新連載 NEC が世界4極で展開するグローバル人材育成策― GMLI 第1回 日本と海外拠点の連動で 鍛えるグローバルリーダーの養成
「異文化環境下で的確なマネジメントを行える日本人赴任者が少ない」との問題意識のもと、2005 年よりNECは、日本と異文化マネジメントコンサルタントの河谷隆司氏が拠点としているアセアンを皮切りに中国、欧州、北米と日本人赴任者向け「日本と海外4 極のマネジメント教育のリンケージプログラム」を順次始動させている。これは、海外赴任前のマネジメント力とコミュニケーション力の強化研修と、赴任後の現地での課題解決を目的とする現地リーダーシップ研修の有機的な連動施策である。日本企業初と思われるこの施策を実施母体であるNECラーニング社の協力を得て、現地アセアンから3 回にわたって紹介する。
リンケージ施策の背景と動機
NECは、日本の技術力を背景にしたハード中心の製品を現地で拡販することから、現地市場に根ざした付加価値をつけるSI(システムインテグレーション)事業へと、海外事業の中心を大きく転回するなかで、このような事業を現地で担うことのできるグローバル事業要員が不足しているとの危機感を持っていた。
この危機感を背景に、NEC、NECラーニング、NEC BCCS(シンガポール)をはじめとする世界4極の地域統括会社人事部門は、現地法人と日本でさまざまなヒアリングとアンケート調査を行い、その結果海外拠点における日本人赴任者のコミュニケーション力、マネジメント力の問題点が浮かび上がった。この認識が出発点となり、全社的にグローバル研修体系を見直してきた背景がある。
一方、アジアで異文化マネジメント力強化の支援をしてきた筆者(河谷)は、アジアでの活動のなかから次のような問題意識を強く持っていた。
一つは、現地で展開するマネジメント研修の成果は目に「見える」ものでなければ、現地社長や本社幹部に本気になってもらえないということ。これはアセアン圏での日本人と現地人への「ビデオインタビュー」(連載2回目で事例解説)に結実。
2つ目が、成果は「形」に残さなければ取り組みが全社的に広がらないということ。これは携帯サイズの仮称「NEC ・HR マネジメントガイド」(連載3回目に詳細解説)として編纂中。
そして3つ目が、世界中の多くの赴任者が赴任前教育を受講せず、海外で人の上に立っている異常事態をこれ以上野放しにはできないということである。赴任前教育をすり抜けてしまった赴任者を、現地で迎え撃つことはできない。赴任前教育を本社と地域統括拠点の人事担当者の連携によって、半ば義務化しなければ、赴任者の意識を遥かに超えた高度なリーダーシップやマネジメント能力が必要となっている海外ビジネスに対応できない。
これらの問題意識から、目に見えて(ビデオインタビュー)、形に残り(携帯サイズのマネジメントガイド)、日本本社と現地拠点長にも説得力を感じてもらえる赴任前と現地の連動によるマネジメント教育を着想し暖めていたところ、NEC 社とのご縁があり、本稿で紹介するプロジェクトへと発展したのである。
人材育成を専任とする赴任者が存在しないといっていい海外で、このような取り組みを、点から線、面へと永続させ経営課題の高い優先順位に格上げしていきたい。そのビジョン実現への一歩が、これから述べる「グローバル人材育成リンケージ・イニシアティブ(Global Management Linkage Initiatives 略称GMLI)」だと考えている。
GMLIのプロセス
GMLI とは、海外赴任前の異文化マネジメント教育と、赴任後の赴任者の課題解決を目的とする現地マネジメント教育の有機的な連動施策である(図表1)。
図表2でGMLI の全体ステップを紹介しよう。NEC では、06 年1月現在、アセアン地域でステップ3まで段階的に進展しており、「アセアンHRマネジメントガイド」は06年度上期に完成予定である。
中国、欧州、北米ではステップ2に向けた赴任前研修と現地研修の連動実施検討(執筆時点で日本人対象のみ)の段階にあり、ビデオインタビューやマネジメントガイドには至っていない。