WAVE 富士通エフ・アイ・ピー 「キャリアチャレンジ研修」で「気づき」を与え、 1 人ひとりが「将来ビジョン」を考え、 活力あふれるキャリア形成を実現していく
富士通エフ・アイ・ピーでは、「目標管理」をベースとした等級制度へと処遇を切り替え、個人のパフォーマンス向上を目指す人事制度を導入した。しかし、こうした「成果」を問うシステムは、時として社内に“閉塞感”を生むことになる。思うに、それを担保するのが各人のキャリアに対する「気づき」を促す研修ではないだろうか。ここでは、一般社員を対象に2005 年度から取り組みを始めた「キャリアチャレンジ研修」について、詳しく話を聞いてみた。
処遇に差が出て、「モラール」の維持が難しくなってきた
1977年に創設された富士通エフ・アイ・ピーは、ITアウトソーシングサービス、WEBサービス、そしてシステムインテグレーションサービスで知られる従業員数2,600人を超す国内大手SIベンダーである。
しかし、経営環境の変化、さらに技術革新のスピードが急速に進んでいくなか、人的基盤の伸長の面においては、近年、いくつかの問題点について懸念してきた。まず、この点についての背景を語ってくれたのが人事部長の東國光氏である。
「人事処遇システムを合理的、かつオープンなものにする必要もありますが、何より、当社における人員構成比率が大きく変化してきました。というのも高学歴かつ高齢化、それに伴う高コスト体質が進んできたからです。いままで、従業員に対しては年功的に処遇してきたわけですが、それが現実問題として難しくなってきました。それで能力や成果に合致した処遇を取り入れようということで人事制度を改定し、目標管理制度をベースとした等級制度を導入したわけです。確かに力がある若い人にとっては、魅力的な制度ではありますが、その結果、すべての人が必ずしも昇進・昇格できるとは限らなくなったのです。というか、なかには低評価が続いて処遇がダウンするケースが出てきはじめました」(東氏)。
現実に、課長になれない人が出てくる。いや、そういう人が今後は徐々に増えていくことになるのである。
それは、いままで年功的な処遇に親しんできた組織に波風を立てることになっていく。自分のキャリアの行く末を描けなくなるのではないかと。そのことにより、組織全体のモラールが下がることが懸念された。
力を発揮できていなかった人が、再起を促すことができるか
「そのためには、各人が自分のキャリアを描けるようにすることが必要です。皆がこれからの会社における自分のキャリアというものをよく考え、上から与えられるのではなく、キャリアを自らが描き、それに進んでいけるといったキャリアプランの存在が欠かせません」(東氏)。
そうすることで個々人に本来の「活力」が生まれ、組織のさらなる活性化につながる。それには、各自に「動機づけ」を促す仕掛けを施す必要がある。それが今回紹介する「キャリアチャレンジ研修」というわけである。
とにかく目標管理による処遇制度はスタートしていった。重要なのは、制度としてそれにドライブをかけるために、力を発揮できていなかった人たちに対して、再起を促していくこと。それには、「研修」というエンジンを装置することが欠かせないということである。事実、この研修の導入に際しては、経営トップの理解と強い後押しがあった。というのも、各人のキャリアに対する意識の変革なくしては、これからの会社の発展、そして個人の成長はないと考えたからにほかならない。
ただ、この研修を全社的にスタートする前に、トライアルの意味もあって幹部社員10 数人を対象とした「キャリアアップ研修」を3カ月にわたって行ったことが後々のポイントとなることを忘れてはならない。まずは、ここから話を始めるとしよう。2002 年11月のことである。
研修において「気づき」と「資格取得」に重点を置く意味
同社の新しい処遇制度においては、評価の累積が“デジタル”にわかる仕組みとなっており、それをベースに新たに等級を格付(昇級・降級)、処遇する参考データとしている。その結果、評価が低く、例えば降級となった人は“自覚的”にならざるを得ない。しかしながら、それには本人に再起を願う意味が込められている。
「正直に言って、格付けが下がったり、年齢がすぎたりして、一度レールから外れたと感じた人には、再起を願うといっても受け入れがたいでしょう。気持ちの面で、もはや這い上がれないと思うのも仕方がありません。だからこそ再起を促すためには、本人の意識改革が必要不可欠です。ですからある程度、長期間に及ぶ研修を行わないと人の再起は難しいと考えました。3カ月もの間、現場から離して研修を行ったのはそういう理由によります」(東氏)。
簡単に言えば、評価が低いということは自分の能力と仕事がアンマッチであるということである。このことをまずは十分に自覚し、3カ月の研修期間中、この“ギャップ”を何とか埋めなくてはいけないということを受講者には強く訴えた。すなわち、「気づき」を促すことに重点を置いたということ。なぜなら、実際問題として低評価の結果、彼らには職場が変わるという「現実」があるからだ。研修では、人事部やキャリアカウンセラーとの面談も行いながら、後々の実務につながるベンダー系の「資格」も取得してもらった。
ある程度研修が進むと変化が現れた。「自分を見つける機会が持てた」「もう少し早く、こういう研修を受けたかった」といった受け止め方をほとんどの人がしており、各人の表情や態度がそれまでとは全然違っていた。そして研修が終了した半年後、新しい職場でがんばってもらっているかどうか確認を行ったのだが、これには東氏も驚いたという。活き活きと充実した日々を過ごしている。研修で「気づき」「意識改革」といった部分に重点に置いたことが功を奏したのだ。