J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2018年03月号

THEME「会社と個人の関係」 限界に達する雇用システム キャリアの自律支援で 内向き組織からの脱却を

20 世紀も終わりに近づいた1999 年1月号の小誌で、大胆な予測を交えながら
「個人と会社の関係は、今後大きく変わる」と語ったのは自律的キャリア論で知られる高橋俊介氏。
それからおよそ20 年。個人と会社の結びつきはどのように変化したのか。
高橋氏に再び考察いただいた。


高橋俊介(たかはし しゅんすけ)氏
ピープル・ファクター・コンサルティング/
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授

1954 年生まれ。東京大学工学部卒業、米国プリンストン大学工学部修士課程修了。
日本国有鉄道(現JR)、マッキンゼー・ジャパン、ワトソンワイアット株式会社代表取締役を経て、ピープル・ファクター・コンサルティングを設立。現在に至る。慶應義塾大学大学院では、キャリア・リソース・ラボラトリーに参画、学生や若手ビジネスパーソンを対象に、自律的キャリアの形成に尽力してきた。著書に『自分らしいキャリアのつくり方』(PHP研究所)など多数。

[取材・文]=田邉泰子 [写真]=編集部

3つの無限定性、手放す時

―今、改めて1999年1月号の記事をご覧になり、どのような印象を受けましたか。

高橋俊介氏(以下高橋)

当時の特集では、経営環境、労働市場が大きく変化する中、個人と会社の関係もまた変わることを、監修の立場から指摘しています。手前味噌にはなりますが、「あの時、言った通りになっているじゃないか」というのが実感です。

―1990年代末といえば、第2次平成不況に金融ビッグバン、ITバブルと経済社会が大きく動いた時期です。

高橋

大学卒業後、正社員になり、同じ会社に定年まで勤め上げるという働き方は高度経済成長期に主流になりました。ただし、正社員は「どんな仕事でもやる」「何時まででも働く」「どこにでも転勤する」という3つの無限定性に縛られていました。だからこそ会社は年齢に合わせた賃金カーブを労働組合と協議したり、社宅を用意したりし、彼らの人生を背負ったのです。つまり、終身雇用と3つの無限定性は、日本の雇用制度の両輪をなしていたといえます。

このシステムは、バブルが崩壊してもしばらくは当たり前に機能していました。その間、企業は経営が苦しい中、何とか生き残ろうといろんな延命策を講じてきたわけですが、景気後退だけでなく経営環境の変化も大きく、これまでのやり方ではうまくいかなくなってきた。それがいよいよ露呈したのが1997年です。この年、山一證券など複数の金融機関の経営破綻、大手メーカーの大規模リストラが相次ぎました。「一流企業に入社できれば一生安泰」という常識が覆り、従来の雇用システムに大きな亀裂が入りました。

―それから20年、非正規雇用の増加や地域限定職の導入など新たな動きもありましたが、正社員の「3つの無限定性」は、大きく変わっていないようにも思えます。

高橋

3つの無限定性は社員を思うままに動かせる武器ですから、会社としては手放したくなかったんです。本当は1997 年の時点で、「社員を一生面倒見るのは難しい」と分かっていたはず。それならば、もっと早い段階で個人の人生選択を重視する仕組みに切り替え、激しい転勤や長時間労働をこなすのは一部のエグゼクティブに限定すればよかった。しかし、会社はそれをせず、「人を大切にする」と言いながらひたすら時間稼ぎをしてきました。それもいよいよ限界に達しているのが今なのだと思います。

働き方改革も女性活躍も、これまでの雇用システムでは立ち行かなくなったからこそ出てきた議論。さらに「同一労働同一賃金」の議論が真剣になされるようになれば、それはもう「従来のような正社員雇用はもはや無理だよ」と社会が言っているようなものです。

―働く人の価値観も変わってきました。

高橋

たしかに、若い人の価値観は昔とは違うように感じます。40 代前半から下の既婚者は「イクメン」も多く、家族を大事にし、会社に人生を捧げる生き方に疑問を感じていますよね。

彼らは2000 年代を通し、新しい価値観の形成につながる出来事をたくさん経験してきました。各社が採用を抑えた就職氷河期の頃は、ベンチャー企業に社会の注目が集まりました。当時、ベンチャーといえば、一旗揚げたい若者たちが集まるアグレッシブな会社、という印象があったものです。ところがそれも、2006 年のライブドア事件をきっかけに変わっていった。世の中のためになる仕事に就きたいと、稼ぐこと以上にやりがいを重視する若い優秀な人が現れるようになったのです。私が所属するSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)でも、就職せず、NPOやベンチャーを立ち上げる学生が目立つようになりました。

そして、2011年に東日本大震災が起こります。これを機に家族との絆や地域貢献など、会社以外の場でのつながりを意識する人が増えてきた。

加えて、2016 年、リンダ・グラットン教授の書籍『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社)がブームになりましたね。今や政府ですら「人生100年時代」という言葉を取り上げ、定年後のキャリアについて討議しています。会社中心の生き方はもはや成り立たないことに、みんな気づき始めている。特に若い人はその空気を敏感に感じ取っているのではないでしょうか。

新しい働き方を会社が支援

―これだけ環境の変化が激しい中、個人と会社はその動きに対応できているのでしょうか。

高橋

どちらかというと、企業側の意識変革が遅れている印象を受けますね。働く側にはプロボノ(仕事で獲得したスキルを活用して社会貢献活動すること)で活躍する人、子どものそばで働けるからと在宅ワークをするなどが出てきました。

しかし、新しい働き方に会社が対応できているかというとそうでもない。ビジネスモデルの変革が進む時代ですから、本来なら、会社側が社員に先んじて変化すべきなのですが。

新たな動きに目をつぶり、昔ながらの3つの無限定性を盾にそのまま突き進んだ結果が、相次ぐ不祥事や事故ではないかと。こうした企業は大規模なリストラもせず、一見、人を大切にしているかのように映りますが、結果的に時代に取り残されています。

むしろ経営が立ち行かなくなる前に大胆なリストラや構造改革を行った企業のほうが、結果的に社員の自律が進んだように見えます。「会社の中で人生を全うしなくてもいい、豊かな人生を送るために何をすべきか、自分で考えてください。会社もそのための支援はしますから」とメッセージを発信し、個人のキャリアの自律を促す企業も少なくありません。

―ビジネスモデルの変化は、人材育成にも影響を与えそうです。

高橋

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,217文字

/

全文:4,434文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!