世界で闘うリーダーになる最終回 グローバルで闘う方法論~その2 リーダーシップと「 志(こころざし)」
「今、日本企業にはリーダーが足りない」――。そう話すのは、日立製作所でグローバル人財戦略を担った山口岳男氏。リーダーを増やすために、まずは人材開発の担当者一人ひとりが、自身がリーダーになる意識を持ち、努力する必要があるという。
日本企業がグローバルで戦う方法とは。また、グローバルで通用するリーダーシップはどのように身につければよいのか。本連載では、同氏がこれまでの経験で得た知見を交えて、5回にわたり解説する。
リーダーシップへの危機感
先月号で私は「世界で闘うビジネス・パーソンになるための強化メニュー」についてお話しました(図1)。今回はその中の「2リーダーシップを鍛錬する」について説明します。
私は、日立が買収したカリフォルニア州サンノゼの会社に赴任し、人事責任者として仕事をしていました。その間、ずっと抱いていたのが「日本人のリーダーシップは、どう見ても見劣りする」という危機感でした。
日立はリーダーの育成に多額の投資をし、経営者の育成、グローバルリーダーの育成に関して、さまざまな仕組みやプログラム、トレーニングを整備していたと思います。それなのになぜ、太平洋をまたいで組織で業績を上げようとすると、日本人のリーダーはつまずくのか。仕組みや仕掛けが上手くいっていないのか、リーダーとしてのスキルやマインドに問題があるのか――。これは、買収した会社を運営するうえで、大きな経営課題でした。
6年半の米国勤務を終えて日本に帰国した後、有能なリーダーが発揮していたリーダーシップを思い起こして、リーダーシップの在り方をまとめてみようと思いました。サンノゼで目にしたリーダーシップは、個人のキャリアや経験により千差万別である一方で、多くの部分で共通するものがありました。そうした共通するリーダーシップをリーダーの初期段階で計画的に身につけさせることが必要なのではないか、と思い至ったのです。
リーダーシップの方法論
私はリーダーシップの方法論は「守破離」にあると考えています。デジタル大辞泉によると「剣道や茶道などで、修業における段階を示したもの。『守』は、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。『破』は、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。『離』は、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階」とあります。私が高校の体育で少しだけ柔道を習った際、最初に学んだのはいわゆる「受け身」でした。これを何度も何度も繰り返し、身体が覚えるまで練習するのです。
基本的にはリーダーシップの鍛錬もこれと同じではないかと思います。意識せずに身体が自然に動くレベルまで持っていく。つまりリーダーシップと意識せずとも、リーダーとしての立ち居振る舞いができるようにならなければならない、ということです。
リーダーシップの7 つの型
この立ち居振る舞い方、つまりリーダーの初期段階で身につけるべきリーダーシップの基本型を、私は7つの型に整理しました。これは守破離における「守」の段階に当たります。一つずつ説明しましょう。
・第1の型『Inspire』
まずは「ビジョンを示す」ということです。「リーダーたるもの、ビジョンを示せ」と言いたいのです。ただし、格好だけよい、綺麗な言葉を書き連ねたビジョンを作って伝えろと言っているのではありません。組織や仕事をどのような状態に持っていきたいのか、自分なりの想いや意志を示すことが必要です。
まずは自分のやりたいこと、本気で実現したいこと、在りたい姿を明確にし、自分の言葉で表現してみる。それを自分のステークホルダーに伝えることで、彼らをその気にさせるのです。つまり「自分のやりたいことを言語化し、表現して相手を心の底から感動させてその気にさせる」ということになります。
そのための要件は、まず①リーダーがビジョンを心の底から本気で信じているということ。そして、それは②自社や自組織のビジネスのコンテクストの中で考えたものであり、③少なくとも今後3~5年後の姿を想定したビジョンであること、が必要です。さらに、今はできていないが努力すれば達成可能だとリーダーが心底信じており、その内容は④チームをワクワクさせるような何か、でなくてはなりません。ワクワク感はチームを鼓舞し、自ら一歩を踏み出す勇気を与えてくれます。