連載 調査データファイル 雇用・人事システムの構造改革 第47 回 人材育成①
90 年代半ばに始まった長期不況を機に、年功序列・終身雇用から即戦力採用へと180 度の方向転換を行った日本企業の人材マネジメント。しかし、皮肉にも即戦力採用を重視する企業より、社内育成を重視する企業が高い業績を上げている。いま、人材育成システムの見直しが始まっている。
1. 即戦力重視の限界
バブル経済崩壊後の長期不況は、日本の企業にさまざまな面からの改革を迫った。1980年代まで世界に輝いていた日本企業の人材育成システムも例外ではない。新卒定期採用、年功制、終身雇用制をベースとする人材の内部育成システムは、時間とコストの負担が大きく、時代遅れというレッテルを貼られ、経営不振・危機に陥った企業は中高年を中心とする余剰人員の削減を実行するとともに、成果主義を導入し経営再建に邁進することとなる。
企業は事業領域の「選択と集中」を進め、その過程で必要な人材を内部育成よりも手っ取り早い中途採用で賄う方法を選択。採用戦線は「即戦力」の大合唱である。こうしたなかで、人材の内部育成を維持しようとしたトヨタ自動車は、経営トップが「終身雇用は維持する」と発言するや否や、米国の格付け会社から格付けを下げられる、といったことまで起きている。
即戦力重視の人材戦略は「他社が育ててくれた人材を横取りする」というものである。随分と虫の良い話ではあるが、これを多くの企業が行えば、限られた即戦力の人材の奪い合いになり、当然のように人材不足に陥る。他方、即戦力の人材とはならない新規学卒者は、就職の参入口を著しく狭められた結果、フリーターやニートとなり、社会問題化しているのが現状だ。
本来、労働市場が流動化して買い手市場であるなら、いつでも即戦力の人材を採用できるはずであり、人材不足の問題など起こり得ないはずである。
しかし、現実は逆で、各種統計データを見ても、経営課題のトップは人材問題となっているのが実情だ。サンプルサイズが最も大きい「産業労働事情調査」を見ると、「重視する経営課題」のトップは「人材の育成強化」(60.4%)であり、「財務体質の強化」(35.4 %)や「市場シェアの拡大」(35.3%)の2倍近い数値を示している(図表1)。