連載 調査データファイル 第64 回 人材育成への復帰
日本経済復活の影で一連の規制緩和・撤廃政策がもたらした負の部分が問題視されている。格差問題である。正規雇用と非正規雇用の格差も、好況による人手不足が非正社員の正社員化を促し、格差問題を解消させるといったレベルの問題ではなくなってきた。就職氷河期に学校を卒業してまともな職業に就けなかった人たちも、先発隊は既に三十路を超えており、中年のフリーターやニートを正社員として雇う会社などないであろう。このまま放置しておけば、既にフリーター・ニートになってしまった人たちは、新たな貧困層を形成していく可能性が極めて高い。彼らに能力向上の機会を提供することのできる政策的対応が必要である。
1. 非正規雇用の増加
不況下におけるグローバル化とIT ・技術革新の急速な進展は、雇用形態に大きな変化をもたらした。正規雇用の縮小と非正規雇用の急増である。非正規雇用の増加は、1990年以降の不況過程で顕在化している。90年から05年までの推移を見た図表1によれば、正規雇用はこの間に155 万人減少し、構成比も12.1 ポイント低下している。これに対して、非正規雇用はこの間に710 万人増加し、構成比も12.1 ポイント上昇している。
こうした非正規雇用の増加は、不況下での人件費コストの削減に加えて、労働者派遣法などの改正による規制緩和も、強く影響している。さらに、ITを中心とした技術革新の進展によって、正社員が担当していた職務のなかから、比較的技術や経験の要らない仕事を切り出し、それを非正社員に担当させるというマネジメントが可能になったことも、大きく影響している。こうしたマネジメント手法は、製造業よりも流通小売業やサービス業において、より普及している。
事実、03年から05年における非正規雇用変動の要因を見た図表2によれば、非正規雇用の増減要因を、①産業構造が変化したことによる要因、②産業全体の雇用者数が変化したことによる要因、③産業内の非正規雇用比率が変化したことによる要因に分解すると、③の産業内非正規雇用比率変化要因によって、7割程度が説明可能である。しかも、産業内非正規雇用比率変化要因におけるサービス業、卸売・小売業の占める比重は非常に大きい。
これに対して、非正規雇用者比率の高いサービス業の比重が高まるという経済のサービス化の動きを反映した産業構造変化要因は、2割程度の寄与となっている。