J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2018年03月号

経営・人事・組織の30 年を振り返る 経営的視点を持ち 学び続ける人事・人材開発であれ

特集の最初に、日本企業の人事・人材開発の
約30 年の旅路を概観したい。
長年にわたり、この分野のコンサルティングを続けてきた海瀬章氏が
これまでの時代を1990 年代・2000 年代・2010 年代に区切り、
「経営・経済」「人事」「育成・教育研修」「組織活性化」
の4つの動向を解説。
そのうえで、未来への羅針盤となる提言を行う。


海瀬 章(かいせ あきら)氏
日本能率協会マネジメントセンター パートナーコンサルタント

1972 年、社団法人日本能率協会入職。経営教育総合研究所にて多数の企業に対し、人事・教育分野の制度設計、教育調査・研究、研修企画を支援し、自らも研修講師を務める。1994 年より日本能率協会マネジメントセンターHRM事業本部にて、企業への人事教育コンサルティングや若手コンサルタントの指導育成にあたる。現在も多くの企業で人事・教育分野のコンサルティングや講師を務めている。

[取材・文]=瀧川美里 [写真]=中山博敬、編集部

成果主義中心に移行

1990 年代を人事施策の面で一言で概観すると、職能資格制度から成果主義による資格等級制度へと移行し、後半から調整に入ったといえる。

【経営・経済動向】

組織のスリム化・フラット化

前半にバブルが崩壊し、経済が低迷した1990年代は、組織のスリム化が図られた時代である。多くの企業で人員削減や事業の再構築が行われ、係や課を廃止して部制にするフラット化が進められた。

90年代後半からは生産拠点を海外に移す企業が増え、国内産業の空洞化現象が起こり始める。

【人事施策の動向】

成果主義を軌道に乗せる動き

こうした経済動向を踏まえた90 年代の人事施策の動向は、「成果主義人事への切り替えが行われた」ことに尽きる。

日本(企業)はそれまで、個人主義よりも集団・組織主義の考え方が強く、組織全体で一丸となって目標を達成しようとする傾向があった。よって、1965年~ 90年代頃までは職務遂行能力を分類して、等級別に分ける形で能力主義による職能資格制度を運用し、うまくいっていた。

しかし職能資格制度は能力の評価が難しく能力要件が曖昧になり、かつ社員に対するインセンティブ強化のために等級数を増加させたことで年功序列的な運用になっていき、十分に機能しなくなっていった。さらに経済・景気状況の悪化も、職能資格制度の運用を困難にした。そのため、職務を中心としたアメリカ的な制度へと、多くの企業が人事制度を変更していったのである。

この切り替えに伴い、処遇や賃金の面でも、管理職以上を中心に成果給や業績給を増やし、年齢給のウエートを下げるという形で調整が行われた。年俸制を導入する企業が多く出たことも、大きな変化である。

成果主義を軌道に乗せるマネジメント手法としては、目標による管理が復活し、制度化されたことも時代の特徴といえる※。

※目標管理は1940 年代に一度導入されたものの、戦後復興期で景気が上り調子だったために制度化はされなかった。
成果主義への移行と共に90年代に導入が進み、修正されながら8 割以上の企業で今日まで続いている。

【育成・教育研修施策の動向】

目標管理制度運用に向けた研修へ

育成・教育面では、成果主義をうまく運用するための研修が実施された。主なものは、目標設定の方法や評価の仕方等を教える目標管理研修と、評価者向けの面接・評価フィードバック研修である。

他方、景気の低迷によるコスト削減の動きは、教育投資の配分にも影響を及ぼした。全体の底上げ研修から選抜型研修に移行した。具体的には、会社の基幹人材を育成するための選抜型ビジネスリーダー研修に投資が集中されるようになった。

同時に、グローバル化に対応するため、国際要員の育成も盛んに行われた。英語教育、異文化を学ばせる研修や海外派遣研修といったものである。

1990 年代後半からは個人の主体性を高めるコーチング研修やキャリア研修も始まり、2000 年代に花開く。

【組織・現場力の変化】

組織主義から個人主義へ

リストラや組織のフラット化は、それまで協働意識やまとまりのあった日本企業の職場を大きく変えた。フラット化によって課長や係長などの役割が薄まり、マネジメントの責任が曖昧になったために、組織の機能が弱まった。また、目標管理制度により、業務遂行に対する個人志向が強まり、「自分の目標を達成できればそれでいい」という考え方が蔓延。メンバー間の交流や協働が減少し、組織がバラバラになった時代でもあった。組織活性化の役割を内包していた小集団活動や改善活動が行われなくなり、職場の活力も低調であった。

成果主義の再整備に取り組む

さまざまな弊害をはらんだ成果主義だが、それは成果業績志向のアメリカ式をそのまま導入したからに他ならない。ゆえに2000 年代は、成果主義の日本的な再整備が進められた。

