J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年11月号

新連載 世界で闘うリーダーになる 第1回 リーダーの要件とは

「今、日本企業にはリーダーが足りない」――。そう話すのは、日立製作所でグローバル人財戦略を担った山口岳男氏。リーダー増やすために、まずは人材開発の担当者一人ひとりが、自身がリーダーになる意識を持ち、努力する必要があるという。日本企業がグローバルで戦う方法とは。また、グローバルで通用するリーダーシップはどのように身につければよいのか。本連載では、同氏がこれまでの経験で得た知見を交えて、5回にわたり解説する。


Profile
山口岳男(やまぐち たけお)氏
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング 特別顧問/
元 日立製作所 人財統括本部 副統括本部長

1975 年に日立製作所入社。一貫して、人事・総務関係を担当。1985 年~日立アメリカ(米国ニューヨーク)勤務。その後、本社勤労部国際グループ部長代理等を経て、2003 年~ Hitachi Global Storage Technologies,Inc(米国カリフォルニア・サンノゼ)の人事部門責任者(Vice President)。2009 年~ 日立総合経営研修所取締役社長、2011年~ 日立製作所人財統括本部副統括本部長、2014 年~日立総合経営研修所取締役社長。現在、EYアドバイザリー・アンド・コンサルティングで特別顧問を務める。

人事担当者こそ、リーダーであれ!

今日、「日本の企業で最も不足している経営リソースは何か」と問われれば、私は即座に「リーダー」と「リーダーシップ」と答えます。グローバルな舞台でコンペティターと闘い、自社の成長戦略やイノベーションを実現するリーダーが不足しているということです。しかし、日本で日本人のみと仕事をしている環境では、このようなことは頭では分かっていても、肌感覚として実感できないかもしれません。

リーダーシップの開発やリーダーの育成については、各社各様それなりの投資をし、さまざまな取り組みをしていると思います。しかし、どのようなリーダーを必要とするか、実感として持っているといえるでしょうか。単に想像したことを頭に描き、それを実現させるべくプログラムをロールアウトするだけでは、リーダーは生まれません。

まずは、人を育てる立場の人たちが、「自分がグローバルなリーダーになる」と決心し、努力することが大切です。それはつまり、どうすればリーダーを育成できるかという具体的な計画にもつながります。

“リーダーシップの差”を実感

私がリーダーやリーダーシップについて真剣に考えるようになったのは、ある時期の出来事がきっかけです。時計の針を巻き戻すこと十数年、2001年頃のことです。当時日立は、IBMからハード・ディスク・ドライブ (HDD)のビジネスを買収するための交渉を行っていました。私は人事の立場で日立側交渉チームに入り、IBMの交渉チームと対峙することになりました。

私にとって買収の仕事は初めてで、何から何まで手探りの状態で進めざるを得ませんでした。加えて、最終的には2千億円を超える大型買収、しかもクロスボーダー買収で、交渉のコミュニケーションは基本的には英語でしたから、難易度の高い買収交渉だったと思います。また、この規模の買収は日立にとっても初めてのことで、過去のノウハウの蓄積はありませんでした。

連日のように行われる先方との電話会議や日立側のコンサルタント、弁護士との打ち合わせは冷や汗の連続でした。会ったこともない人たちと英語で電話会議を行い、意見を求められ、質問される。「Yes」か「No」か、その理由は何か。矢継ぎ早の質問に答えられず、バツの悪い沈黙に何度も自己嫌悪に陥りました。

一方、相手側には質問に上手に答えたり、時にはかわしたりしながら、チーム内のコンフリクトをさばいてみせるリーダーがいました。彼らの経験やスキル、リーダーシップをまざまざと見せつけられたのです。

やがて交渉が進み、買収契約交渉締結に向け Post Merger Integration(PMI)が行われることになりました。これは日立、IBM側の総勢100名を超えるメンバーが参加するビッグ・プロジェクト。研究、開発、製造等々、各部門ごとにチームが置かれ、日立とIBM双方から当事者が参加するものでした。こうした交渉や打ち合わせでも、相手側と我々のリーダーシップの差を見せつけられました。相手側のリーダーは、方向を示しチームを結束させ、関係者を巻き込み、相手を説得し、結果的には自分のチームを有利に導く。

考えてみれば当たり前のことかもしれませんが、それを当たり前にやって見せるリーダーが目の前にいるということを実感しました。こうした人と議論し、交渉し、説得することが自分にできるのか。日本側それぞれのチームに互角に戦える人がいるのか。自身の、そして日本人のリーダーシップに大きな不安を抱いたのです。

何も言えない日本人

それでも何とか、無事買収契約が締結されました。交渉がスタートしてから1年半後の2003年1月、日立の米国におけるHDD販売部門とIBMから買収したHDD事業部門を統合した新会社が設立されました。その3カ月後には日立のHDD製造部門であるストレージ事業部も統合され、ヨーロッパとアジアのセールス部門を含む全ての拠点が新会社に統合されました。私も会社の設立と同時に、米国カリフォルニア州サンノゼの新会社(旧IBM拠点)本社に人事責任者として赴任。これは私にとって2度目の米国勤務となりました。

新会社の拠点は、日本、米国、シンガポール、フィリピン、タイ、中国、メキシコに広がり、人員規模約2万名、従業員の使用言語が10種類を超えるグローバル企業となりました。統合シナジーを創出することで、HDD事業での世界トップポジションの確立をめざすことになったのですが、赤字事業部門同士の統合であり、設立当初の大きな経営課題は“赤字の解消”でした。ビジネスのプロセスや文化の違う双方の会社の部門統合を図る中で、どうリストラを進めるか、また、リストラを計画する中で、日米拠点の統合も大きな課題でした。

そんな中でも、日本人の仕事の仕方に疑問を感じる場面がありました。当時、HDDの構成部品の中でコアともいえる磁気ディスクと磁気ディスクヘッドの部門の統合計画が進んでおり、連日、日本側と米国側の担当部門同士が電話会議を行っていました。急遽その打ち合わせに呼ばれて途中参加した際、米国側から矢継ぎ早に、「拠点は米国で一本化するべきだ」という計画を聞かされました。

私は「それを決めるのは早急過ぎる、現実的ではない」と話し、その会議はいったん終了になったのですが、なぜ私の他に日本側からの発言がなかったのか、不思議だったのです。しかし、会議直後に日本側の責任者から私に電話があり、「こんな会議ってありますか。彼らが一方的に話して米国に拠点を統合するなんて考えられない」等々、彼は私に不満を一挙に吐き出しました。

気持ちはよく分かりますが、なぜ会議の場でその疑問を直接発言しないのか。会議が終わった後、私に不満を伝えて何になるのか。こうした、いわばコミュニケーションの断線が会社の至るところで起きていたように思います。

リーダーが会社を変える

会社の業績は好転する気配が見えないまま、気づけば4年が経っていました。赤字経営に業を煮やした親会社の日立からは「黒字化、さもなくば事業売却・撤退」というプレッシャーをひしひしと感じ、さまざまな施策を打ち出してなんとか黒字化しようとしましたが、赤字は止まりません。人事でも、数度にわたって早期退職勧奨やリストラの実行、インセンティブの見直し等々実施してきましたが、結果として従業員の士気は下がるばかり。退職率もシリコンバレー並みの高さになっていきました。

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