J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2017年10月号

連載 中原 淳の学びは現場にあり!  第44回 リアル「ドクターX」に聞く フリーランス時代の働き方

「私、失敗しないので」の決め台詞が痛快なフリーランス女医の活躍を描いたテレビドラマ「ドクターX ~外科医・大門未知子~」。
実際に、組織に所属せずフリーランスで働く医師は今、増えているという。フリーランスでの現役麻酔科医、筒井冨美氏に話を聞いた。


中原 淳(Jun Nakahara, Ph.D.)
東京大学 大学総合教育研究センター准教授。著書に『職場学習論』『経営学習論』
『活躍する組織人の探究』『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長論』など多数。
Blog: http://www.nakahara-lab.net/blog/ Twitter ID: nakaharajun

取材・文/井上 佐保子 写真/宇佐見 利明

本フリー、裏フリーという働き方

中原

今、企業、組織に所属しない働き方がじわじわ広がりつつあります。その観点で、専門職である医師のフリーランス化に関しては、麻酔科や産科などで進行していると伺っており、非常に興味を持ってご著書を拝読しました。「フリーランス医師」とはどんな医師なのでしょう。

筒井

同じフリーランスでも、「本フリー」と「裏フリー」があるように思います。「ドクターX」の大門未知子のように、どの病院にも所属しないのが本フリーとすると、同じドラマに登場する加地秀樹のように、大学に所属していながらアルバイトしまくる、という人が裏フリーですね。

中原

裏フリーから始まり、本フリーに入っていく人が多いのですか。

筒井

はい。もともと大学病院の給料はさほど高くありません。「大学病院の肩書はあげるから、アルバイトで副収入を稼いでね」という感じです。そのうち、アルバイトのほうが主になってきて本フリーになるという。

中原

会社勤務をしながら副業していて、それが本業になっていくビジネスパーソンのプロセスと似ているかもしれませんね。ところで、筒井さんは40 代で本フリーになるまで、大学病院の勤務医だったのですか。

筒井

大学病院の他、さまざまな病院に勤務していました。本フリーになったのは、「このまま大学にいても先はないな」と思ったからです。上のポストは空かず、給料は上がらないのに、仕事は増える一方で。

とはいえ、最近はポスト事情も変わっているようです。大学病院も中堅医師を辞めさせないために「病院教授」「臨床教授」といった新たな肩書をつくっていますから。

中原

いろいろな「教授」をつくってプロフェッサーシップを安売りする風潮は大学全般に広がっていて、非常に問題だと思いますね。一般の大学においても「特任教授」「特定教授」と肩書が増えました。ところで、本フリーになると決断された時、不安はなかったのですか。

筒井

最初は「次の病院を探すまでしばらくアルバイトでも」といった気持ちでした。ところが、辞めてみたらあちこちから声がかかり、あっという間に1カ月半くらい先まで予定が埋まってしまったのです。計算してみると、収入も病院勤務以上になり、「これなら就職しなくてもいいかな」と。それが10 年前のことです。

中原

ちょうどその頃、医師不足が社会問題になりましたね。特に産科医は若手がなりたがらないとか。

筒井

重労働なうえにリスクも高いですからね。若手には眼科、皮膚科、精神科が人気です。本来はリスクの高さ、夜勤など勤務の厳しさに応じて報酬を変えるべきだと思うのですが、現状は同じ水準です。そうなると楽なほうに流れますよね。

中原

確かにそこは、“Pay for performance、Pay for risk”であるべきですよね。

昭和の研修医育成

中原

筒井さんの研修医時代、大学病院はどんな感じだったのですか。

筒井

まさに山崎豊子の長編小説『白い巨塔』の世界。医師のキャリアは出身大学の付属病院での丁稚奉公がスタートでした。朝7時から夜中まで1日16 時間働いて手取り3万円、といったブラックな状況でした。

中原

そんな中でどうやって成長していったのですか。

筒井

最初は採血や血圧測定をしたり、シュライバーというカルテを作成する仕事をしたりしながら、診察の進め方や薬の処方などを学び、その後は簡単な患者さんを診るようになり、徐々に難しい患者さんを受け持つようになる、といったプロセスで一人前になっていきました。いきなり現場に叩き込まれ、そこに立ってろ、見てろという感じで、確固たるカリキュラムのようなものはなかったように思います。

中原

「いきなり現場」「立ってろ、見てろ」は、いまだにビジネスの世界でも横行する「人材育成」ですね。こうした人材育成は「効率」が悪いので、個人的には早く駆逐したいのですが(笑)、医学界もなかなかのスパルタ式ですね。

筒井

パワハラは不思議となかったです。年功序列で、先輩が後輩に教える「屋根瓦式(チーム指導)」に近いシステムでしたが、長時間一緒にいるためか、悩んでいるとすぐ先輩が察してくれました。飲み屋で愚痴を聞いてくれましたっけ。

フリーランスに向く人、向かない人

中原

フリーになられて10年とのことですが、医学界における変化はありますか。

筒井

ドラマ化されて市民権を得たためか、フリーランス医師が増えましたね。「将来フリーになりたいから」と、麻酔科医になる若い人もいます。

中原

麻酔科はフリーランスに向いているのですか。

筒井

患者さんとの長期間にわたる関わりがありませんから。その意味では、救急医もフリーに向いていますね。また、産科医は人数が少ないうえ、当直が多く、フリーランスは高額報酬を得られるようです。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,132文字

/

全文:4,264文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!