連載 はじめに夢ありき 第10 回 QC サークルの進化形=全員参加の バリューアップ活動で、現場力の源泉を賦活する
QC サークルは日本が世界に誇るプロセスイノベーションである。それは日本企業の現場力を支え、日本企業の高い競争力の源泉となっていた。このQC サークルが揺らいでいる。もったいない。QC サークルの原点に立ち返り、進化形のバリューアップ活動で現場力の源泉の賦活に取り組むべき時である。
日本企業の競争力の源泉 QC サークルの始まり
1970年代から80年代に多くの企業で盛んに行われた「QC サークル」は、日本が世界に誇るプロセスイノベーションである。それは現場での日々の改善活動を支え、職場単位でのボトムアップを実現した。
「現場力が揺らいでいる」といわれて久しい。2007 年問題を例に引くまでもなく、多くの場所でベテランが減少し、技術・技能の伝承が課題として認識されている。「現場力をなんとかしなくては……」との問題意識は現在日本企業が抱える共通の危機感であるともいえる。
70 年代から80 年代にかけ、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれた時代があった。この時代に、日本企業が高品質・低コストを実現できた根底には、QC サークルを核とした現場の改善提案活動があったと私は考えている。
もともと日本のQC サークルは、戦後GHQ が日本製品の品質の悪さを改善しようとしたことに端を発している。GHQはQCに関する専門家をアメリカから呼び、日本にQC の意識と手法を学ばせようとした。アメリカではQC は専門家が行うものであったが、当時の日本にはそのような専門家がいなかった。そこで、GHQの指導を受けた日本の経営者たちは、技能を持った工長や職長といった生産現場の監督者にQC を学ばせた。彼らは現場の技と知恵で改善提案的な活動を行えば、アメリカのQC と似たようなことができるのではないかと考えたのである。
これが幸いし、現場発の品質管理活動は大きな波となって広がっていった。62 年には専門誌『現場とQC』が創刊され、QC サークルの結成が呼びかけられた。こうした現場からの品質改善活動が「工程で品質をつくり込む」といった、日本独自の品質向上が実施され、日本企業の競争力となっていったのである。
専門家が行うアメリカのQC とこのような現場チームによる日本のQC の最大の違いは、そのボリュームにある。例えばホンダを例に取れば、QC サークル(NH サークル)は世界中の事業所で展開され、年間1万サークルが結成され10万人以上が参加している。また改善提案は国内だけでも毎年15万件以上(最高時40万件以上)が行われている。これを5年、10年と続けていけば、膨大な数の改善が実施されることになる。
一方で専門家が行う改善活動は、多くても年に数千件ではないかと思う。現場チームによる活動は専門家ほど高度でもなく、大きな活動でもないかもしれないが、圧倒的な数と参加部署の幅の広さからいって、「現場力アップ」としての実効性が高いのは後者のほうだ。
また見逃してはならないのは、これらの活動がイノベーションのベースとなっていたことである。小さな改善提案活動の積み重ねの中で、イノベーションのシーズが現場レベルで認識されていく。特に日本企業のQC サークルは研究現場や営業現場をも巻き込んだことが特徴でもあり、シーズ発掘の意味合いも濃かったといえる。ちなみに70 年代、80年代のアメリカBIG3 では、このような活動はほとんど行われていない。QC サークルが日本企業の優位性を生み出したのは、当然ともいえる流れだったのだ(図表1)。