J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年10月号

CASE 2 博報堂 打ち合わせで、役に立たない人なんていない チームで考え抜き、アイデアを生む 受け継がれる“打ち合わせ”の仕組み

「アイデアは、人ではなく会話に宿る」―。
新しい発想は誰かの「頭の中」ではなく、皆の「会話の中」から生まれるというのが、博報堂の考え方だ。
参加者全員で最高の結論を導き出す同社の打ち合わせスタイルは、
チームとして“考え抜く力”を発揮する場といえる。
そんな同社の打ち合わせの秘密に迫る。


岡田庄生氏
ブランド・イノベーションデザイン局 コーポレートコンサルティング部 ディレクター

博報堂
1895 年創業。以来、マーケティングやクリエイティブ、デジタル、コンサルティング、リサーチなど幅広い事業を展開。「生活者発想」と「パートナー主義」をフィロソフィーとし、ソリューション・サービスを提供する。
資本金:358 億4800 万円、連結売上高:8802 億9500 万円(2017 年3月期)、従業員数:3428 名(2017 年4月1日現在)


[取材・文]=崎原 誠 [写真]=博報堂提供

●基本的な考え方 チームで考え抜く

■打ち合わせがアイデアを生む

「当社は、主にアイデア、コンセプトづくりを行う会社ですが、そのアイデアのほとんどは、打ち合わせから生まれます。天才的なひらめきを持つクリエイターが生み出していると思われがちですが、そうではありません。皆で考えたほうが視野が広がるし、コンスタントに結果を出すことができます」

そう語るのは、『博報堂のすごい打ち合わせ』を執筆したブランド・イノベーションデザイン局ディレクターの岡田庄生氏である(以下同)。

同社がクライアントに提案をする時、1人だけで提案内容を考えることはまずない。チームを組み、参加者全員が多数のアイデアを持ち寄り、皆で話し合う。そのうえで、持ち寄ったA案、B 案、C 案の中から1つを選ぶのではなく、新たなD案、E 案を導き出す。

一人ひとりが考え抜いてアイデアを持ち寄るわけだが、「自分が考えたものが最高の答えではない。それは会話のための準備。誰かのアイデアとぶつかることで、思いもしなかったものが生まれる」という共通認識がある。他者との会話の中から、自分が考えた以上のものが生み出される喜びを何度も経験しているので、自分の考えを無理に押し通そうとする人はいない。

■自社の打ち合わせを分析

このように、メンバー間の対話の中から、より優れた案を生み出そうとする同社だが、当然、時間には限りがあり、生産性も意識しなければならない。

そこで、同社でシステムや広告などの研究を行う研究開発局という部署の研究員が、自社の「打ち合わせ」に着目。打ち合わせが上手な社員を観察したり、その人たちが繰り出す質問を分析する社内プロジェクトを立ち上げた。その研究の結果、個々の社員が暗黙的にやってきたことに、多くの共通点があることが明らかになった。

●打ち合わせの仕組み 遠慮のない意見の出し合い

■徹底した拡散と収束

課題解決やアイデア出しを目的とした打ち合わせには、図1の4つのプロセスがあることが分かった。

ポイントは、「拡散」と「収束」の徹底ぶりだ。同社では、クライアントの商品を考える際に、メンバー全員が、1人50 ~ 100 個ものアイデアを持ち寄ることも珍しくない。5人いたら、250 ~500 個のアイデアが集まるわけだ。アイデアだけでなく、そのテーマに関する個人的なエピソードを持ち寄ることも多い。「うちの妻がこんな使い方をしていて……」といった体験談は、新たな発想を生むヒントになる。

「収束」というのは、多数のアイデアの中から面白いものを選び、深掘りしていくプロセス。その深掘りの仕方も徹底しており、浅い答えでは許されない。

■雑談が発言を促す潤滑油に

全員がアイデアを持ち寄って話し合うといっても、役職や年齢、性格などによっては、遠慮して発言しづらい人もいるだろう。また、個人的なエピソードは、確かにアイデアを考えるヒントになるが、会議の場で自分の家族の話などをすることに、抵抗があってもおかしくない。

そこで、参加者の発言を促進するのが“雑談”である。

・ 博報堂の打ち合わせは、50%が雑談でできている。

・ 「ゴシップ」や「悪口」が打ち合わせの潤滑油になっている。

2009 年に東京大学大学院教育学研究科の岡田猛教授の研究グループが同社の打ち合わせを分析した報告書には、こんな内容が記されている。

「『会議を始めます。〇〇さん、発言してください』とあらたまって指示をされると、発言しにくいでしょう。しかし、まだ打ち合わせが始まっていないかのような雰囲気の中で、『これ、使ったことあんの? まじで?』『うちの奥さんが好きなんだよ』といったトーンで“雑談”をしている状態だと、話しやすいんです。そのため、雑談と打ち合わせの仕切りをわざと曖昧にしているのです」

うまく行うのが難しい気もするが、雑談なので、誰でもできるという。「今日は暑いですね」といった会話を「この商品、使ったことある?」などと、テーマに片足を突っ込んだ状態にするだけでよいのだ。

■混沌は健全なプロセス

実際の打ち合わせでは4つのプロセスを進めていくが、特定の誰かが会議を引っ張るわけではない。皆が今、4つのプロセスのどの段階なのかをある程度意識しながら、議論を進めているという。

拡散から収束に移るタイミングの見極めが難しそうだが、そうでもないようだ。話し合う中で、例えば、「この商品って、実はこう思われているのでは?」といった発言があり、それに対して、「確かにそうだね」と同意する人が複数出てくると、「ということは……」「一言でまとめると……」と深掘りが進み、自然と収束に向かう。

「大まかなイメージでいうと、クライアントに提案するまでに3回打ち合わせがある場合、初回の打ち合わせは、大風呂敷を広げる拡散のフェーズです。初めから『企画書をどうしましょうか』と気にし過ぎるのは、ダサいという雰囲気がありますね。そして、2回目くらいに案を絞り込んで深掘りし、最後に企画書に落とし込みます」

1回の打ち合わせ時間は、1~ 1.5時間程度が標準。ただし、「今日はここまで進める」と決めて議論することはほとんどない。最終的には締め切りに間に合わせるが、驚きのあるアイデアを生み出すため、ギリギリまで粘る。

企画書に落としていく段階では、専門分野ごとに役割分担するが、それまでの間は、専門にも役職にも関係なく、全員でアイデアを出し合う。

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