J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年11月号

OPINION1 私たちは、何をどうしていきたいのか 人事がAIになる時代に 必要となる3つの能力とは

「AI」という言葉を聞かない日はない昨今、急激な社会の転換が進みつつある。
企業や、企業の人事部門は、来たるAI 時代に備えて、どういう準備をするべきなのか。
今後、必要となる能力や人材とは。
人工知能研究者である中島秀之氏に話を聞いた。


中島秀之(なかしま ひでゆき)氏
東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 特任教授

兵庫県西宮市生まれ。1983 年、当時人工知能研究では日本の最高峰であった電子技術総合研究所(電総研)に入所。協調アーキテクチャ計画室長、通信知能研究室長、情報科学部長、企画室長などを歴任。2001 年より独立行政法人化により産総研サイバーアシスト研究センター長。2004 年に公立はこだて未来大学に赴任。2016 年より現職。教育と後輩の育成ならびに情報処理研究の方法論確立と社会応用に力を注ぐ。

[取材・文]=横更寿恵・編集部 [写真]=編集部

AIができること

昨年、AIの書いた小説が星新一賞で一次審査を通過したのをご存じだろうか。我々の仲間がつくったAIなのだが※1、あらかじめテーマや登場人物の設定などの筋書きをプログラミングしておき、たくさんのパターンでストーリーを書き出させた。それらの作品群から、人が面白いと感じるものを選定し応募したものだ。

また、AI がプロ棋士との対局で勝った※2というニュースも記憶に新しいことと思う。

ほんの40 年前の1970 年代には、それどころではなかった。やりたいことがあってもコンピュータの情報処理速度が圧倒的に遅く、計算に1週間も1カ月も要していた。

40 年の間に何が起きたのかといえば、コンピュータの速度が急速に上がってきた、ということに尽きる。情報工学の法則に、「ムーアの法則」がある。これは半導体の集積率、コンピュータの速度が2年間でほぼ2倍まで増えるというもの。法則に則り、40年で100万倍まで増えたことで、コンピュータでできることが飛躍的に増えた。AI作家やAI棋士もそのひとつである。

また、深層学習の威力については、コンピュータに「眼がついた」とも表現している。かつては、工業用ロボットにしても、特定の位置に固定した部品をつかませ、「この点からこの点まで移動させる」という情報を全て書き下したプログラムで制御していた。それが、「眼がついた」ことで、機械自身がカメラで位置や形を認識しながら、勝手に学ぶことができるようになった。職人や専門職の、言葉で伝えることができない「暗黙知」さえ、AI が見て学習できるようになったのだ。
※1 松原仁・公立はこだて未来大学教授が率いる「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」。
※2 2017年5月、将棋の佐藤天彦名人にPonanzaが勝利するなど。

AI時代に訪れる変化とは

こうしたAIの進化により、社会の変化のスピードが加速している。中でも大きく変化するのが「職業」である。オズボーン・レポート※3 等で、10 ~ 20 年後には、「職が今より半分になる(人間が行う仕事の約半分が機械に奪われる)」と騒がれているが、「今ある職業が変わる」という表現が正しい。私自身、就職の際、親に「国鉄なら絶対安定しているから国鉄へ行け」といわれたものだ。直後、国鉄は民営化され、“絶対的安定”はなくなった。このように、今の社会ありきで物事を考える人が多いが、今後起こるのは、全く別次元の変化である。
※3 英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン、カール・フレイ著の論文『雇用の未来―コンピュータ化によって仕事は失われるのか』。日本では両氏と野村総合研究所の共同研究で、10~20 年後には、国内の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能になることを示唆した。

カリフォルニアの雇用の変化

GoogleやAmazonでは既に、必要な能力を持つ人材やグループを会社ごと買ってきて事業を行う業態にシフトしている。こうした企業買収や事業形態が増えていけば、「企業」という枠組み自体が崩れていく。日本企業も5~10 年の間に、仕事に必要な能力を集める働き方・働かせ方へとシフトしていくだろう。個人の側から見れば、自分の能力にオファーがあったところと仕事をしていく形態に変わる。

イノベーションが急激に起こり、2、3年ごとにさまざまなことが変わっていくが、従来の日本型終身雇用や年功制では、この変化に対応できない。最近ちょうど、あるインタビューでも、「なくなっていく職業の例」として「人事」と答えた。この真意については最後に述べるとして、一番の問題は、多くの日本企業の幹部が、そうした意識を全く持っていないことである。

人材教育という点では、これから訪れるであろう社会の変化に備えることが、一大命題といえる。

そもそも、AIによって職業が変わることには理由がある。人間が働くよりも機械のほうが生産性が高い領域があるからだ。あなたが関わっているその仕事は、20 年後にはないと思ったほうがいい。その変化に対応するためには、「学び直し」が不可欠である。研究者の多くはそうしており、私自身も10年ごとに新しい分野を学んでいる。

変化に備える能力とは

変化に備えるため、今後、誰もが身につけておきたい能力を述べておく。主には図1の3つである。

①情報論的思考

あらゆる知識教育は、AI を介して学ぶようになっていく。一定以上の知識は、スマホで検索すればよく、ものをつくる実行過程で必要となる物理学の方程式や細かい計算なども、AIに任せられるようになる。そうした状況で、今後、人間に必要になるのは「情報論的思考」だ。世の中を「情報」という視点で捉え、分析・設計する能力。プログラミングの土台にあたる、さまざまな概念を知り、思考する力である。

具体的にはどういうことなのか。例えば、「バーチャル」という概念がある。バーチャル(virtual)とは、本来、「事実上の」「実質上の」という意味だ。物の本質を見極め、別の手法で実現することを指す。例えば、確定申告のためのソフトがある。そのソフトで実現すべき本質は「煩雑な手続きを簡略化する」ことであるのに、紙の確定申告を電子化するだけでは、「バーチャル」であるとは言えない。何かプロダクトやプログラムを作り上げる際には、本質をつかみ、それを実現することが重要であるということを表す概念だ。

また、何か物を積み重ねる際、よく使うものほど上に置くのがいいのは体感的にご存じだろう。これはスタックといって、プログラムの実行時にも多用される手法である。

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