【経営・経済動向】

組織体制を整える

21世紀初頭も景気は低調であり、消費も低迷していた。金融機関の再編成が行われ、失業率も高く、有効求人倍率も低かった。中頃には一度持ち直したが、2008 年にはリーマンショックによって、再び世界経済が低迷。株価平均も最安値を更新した(2009 年)。また、この頃から少子高齢化と人口減少が大きなテーマとして顕在化する。事実、日本の人口は2005 年に統計史上初の自然減となり、2015 年ごろを境に下降している。

経営的な変化として大きいのは、外国人投資家「もの言う株主」の台頭によって企業統治体制が変化していったことである。企業の社会的責任やリスクマネジメント、コンプライアンスなどが注目されるようになり、あらゆる面で組織の体制整備が行われた。経営指標の達成度を評価・加速するため、KPI(重要業績指標)を設けたのもこの時代である。

【人事施策の動向】

成果主義の弊害を取り除く

先述の通り、90 年代の成果主義導入の弊害が現れたため、多くの企業でこの時代、成果主義人事の再整備が行われた。

人事制度面では、役割・職務等級制度の導入である。それまでの成果主義人事制度では、職務や等級を細かく分類し過ぎてしまい、運用がしにくかった。そこで、役割・職務等級制度では、「営業職群」「製造職群」といったように大きな括りで仕事を分類し、それに対して等級を設定するフレームにした。以前の職能資格制度で10 ~20 段階に分けられていた等級を、6~8段階にまで減らして運用しやすくする変更が行われた。

評価は、成果主義導入の初期では個人目標の達成度のみが賞与に反映されていたが、組織業績も反映されるようになった。会社全体や部門の評価を加えることで、組織としての目標に対する協力意識を高めるように見直した。

優れた人材の行動特性を整理したコンピテンシー評価と業績評価の2軸で評価するようになったのも大きな動きであった。自己評価に加え360度評価を導入し、育成や評価に反映する会社も、この頃増えた。

ダイバーシティとWLB

なお、2000 年代後半には、少子高齢化による労働力不足が懸念されるようになったことから、「ダイバーシティ」や「ワークライフバランス」という言葉が俎上に載るようになる。

ダイバーシティの面では、外国人労働者や非正規社員のための雇用形態が整備された。働く人の価値観、能力開発、雇用形態などさまざまな面で多様性に対応させた体制をつくっていくことが求められるようになった。中心になったのが女性活躍推進である。政府は育児・介護休暇や次世代育成支援対策推進法など、女性の労働人口を増やしたり、女性の管理職比率を上げたりするための法を整備した。

ワークライフバランスの面では、裁量労働制の導入や長時間残業の規制が進んだ。また働く人の主体性を高めるために社内公募制や社内FA制度を導入した企業も多く見られた。

【育成・教育研修施策の動向】

教育機能の見直しと調整

育成の動向では、人事施策で設けられたコンピテンシーを実際に開発するために、コンピテンシーを能力や態度、知識に分解して研修プログラムにしたコンピテンシーラーニングや、行動による気づきを促すアクションラーニング等が行われた。

キャリア開発支援促進の動きが強まったのも2000 年ごろからである。それまでは年代別のキャリア研修が行われていたが、キャリアコンサルティングを行う部署ができたり、人事部門がキャリア面接を行うようになったりと、個人のキャリアを支援する総合的な体制が整備された。

教育機能の強化を目的として、教育の分社化や企業内大学・塾の設置も行われ、企業内塾の塾長には経営トップが就任した。同時に、組織のまとまりを強めるため、多くの企業が会社の考え方や社是、経営理念を徹底させようと、経営理念や行動指針作成・浸透に取り組んだ。

教育研修の内容としては、問題解決力や論理的思考力、改革発想を高めるための企画力やプレゼン力の向上や、セクハラ・パワハラ等に関する研修が増えた。

指導・育成方法としては、1990 年代の終わり頃から始まったコーチング研修が非常に活発になる。学習効果を高めるために、インストラクショナルデザインや教育の効果測定方法の普及、eラーニングの導入など、学習形態が大きく変化した時代である。

【組織・現場力の変化・活性化施策の動向】

現場力・組織力を高める

景気の低迷や、成果主義人事の影響等で社員のモチベーションが低下し、チーム内での協力・支援も弱体化しつつあった。よってコミュニケーションを活発化して現場力や組織力を強化する取り組みが行われた。

具体的には、チームビルディングやファシリテーション研修などが活発化した。AI(アプリシエイティブ・インクワイヤリー)やフューチャーサーチなどの対話型組織開発の多くの手法の認知が進んだのも、2000 年代初頭である。

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