J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年10月号

OPINION3 個々の「主観」と「直観」をもっと頼りにしてもいい 思考の行き来で 見えない価値を判断する “コンセプチュアル思考”

客観的に捉える、論理的に考える―
これらはビジネスの世界で、当然のように重視されてきたことだ。
だが「それだけでいいのか」と指摘するのは、プロジェクトマネジメントコンサルタントの好川哲人氏。
余計な要素をそぎ落とすロジカルな思考よりも、さまざまな要素を統合していく思考法により、深い解決策を導き出すことができるという。
その思考法について、話を聞いた。


好川哲人(よしかわ てつと)氏
プロジェクトマネジメントオフィス代表 シニアコンサルタント

MBA、技術士(情報部門)。1982 年神戸大学大学院工学研究科システム工学専攻修了、三菱重工業システム技術部勤務等を経て、現在は技術経営のコンサルタントとして、新規事業開発や商品開発のプロジェクトを数多く支援。イノベーションリーダーのトレーニングを手掛ける。独自に開発したプロジェクトマネジメント「PM st yl e」は「自分に適したマネジメントスタイルの確立」をコンセプトとし、本質を学ぶことを主軸に置く。

[取材・文]=田邉泰子 [写真]=編集部

壁を白くすることは正しいのか

壁を白く塗ってほしい―そう頼まれた時、あなたは白いペンキで壁一面を塗ることを選ぶだろう。だが、刷毛やローラーを手にする前にもう一度よく考えてみてほしい。依頼者は、本当に壁が白くなることを望んでいるのだろうか。

ビジネスの場においても、似たようなことがある。トラブルに見舞われた際、事象の解決だけに着目するような場合だ。だが、そのような解決の仕方では、その瞬間はよくても、場面が変わればまた同じようなトラブルに見舞われる。

大切なのは、全体像を捉え、複数の事象から問題が起こる大元を探り、根本的な原因の解消を図ることである。それを可能にするのが、「コンセプチュアル(概念的)」な考え方だ。

このような視点で考えれば、例えば冒頭の壁の話の場合、依頼者の相談の本質は、「壁を白くする」ことではなく、「壁の汚れを目立たなくする」ことにある可能性にも気づく。その際は、白いペンキで汚れを塗りつぶすよりも、もっとよい解決策があるだろう。

このように、概念的な視点や考え方が求められるのは、問題解決を行う場面に限らない。意思決定、構想や計画の立案、対人行動の場面でも、概念化のプロセスがなければ、本質を見失ってしまいがちである。そこで必要になるのが、「コンセプチュアル思考」である。

本質を捉えて概念化させる

コンセプチュアル思考を知るには、前提となる「コンセプチュアルスキル」を説明しておく必要がある。

■コンセプチュアルスキルとは

コンセプチュアルスキルとは、ハーバード大学教授として知られるロバート・カッツ氏が提唱した、マネジャーに求められる3つのスキルのうちの1つであり、周囲で起こる事象や状況を構造化して問題の本質を捉え、概念化する能力を指す(図1)。カッツはモデル図を使い、トップマネジメントになるほどコンセプチュアルスキルが必要とされると説明した。

カッツがこのモデルを発表したのは、今から60 年以上も前のことである。当時は労働者の大半がブルーカラー・ワーカーであり、コンセプチュアルスキルは経営者など一部の人間が持ち合わせていればそれでよかった。だが時代は変わり、今はナレッジワークがビジネスの中心にある。このような時代には、個々のビジネスパーソンがコンセプチュアルスキルを備える必要があるだろう。

一人ひとりがコンセプチュアルスキルを備えていれば、全体の仕事や進行状況を考え、何のために自分の仕事が必要なのか、自分の仕事やチームの位置づけを理解しながら、仕事に臨めるようになる。一人ひとりの目線が高くなり、組織のボトムアップにもつながる。つまり、ビジネスの成功率も上がるということだ。

コンセプチュアルスキルを備えるためには、どのような思考法を身につければいいのか。その具体的な思考の流れを示すのが「コンセプチュアル思考」である。

■コンセプチュアル思考の流れ

コンセプチュアル思考は、基本は次ページ図2のようなプロセスをたどる。例えば、ある商品の売り上げを強化しようとする事例を考えてみよう。まずは現状を細かに分析するはずだ。時間帯や地域別の売れ行き、その商品を購入する年齢層、PRの波及効果や競合商品の売れ方などを調査するだろう。この情報の一つひとつは、とても具体的で分析的なものだ。つまり、「形象の世界」で語られる部分である。

売上強化を図るには、これらの情報を統合させると同時に、商品を手に取る顧客にどのような価値を提供したいのか、またそれが日用品であれば、その商品を使うことで生活にどのような変化が現れるのかを思い描く必要がある。この段階は「概念の世界」の思考である。

だがいくらイメージをスケッチしても、売り上げを上げる具体的なアクションにつなげなければ、ここまでのプロセスは、絵に描いた餅で終わってしまう。そのため、行動に落とし込むまでには具体的な思考作業、つまり再び「形象の世界」の思考が行われるということになる。

そして結論に行きつくまでの間に、“概念”と“形象”の2つの思考を何度も繰り返すことで考えは練られていく。特に「概念の世界」を通ることは非常に重要だ。そこで本質を捉えることができれば、具体策はいくらでも発展させることができる。コンセプチュアル思考は、概念の世界と形象の世界を、絶えず行き来する考え方なのである。

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