J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2018年03月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 視野の拡大と課題解決を 同時に行う教育で 考え企画し実行する組織へ

森グループを源流とし、60 年の長きにわたり、都心部の大型開発や各地のリゾート地でホテルやリゾート事業を行ってきた森トラストグループ。
2016 年6月に、森章氏(現会長)から社長を引き継いだのが、森章氏の長女の伊達美和子氏だ。
伊達氏は、ともすればトップダウンになりがちな組織の体質を変えるべく、新しい知識と方法論を取り入れる教育に自ら注力している。その思いと具体策とは。


伊達 美和子(Miwako Date)氏
森トラスト 
代表取締役社長
生年月日 1971年5月7日
出身校 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科

主な経歴
1996年 4月 長銀総合研究所 入社
1998年10月 森トラスト 入社
2000年 9月 取締役
2003年 3月 常務取締役
2008年 6月 専務取締役
森トラスト・ホテルズ&リゾーツ 専務取締役
2009年 6月 万平ホテル 代表取締役会長
2010年 5月 森トラスト・ホテルズ&リゾーツ
代表取締役専務
2011年 6月 森トラスト・ホテルズ&リゾーツ 
代表取締役社長
2016年 6月 森トラスト 代表取締役社長
現在に至る

企業プロフィール
森トラスト
1970 年設立。起源は経済学者で実業家でもあった森泰吉郎氏が創業した森グループ。その後、現会長の森章氏が森トラストグループを形成。都心部の大型複合開発やリゾート地のホテル&リゾート事業を展開。
資本金:300 億円(2018 年1月現在)、連結営業収益:1402 億円(2017年3月期)、連結従業員数:2433名( 2017年4月現在)

インタビュー・文/村上 敬
写真/中山博敬

ホテル事業は今後も成長が見込める

―2年前に現会長のお父様(森章氏)からバトンを受けて、社長に就任。中長期ビジョン「Advance2027」を発表しました。

伊達(美和子氏、以下伊達)

中長期ビジョンの発表は、森トラストとして初めての取り組みになります。会長は、会社の目的や目標は時代・環境に合わせて常に変化するという考え方。いったん目標を定めると、それに縛られ、時代・環境の変化に即応できる柔軟性が奪われることを危惧していたからです。

私も基本的に同じ考えで、踏襲していきますが、会社がある程度大きくなった今は、何かしら目標があったほうが社員も仕事をしやすいと考えました。そこで1 ~ 3年先に絶対達成しなければならない固い目標ではなく、「Advance2027」として、十数年先の緩やかな目標を掲げることにしました。

―では、10数年先を見据えた経営戦略の、具体的なところを教えてください。

伊達

我が社には事業の柱が3つあります。最も安定的なのはオフィス事業で、これは無理をせずに伸ばしていきます。2つめの柱であるホテル事業は成長分野なので、今後も加速させます。さらにもう一つ先の成長を見据えるという意味で3つめの柱に据えたのが投資事業です。これにはドメスティックだけでなく海外への投資、スタートアップへの投資、M&Aなどが含まれます。この3つの柱を育てていくにあたっての中間目標が「Advance2027」という位置づけです。

―都心で3件、地方で14件の新規ホテル開発を計画するなど、ホテル事業に積極的です。

伊達

ホテル業界はバブル崩壊後、東京以外ほとんど投資されない状況が続いていました。しかし、インバウンドという新しいマーケットが現れたことで、現在は一転して拡大傾向にあります。我が社は十数年前から、業界に先駆ける形で都心に高級外資系ホテルを誘致し、さらに地方都市やリゾート地にも広げてきました。それが今ちょうど良い形で実を結んでいます。

市場の拡大はまだこれからです。世界の国際旅行の人口は毎年2~3%伸びており、そのシェアを取ることでさらに伸びると捉えています。ホテル事業は先行投資型なので、ニーズのあるところに投資をするというより、新たなニーズを生み出すために投資をします。お客様がここに行きたいという価値ある場所をつくることができれば、さらなる成長も期待できるでしょう。

