J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年09月号

ATDの風 HR Global Wind from ATD <第6回>今、リーダーに求められる意識、行動を探る

米国で発足した人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の
日本支部ATD-IMNJが、テーマ別にグローバルトレンドを紹介します。


永禮弘之氏
ATD-IMNJ 理事/リーダーシップ開発委員会 委員長/ エレクセ・パートナーズ 代表取締役
化学会社、外資系コンサルティング会社コンサルタント、衛星放送会社、組織変革コンサルティング会社の取締役等を経て現在に至る。企業や官公庁のリーダー育成を支援。立教大学講師。著訳書に『ホワイト企業』『リーダーシップ開発の基本』『マネジャーになってしまったら読む本』『強い会社は社員が偉い』『問題発見力と解決力』他。

Image by Merfin/Shutterstock.com

年1回のATD国際会議の基調講演は、ATDの最重要メッセージのひとつであり、ワールドワイドのオピニオンリーダー、有識者、経営者が登壇する。そのテーマに、2016 年、17 年と続けて、リーダーシップが取り上げられた。この2年間の基調講演の内容を振り返ることで、リーダーに求められる意識や行動の在り方に関する潮流を浮き彫りにしたい。

■リーダーが築くべき信頼関係

2016 年、17年の基調講演のテーマ及びスピーカーをに掲げた。16 年の講演内容からは、「メンバー個人に焦点を当て、リーダーが彼らと信頼関係を築き、エンゲージメントを高めることが組織成果の向上につながる」という共通の論調がうかがえる。先頭に立って組織を引っ張るリーダーより、メンバーとの信頼関係を高め、彼らの成長を促し、意欲を高め、組織の力を引き上げるリーダーが求められているといえよう。

ベストセラー『リーダーは最後に食べなさい!』の著者で、思想家のサイモン・シネック氏は、メンバーのパフォーマンス発揮、エンゲージメント向上には、信頼や支え合いを感じさせる環境が必要だと訴えた。メンバーは、上司や同僚との対立、過酷な労働環境、不安定な雇用等から生じるストレス、不安といった「組織内の脅威」と日々戦っている。安心を感じる職場をつくり出せば、メンバーは組織内で自分を守ることから解放され、仕事に専念できる。

世界的に有名なトレンド調査サイト、TrendHunter.comの創設者でCEOのジェレミー・グーチェ氏も、目標達成の主役はメンバーだ、と唱える。イノベーションは、壮大な発見というよりは、個々のメンバーの日々の小さな創意工夫の積み重ねだ。そのため、メンバーが日々新しいチャンスを熱心に探し、現状の延長線上にない挑戦が行えるような組織づくりが大切だと強く訴えかけていた。

■リーダーに求められる資質

リーダーには、「誠実さ、人間らしさ、自分と向き合う勇気」が求められる。前述のシネック氏によると、メンバーは、自分たちを危機から守ってくれることをリーダーに期待している。つまり、リーダーシップとは「他者の人生を守ること」であり、リーダーには自己犠牲が求められる。例えば経営者が、解雇や減給を社員に強いて、自身は高額のボーナスを受け取れば、メンバーの信頼は失せ、心は組織から離れていくだろう。

一般的に、メンバーを守るリーダーと聞くと、強い精神を持ち、優秀で頼もしい人物像を想像する。しかし、勇気、ヴァルネラビリティ(心の脆さ、傷つきやすさ)を研究するブレネー・ブラウン氏は、リーダーが勇気を出して弱い自分をさらけ出し、周囲に助けを求めることが、メンバーとの信頼関係を高めると唱える。リーダーが弱い自分を見せることは、メンバーへの信頼の証だからだ。リーダーの信頼を自覚したメンバーは、仕事への主体的な関与度を高め、パフォーマンスを発揮する。

■ “超人”の意識、行動に学ぶ

17 年の講演の共通するテーマは、「困難と向き合うリーダーに求められる意識、行動」だ。講演者のケリー兄弟(マーク&スコット・ケリー氏)は一卵性双生児で、スペースシャトルの船長や宇宙での長期滞在を担ったアメリカの英雄である。

ケリー兄弟は、限界を超えるには、夢を持ち、明確なゴール、到達のためのステップを定めて、粘り強く実行することが大切と言う。また、宇宙で危険に直面したり、家族が死に瀕した経験を通じ、困難な状況では、自分でコントロールできないことに翻弄されるのではなく、自分ができることに集中するのがベストだ、とも述べた。そして、自身のキャリアについて、居心地の良いところにとどまらず、自分を高めるために、できることに集中し、小さな改善を日々重ねてきた結果だと振り返った。

同じく講演者のローナン・タイナン氏は、20 歳で下肢を失ったが、すぐにパラリンピックに挑戦し、18 個の金メダルを獲り、14 の世界記録を打ち立てた。その後、整形外科医となり、医業の傍ら声楽を学び、オーディション番組で優勝して、テノール歌手としても活躍している。

講演で同氏は、挑戦を続けられたのは、「君なら必ず達成できる」と周囲の人が信じてくれたことが自信につながったから、と語った。また、「今の自分の成功は、多くの人の支援と励ましのおかげ」と述べ、感謝をもって他者の支援を受けると同時に、自分も他者を信じ、励ますことが大切だと話した。

■ストレスは味方につけられる

困難な状況にストレスはつきものだ。では、リーダーはストレスにどのように対処すべきだろうか。

一般的に、ストレスは心身に悪い影響を与えるものと考えられている。しかし、講演者で健康心理学者のケリー・マクゴニガル氏によると、意識をポジティブに変えれば、ストレスから良い影響を受けられるそうだ。

彼女は、脳科学や心理学の最新の実験結果を踏まえ、挑戦の際に感じるストレスは私たちにエネルギーを与えてくれる、と説明した。高ストレス下の経験は学習力とレジリエンスを高め、親切心を引き出して他者との人間関係を良好にする。そして、ストレスが高い状況を乗り越える経験は、貴重な学習機会につながるという。つまり、ストレスを味方につけることで、困難な状況においても、健康を保ち、自身の成長、希望、勇気、愛を得ることは可能になる。ストレスは、リーダーシップを培ううえで重要な役割を果たすのだ。

■リーダーシップ開発の課題

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