J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年08月号

シリーズ 組織開発を追いかける 第2回 「組織開発ワンデイ集中講義@ IN 東京」より② 組織開発実践者が知っておくべき本質と学び方

今、日本企業において「組織開発」に対する関心が高まっている。いざ組織開発を実践しようとする時、
推進者は、具体的には何をどのように進め、苦心していくのか。本シリーズは、4月29日に行われた
「組織開発ワンデイ集中講義@IN東京」※と、とある講座での実践から、それらを明らかにしようとする試みである。
※主催:ODネットワーク・ジャパン・経営学習研究所


中村和彦氏
南山大学 人文学部 心理人間学科
教授

[取材・文]=編集部・佐藤鼓子[写真]=編集部

第2回の本稿では、中原淳氏に続き登壇した中村和彦氏の講義をまとめる。当日は組織開発の全体像(図1)として、1階~3階部分について中原氏が午前中に講演し(前回掲載)、続いて中村氏が4階~6階について解説した。

【講演2】組織開発の変遷、今、未来

中村和彦氏

南山大学 人文学部 心理人間学科 教授

民主的価値と計画された変革

組織開発(Organization Development、OD)やTグループの実践と研究をしている、南山大学の中村と申します。本日ここでお話しすることになりましたのは、中原淳先生もおっしゃった通り、今年1月7日に南山大学で行った講演会が非常に好評で、翌日には東京での再演が決まりました。その時は、再演までにはまだ時間があると思ったので、組織開発の4階~6階(歴史や現在、未来)を話しますよ、と言ってしまったんです(笑)。

組織開発は、1本の木に例えることができます。枝葉が手法、幹が組織開発の力やスキル、理論や価値観、根っこが歴史や起源といったようにです。

今日の主な焦点はその根の部分、歴史や理論ですが、最後には、組織開発実践者の力を高めるにはどうしたら良いのか、実践者の人材育成に触れたいと思います。

まず、中原先生が先ほど説明された1階の哲学的基盤、2階の集団精神療法、3階の組織開発の独自手法に続いて、私は4階の「組織開発の変遷」、5階の「今」、6階の「未来」についてお話ししていきます。ただその前に、3.5階の、組織開発の誕生した時のことに触れましょう。

■Tグループとは

組織開発の発祥ともいわれるのは「Tグループ」です。Tグループとは何でしょうか。ご来場の方で、Tグループを実際に経験されたことがある方は……約1割ですね。体験してみないと分かりにくいのですが、Tグループとは、人間関係の体験学習の方法の1つで、あらかじめ課題や話題を事前に設定せず、それらを話し合いの場で見つけていくセッションを5~6日間行うものです。なぜ事前に設定しないかというと、そのほうが、そこにいる人、そこにある関係性の話になりやすいからです。「今ここ」(here and now)の関係性に注目します。

Tグループでは、有名な氷山モデルで言うところの、水面下の氷山で表される潜在的なプロセス(how)に気づき、そこに働きかける力を養います。創始者クルト・レヴィンや彼の弟子であるパイオニアたちは、米国北部の避暑地メイン州ベセルで最初にTグループを行いました。National Training Laboratories in Group Development(NTL)が1947年に設立され、グループで行われる対話の水面下で起こるプロセスに気づいて働きかけ、グループの発達を促す「チェンジエージェント」を養おうとしました。

レヴィンはドイツから亡命したユダヤ人でしたので、差別のない民主的なグループや社会をめざそうと、“人間尊重の価値”や“民主的価値”を大事にしていました。それらの価値観は現在の組織開発に受け継がれています。

■組織開発の誕生

1957 ~ 58年ごろに、NTLのメンバーであるH.シェパードやR.ベックハードらがTグループをESSOやGEで実践しようとした際、組織開発は「計画された変革」(planned change)や「組織改善」(organization improvement)、または、management developmentと呼ばれていました。しかし彼らは、そうした名称は、めざす姿とそぐわないということで、organizationとgroup developmentを組み合わせ、「Organization Development」という名称を用いるようになりました。

変遷①1960年代 人間性回復運動の青春時代

組織開発が開花した後は、「4階」として1960 ~ 90年代の変遷を10年ごとに追っていきます。

1960年代、組織開発の成長を支えたのは、アブラハム・マズローなどの人間性心理学の影響で起きた「人間性回復運動」です。科学的管理法ではなく、差別を撤廃し、官僚的組織を打破し、人間性を解放すれば組織は良くなるという方向に、人々の意識がぐっと振れた時期でした。

この時代の組織開発を人の発達に例えれば、いわば「青春時代」。人間尊重の価値と民主的価値が重視されていました。また、組織を良くする最適な方法、“ベストウェイ”があると考えられていた時代です。