―安定的な成長を見込むオフィス事業でも、新しい挑戦は行っていくのでしょうか。

伊達

オフィス事業は、きちんと資金調達して土地を入手し、正しい商品をつくることが大事です。ただ単に、箱があればテナントが入るという時代ではありません。オフィス空間の在り方も変化しています。今は個人の生産性をどうやって高めるのかが重要なテーマです。テナントさん自身がそうした空間をつくりやすいように、私たちがどのようなビルをつくるのか。そこにはクリエイティブな要素が求められるでしょう。

新しい挑戦に必要な3つの力

―事業で新しい挑戦をすることを踏まえると、今後はどのような人材が必要になりますか。

伊達

今までのやり方を踏襲すれば今後もうまくいく、という保証はありません。変化のスピードが速い時代において、社会が求めるものに会社として即応し提供していく必要があります。そのためには、社員の側から状況に応じたより良い手法を積極的に提案してもらわないといけない。言われたことを受け身でこなすのはなく、自ら考えて動ける自律的な人材が求められているのです。

自律的に動ける人材には、3つの力が必要です。まず「考える力」。また、考えたことを目に見える形にまとめる「企画する力」も大切です。さらに、企画を実現するためには社内外の、多くの人の協力が欠かせません。ですから、自らリーダーとなって周りの人を巻き込んでいく「実行する力」も身につけてほしいです。

―これらの力を磨くために、どのような育成を行っていますか。

伊達

2016年に社長に就任後、「MT MEETUP FUTURE」という社内講演会をスタートしました。

これは、我が社の将来事業を見据え、関心を寄せている社会の動きやテーマについて、複数の有識者をお招きし、お話しいただくものです。社員みんなでその知識を共有し、一人ひとりの視野を広げてもらいたいと考えて始めました。例えば「AI化」という時代の流れを理解していれば、そこから新しいアイデアが生まれてくることもあるはずです。

知識がアップデートされて共有化されれば、社内で議論が盛り上がって「AIを実務でこのように活かそう」という話も出てくるでしょう。ただ、実務で展開するには、企画に落とし込む必要があります。その際の方法論についても、社内の共通言語があったほうがいい。「MTMEETUP FUTURE」では、そうした方法論も学んでいます。

―各講演のテーマは、社長が選定されたのですか。

伊達

そうですね。「デザイン思考」が1回目のテーマでした。スタンフォード大学が先んじて取り入れ、アメリカの教育の在り方が変わりつつあるという話は以前から耳にしていました。しかし、デザイン思考が具体的にどのような手法なのか、私自身も本当の意味で分かっていなかったため、日本でも実践している方たちから話を聞いて理解を深め、方法論の1つとして皆で共有しました。

続いてのテーマが「AI」です。これも一昨年辺りからさまざまな場で耳にしていましたが、実務とのつながりが見えにくかった。そこで、東大の松尾豊先生など、具体論を語れる先生にご講演をいただきました。他には、社員からの提案で「新・観光立国論」をテーマにデービッド・アトキンソンさんにお話しいただいたこともあります。

どのテーマに関しても、知識が共有化されて社員のベトクルが揃うことに一役買ったのではないかと思います。

組織変革の着火点はミドル

―ミドル向けにも新しい研修を始めたとのこと。どのようなものでしょうか。

伊達

「MT ACADEMY」ですね。先ほどの「MT MEETUP FUTURE」は全社員対象で自由参加ですが、「MT ACADEMY」はミドルを対象にしています。我が社は従来から新人に手厚い研修を行ってきましたが、ミドル向けのものが少なく、現場から「やってほしい」という声が上がっていました。また、組織を変えたい時に着火点として最も効果があるのはミドルです。ミドルは上にも下にもパイプがあり、変革に必要な知識や情報、実務のスキルも持っています。新しいことを渇望している人も多い。ミドルが変われば、全社が変わります。

―裏を返すと、ミドルに課題を感じていた、ということもあるのでしょうか。

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