J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2018年03月号

THEME「戦略人事」 このままでは育成機能は捨てられる! 日本企業が今すぐ着手すべき 戦略人事・育成 5つの変革

長年にわたり、日本における人事マネジメントを理論の面から先導してきた守島基博教授。
本誌においても、たびたび重要な提言や解説を行ってこられた。
なかでも2000 年12月号の記事「戦略人事とは何か」は、
日本企業の人事がめざすべき方向を提示する内容であった。
それから18 年。日本企業の戦略人事における進展度合いと、人材育成に関する課題と対策を聞いた。


守島基博(もりしま もとひろ)氏
学習院大学 経済学部 経営学科 教授

1982 年、慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻修了課程修了。
86 年、米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了、組織行動論・人的資源管理論でPh.D.を取得し、カナダ・サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。90 年慶應義塾大学総合政策学部助教授、98 年同大大学院経営管理研究科助教授・教授、2001 年一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017 年より現職。
近著に『人材の複雑方程式』(日本経済新聞出版社)、共著に『世界の工場から世界の開発拠点へ』(東洋経済新報社)、『人事と法の対話―新たな融合を目指して』(有斐閣)、『健康いきいき職場づくりー現場発組織変革のすすめ』(生産性出版)などがある。

[取材・文]=崎原 誠 [写真]=編集部

「戦略人事」の進展は?

―2000年12月号の特集で「戦略人事とは何か」をご提言いただきました(図1)。記事を読み返して、今お感じのことは。

守島基博氏(以下守島)

振り返ってみると、私の主張は18 年前から変わっていません。裏返していえば、同じことを言い続けなければならなかったということです。戦略人事の必要性は、当時よりさらに高まっています。

一方で、人事・人材開発の置かれている環境には、変化した点もあります。今、人事の最大の課題は、採用とリテンション(定着)です。教育は、人を採用できて、リテインできて、初めて成立します。しかし2000年当時、特に大企業は、採用とリテンションにはあまり困っていなかった。だから、採用した後で、自社の戦略を実現するためにどう育成するかを考えればよかったのです。

ところが昨今は、その前提が崩れたことで、人材育成には、「戦略を実現するための人材をつくる」という本来の役割に加え、教育機会が豊富にあるからこの会社に入社する、もしくは残るという、一種のインセンティブとしての意味合いも大きくなってきました。

―採用が難しくなり、戦略に合う人材を必死に確保している状態ですか。

守島

採用が本当に難しくなったのはここ1~2年です。大企業では今でもまだ、全く人が採れないという感覚はお持ちではないでしょう。それよりも、「厳選した人材を採り、戦略に合わせて育成していこう」という流れができてきました。

また、戦略変化のスピードが速くなり、新入社員から育てていては間に合わないと、多くの企業が中途の経験者採用にシフトしてきています。

ただ、そうした中でも戦略人事の方法論の原則は変わりません(図2)。人材像を明らかにし、ポートフォリオを構築し、それに合わせた人を採用し、パフォーマンスマネジメントなどを行っていくというステップは同じです。

―「戦略人事」という言葉自体は浸透してきました。日本企業の進展度合いは、どのように見ておられますか。

守島

多くの企業が戦略人事を行おうとしていると思います。

そもそも、企業にとって戦略人事が本当に必要となるのは、戦略が変わる時です。新たな戦略を担える人材が必要になりますので、部分修正では立ち行かなくなります。日本では2000年ごろから10 年ほどの間に、多くの企業が、戦略を大きく転換しなければならない状況に直面し、その過程で、「戦略に合わせて人材を確保する」という考え方が定着しました。

そのための方法論も確立されてきました。先の記事でも紹介した「パフォーマンスマネジメント」と並行して、「タレントマネジメント」という考え方が出てきました。タレントマネジメントやパフォーマンスマネジメントが多くの企業で議論され出したのは2010 年ごろからですが、さらにこの1 ~ 2 年ほどは、「HR Tech 」と呼ばれるさまざまなデジタルツールの進化により、人事が行えることの量やスピード感、適用範囲が大きく変わりました。

―「戦略人事」を効果的に行えている企業はどちらでしょうか。

守島

代表例は日立製作所です※。グローバル化・事業の選択と集中という経営戦略を進めるうえで、どういう人材が必要かを明確にし、それに合わせてタレントマネジメントとパフォーマンスマネジメントを行っています。日立ほど明確な意図を持っている企業は少ないですが、「戦略を変えるなら人も変える」という認識は多くの企業に広まってきたといえます。

※小誌2016年6月号に詳細あり。

組織文化はマネージできる

―日本企業の取り組みを概観して、先の「4つのステップ」(図2)の中で欠けているというところは。

守島

「人材像の導出」や「人材ポートフォリオの構築」は、タレントマネジメントの中で行われるようになってきました。またパフォーマンス・マネジメントも実施されるようになってきました。できていないのは、「組織文化のマネジメントと変革」です。

日本企業や日本人は、「組織文化」や「組織風土」は簡単には変わらないと考えます。「うちはこういう文化だから〇〇ができる・できない」という意識です。一方、欧米企業は組織文化を「マネージできる変数」と捉えます。

グローバル化を例に挙げれば、グローバルなビジネス展開では、世界中に拠点が点在していても、同一のスキームの中で判断や行動をできるようにすることが重要です。それを実現するには、職務プロセスやプロジェクトマネジメントの見直しも当然必要ですが、仕事の進め方や、働くうえでの価値観や考え方の変革が欠かせません。

例えば携帯端末メーカーのノキア(本社:フィンランド)は、2005 年ごろから世界的シェア拡大をめざし、大手企業のみを相手にするそれまでのやり方ではなく、社員が多様な地域の人とバーチャルなチームを組んで仕事をしていけるよう、徹底した文化改革を行いました。グローバルな文脈で「組織文化のマネジメントと変革」を行うとは、例えばこうした「組織としてのグローバル化」をすることなのですが、ここまでできている日本企業はほとんどありません。戦略達成のための人材育成はしていても、その人たちが活躍する“舞台”が構築できていないのです。

育成部門に戦略マインドを

―パフォーマンスマネジメントでは評価、処遇、育成の一貫性が大事だとも2000年に述べておられますが、この点の進展は。

守島

そこは難しいですね。大きな問題は、多くの企業で育成部門と評価・処遇を担当する部門が分かれており、それぞれ目標が異なることです。「優秀な人をつくりたい」という点では共通していますが、評価・処遇部門にとっての優秀な人は、戦略を達成するために必要な貢献をしてくれる人。それに対して、育成部門は、あまり前提がなく、ただ「優秀な人」をつくろうとしている。日本企業の育成の最大の問題はここにあります。

つまり、人事の機能を採用、評価、処遇、育成の4つに分けた時、育成だけ、戦略とのリンクが遅れているのです。育成部門も、もっと戦略マインドを持たなければなりません。人事全体で戦略を立て、その中に育成の方針を位置づける必要があります。

―戦略が変われば、育成プログラムも変えなくてはなりませんね。

守島

はい。そうしないと、育成機能はどんどん軽視されていきます。育成というのは、時間とコストがかかる一方で効果が見えづらく、特に選抜型教育などは、現場から人を引き離す機会費用も大きい。そのため、戦略に合った人材が育成できていないと、「採用したほうが早い」、もしくは「評価で人の行動を変えたほうが早い」と判断され、育成は軽視されやすいのです。

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