J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年11月号

Special Column ~ユニークAI 誕生秘話~ チームの闊達な風土が生んだ 横浜市「イーオのごみ分別案内」

燃やすごみ、燃えないごみ、プラスチック、粗大ごみ……
「これ、何ごみだろう?」と分別に迷った時に教えてくれるチャットボット「イーオのごみ分別案内」。
これは横浜市と民間企業が共同で開発し、実証実験を行ったものだ。
このチャットボットではAIがどのような役割を果たしているのか、またこのような遊び心のあるサービスが誕生した背景には、どのような組織風土があったのだろうか。


江口洋人氏
横浜市資源循環局 政策調整部 3R推進課長

宮永祐輔氏
横浜市資源循環局 政策調整部 3R推進課

[取材・文]=瀧川美里 [写真]=瀧川美里、横浜市提供

民間事業者と連携して開発

横浜市資源循環局のHPにアクセスすると、マイバッグをモチーフにしたキャラクター「イーオ」が画面右下に登場する。イーオをクリックするとチャットボットの会話画面が開き、捨てたいごみの名称を入れると捨て方を教えてくれる。

横浜市はこれまでにもごみの分別率向上に取り組んでおり、イーオがリリースされる前は分別検索システム「MIctionary」や、遊びながら分別方法が学べる「分別ゲーム」などが使われていた。既存のサービスがあるにも関わらず、イーオの開発に取り組んだ背景には、どんな問題意識があったのだろうか。横浜市資源循環局政策調整部3R 推進課長の江口洋人氏は次のように話す。

「『燃やすごみ』として出されるごみの中に、本来分別をしなければならないプラスチック製容器包装や古紙などが約15%含まれているという現状がありました。横浜市では、集積場所に出されたごみでも、分別されていないものや回収日が違うものは収集できません。その場にごみが残ってしまうわけで、それが地域の困りごとになっていました。そこで分別率を上げる、さらなる取り組みを行う必要性を感じていました」

そんな矢先、市が民間事業者から公民連携に関する提案を受け付ける窓口「共創フロント」に、NTTドコモから、何かAI を活用した取り組みができないかと提案があった。具体的に進めようと両者でAIの活用方法を検討する中、「MIctionaryのデータを活用した実験ができるのではないか」という話が持ち上がったのである。

AIが質問の意図を汲み取る

この実証実験には横浜市もNTTドコモもメリットを感じ、すぐに開発が始まった。

開発期間は約5カ月。MIctionaryに蓄積されていた2万語に及ぶデータベースを活用し、資源循環局とNTTドコモ、そして共フロント(政策局共創推進課)の三者で意見を出し合いながらの作業である。

「私たち資源循環局は、これまでに培った知識や市民の皆様からの問い合わせを元に意見を出し、共創推進課は市民目線で意見を出していきました」(3R 推進課の宮永祐輔氏、以下宮永氏)

開発段階において、「AIが人の代わりになる」という考え方はなかったという。イーオに搭載されているAIは、過去のデータを学んで最善の一手を導き出す「学習型」ではなく、ユーザーが何について聞いているのかを判断し、事前に用意した回答の中から適切な答えを選ぶ「シナリオ型」のAI だからだ。

「ごみの出し方を聞いているのか、粗大ごみの料金を聞いているのか、それともちょっとした会話がしたいのか。そういったユーザーの意図を汲み取って判断するところにAIが活用されています。我々の勤務時間外、今までサービスを提供できていなかった時間帯でも対応できるという点では、人に代わるものといえるかもしれません」(江口氏)

一般的に、分別方法を調べても分からない場合、コールセンターに連絡するだろう。どうしても人の手が必要に感じられるところだ。しかしイーオの分別案内では、例えば、「CD」と入力すると、「CDは、CD等(ケースも含む)、CDプレーヤーのどれ?」と聞いてくれる。

「MIctionaryとの大きな違いとして、イーオが理解できないものも『それは金属製ですか? プラスチック製ですか?』などと候補を挙げ、利用者と会話をすることで絞っていくことができます。利用者が素材などを答えながら進んでいけば、回答にある程度たどり着けるのです」(宮永氏)

「夢」はどうやって捨てる?

イーオが教えてくれるのは、実はごみの捨て方だけではない。会話画面に「夢」と入れると、図1のような回答が返ってくる。また8月中旬、「旦那」と入力した時の回答(図2)がSNSで話題になり爆発的に拡散された時は、利用数が1週間で100 倍に伸びた。

こうした回答は、イーオが自分で生み出したものではなく、資源循環局の職員たちが考えたものだ。その背景には、若年層の利用を促したい狙いがあった。

「横浜市は大学が多いので、他の地域から大学進学などで引っ越してきて、ごみの分別方法が分からずに困る方がたくさんいます。そういった方々にも使ってもらえるものにしたいと考えていました」(宮永氏)

ユニークな回答の数々は、本体がほぼ完成してから、おまけとしてつくられた。「横浜市に因んだ情報はどうか」「クイズは出せないか」「哲学や雑学の情報で返すのはどうか」などの意見が出た。「希望」や「夢」など、回答が数パターン登録されている単語もある。

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