新連載 世界で闘うリーダーになる 第1回 リーダーの要件とは
「今、日本企業にはリーダーが足りない」――。そう話すのは、日立製作所でグローバル人財戦略を担った山口岳男氏。リーダー増やすために、まずは人材開発の担当者一人ひとりが、自身がリーダーになる意識を持ち、努力する必要があるという。日本企業がグローバルで戦う方法とは。また、グローバルで通用するリーダーシップはどのように身につければよいのか。本連載では、同氏がこれまでの経験で得た知見を交えて、5回にわたり解説する。
人事担当者こそ、リーダーであれ!
今日、「日本の企業で最も不足している経営リソースは何か」と問われれば、私は即座に「リーダー」と「リーダーシップ」と答えます。グローバルな舞台でコンペティターと闘い、自社の成長戦略やイノベーションを実現するリーダーが不足しているということです。しかし、日本で日本人のみと仕事をしている環境では、このようなことは頭では分かっていても、肌感覚として実感できないかもしれません。
リーダーシップの開発やリーダーの育成については、各社各様それなりの投資をし、さまざまな取り組みをしていると思います。しかし、どのようなリーダーを必要とするか、実感として持っているといえるでしょうか。単に想像したことを頭に描き、それを実現させるべくプログラムをロールアウトするだけでは、リーダーは生まれません。
まずは、人を育てる立場の人たちが、「自分がグローバルなリーダーになる」と決心し、努力することが大切です。それはつまり、どうすればリーダーを育成できるかという具体的な計画にもつながります。
“リーダーシップの差”を実感
私がリーダーやリーダーシップについて真剣に考えるようになったのは、ある時期の出来事がきっかけです。時計の針を巻き戻すこと十数年、2001年頃のことです。当時日立は、IBMからハード・ディスク・ドライブ (HDD)のビジネスを買収するための交渉を行っていました。私は人事の立場で日立側交渉チームに入り、IBMの交渉チームと対峙することになりました。
私にとって買収の仕事は初めてで、何から何まで手探りの状態で進めざるを得ませんでした。加えて、最終的には2千億円を超える大型買収、しかもクロスボーダー買収で、交渉のコミュニケーションは基本的には英語でしたから、難易度の高い買収交渉だったと思います。また、この規模の買収は日立にとっても初めてのことで、過去のノウハウの蓄積はありませんでした。
連日のように行われる先方との電話会議や日立側のコンサルタント、弁護士との打ち合わせは冷や汗の連続でした。会ったこともない人たちと英語で電話会議を行い、意見を求められ、質問される。「Yes」か「No」か、その理由は何か。矢継ぎ早の質問に答えられず、バツの悪い沈黙に何度も自己嫌悪に陥りました。
一方、相手側には質問に上手に答えたり、時にはかわしたりしながら、チーム内のコンフリクトをさばいてみせるリーダーがいました。彼らの経験やスキル、リーダーシップをまざまざと見せつけられたのです。