJG5 までの5段階に分かれている(図表2 )。それぞれ「理解判断」「企画表現」「管理」「態度」「知識」「技能」の6 項目について、満たすべき能力が定められている。これにより、オペレーターからエンジニア、マネジャーに至るまで、業務に必要なスキル基準が一目でわかる。
例えば半導体の製造工程は、大きく分けてフォトリソ、エッチング、イオン注入、拡散、成膜、CMP の6 工程がある。それぞれの工程の具体的作業を洗い出して定量化し、1 工程につきおおむね30 項目の「課題」が設定されている。「これができればJG1 だ、これができるようになればJG2 だと考えればよいわけですから、社員にとってはわかりやすい制度です」と若山氏は説明する。
ジョブ・グレード制度の“肝" は、スキルアップとキャリアアップ(JG レベルのアップ)、賃金アップが完全にリンクしている点である。逆にいえば「検定を受けて次のJG に上がれないような人は、何年いてもそれ以上賃金もポジションも上がらない]仕組みなのである。
明確な評価方法とスキルアップを支える教育制度
またアップしたスキルや業績に対する評価方法も明確だ。同社の「業績評価制度」は、「能力区分(JG )]「成果区分(目標管理)」「行動区分(行動評価)] の3つの視点から社員個々の業績貢献度を査定する。能力区分70 % 、成果区分20 % 、行動区分10 % として昇降給・昇降格を決定し、成果区分70 %、行動区分30 %で業績賞与を決定する(図表3 )。評価は半年に1度行う。
もちろん社員のスキルアップを支える教育制度も備えている。一つはOff-JT による集合研修。講師には、「40 代半ばから50 代半ばの、製造現場で30年近くたたき上げてきた方を当社が雇用しています」と若山氏。現在数十名の講師が、全国の工場を巡回し、座学研修を行っている。その研修プログラムは、以下の基礎知識習得からなる。