NTLメンバーの社会心理学者や組織心理学者が、先ほどのベセルで活発な議論やセッションを行い、組織開発のいろいろな手法や理論、例えば「ジョハリの窓」などが生まれた時代でもあります。

この60年代の前半、手法としてはTグループが主に使われていましたが、後半には、サーベイ・フィードバックを用いて官僚的組織から民主的組織への変革を働きかける「システム4」や、業績にも人に対しても高い関心を払うマネジャーを育成しようとする「マネジリアル・グリッド」などが開発・活用されました。

変遷②1970年代 戦略論と診断型組織開発

1970年代になると、組織開発を取り巻く状況が大きく変わります。オイルショックにより短期的な業績回復が求められるようになり、各企業でも、経営戦略論がメジャーになっていきます。また、万策共通のベストウェイがあるのではなく、状況によって方法も異なるという「コンティンジェンシー(状況対応)論」が注目されます。

60年代の、ピュアだった組織開発も時代の影響を受け、環境との関連で組織を診断しよう、戦略を立てよう、組織学習も大事だ、などと新しい理論を生み出していきます。人間尊重重視・偏重から「戦略も状況対応も大事だ」と、大人になり始めたということです。

そうして「診断型組織開発」、中原先生の言う「調査de見える化OD」が行われるようになりますが、その進め方は図2です。「データ」とはアセスメント調査や観察、インタビューなどで得られた結果です。しかし、ただ結果を知らせるだけでは変革は起きません。結果を見たうえで日頃感じている現状をメンバー同士で話し合うことが必要です。自分たちの状況について対話をして、現状に気づき、現状に対して何をするかを計画、実行します。

変遷③1980 ~ 90年代 中間管理職から冬の時代へ

■中間管理職?

1980年代に入ると、組織開発はまた、さまざまなものから影響を受けます。その1つは「人的資源管理論」。給与制度や人をマネジメントする仕組みが入ってきます。さらに、経済的に台頭してきた日本から学ぼうと、QCサークル(小集団活動)やTQC(統合的品質管理)が日本からアメリカに輸入されました。

この時代の組織開発を例えると、中間管理職のような状態です。人間的側面(ヒューマンプロセス)への働きかけが誕生以来の特徴でしたが、戦略論や人事制度なども取り込み、結果として「組織開発は雑多だ」と批判されました。

■死亡、でも誕生

90年代は組織開発にとって、さらに苦しい時代です。「組織開発は死んだ」とまで言われました。大企業を中心に、トップ主導のチェンジ・マネジメント論(ジョン・コッターの変革論など)が台頭し、大規模な変革が行われるようになりますが、組織開発は「独自性がなく不要だ」と一部の研究者から批判され、アイデンティティを失いかけます。

ただ同時に、社会構成主義をベースとしたAI(アプリシエイティブ・インクワイヤリー)やOST(オープンスペーステクノロジー)などの新たな手法も生まれます。冬の時代と、新たな手法の芽生えを同時に迎えた時期です。

組織開発の今①新たなアプローチ 地球的共創と人間偏重の是正

いよいよ5階に行きましょう。組織開発の「今」です。誤解せず、正しく理解してくださいね(笑)。90年代に生まれた新しいアプローチが、2000年以降に脚光を浴びるようになり、今に至るという結構長いスパンです。

2000年代に入ると、組織開発の見直しと、対話型組織開発の出現という2つの大きな流れが起きます。背景には時代の変化―グローバル化、ITコミュニケーション、多様性の増大などが影響しています。

組織開発の見直しですが、2006年に『The NTL Handbook of OrganizationDevelopment and Change』(NTL組織開発と変革のハンドブック)が出版されました。第1章の著者であるロバート・マーシャクは、「組織開発とは」という問いに対し、「価値観ベースの実践」であると明言しています。価値観とは、人間尊重、民主的、クライアント中心、そして「社会生命的システム指向」―組織は機械ではなく、生命や社会のシステムであり、地球全体で共存を生み出すための一部なのだと訴えています。

そして次が、誤解されやすいところです。2005年出版の『Reinventing Organization Development』(組織開発の再発明)は、NTL設立御三家の1人、L.ブラッドフォードの息子と、組織開発の重鎮ワーナー・バーク氏が編纂しました。

彼らは、「組織開発が現代的に価値を持つなら、なぜ無視されたり、周辺的に位置づけられるのか?」との問いを立て、いろいろな著者による複数の章を掲載しています。「組織開発は死んだのか、それともこれから夜明けを迎えるのか」という章もあり、組織開発を内部から徹底的に見直そうとしました。

この本が出した答えは、「組織開発とは、人間的側面に働きかけるだけではなく、組織の戦略や構造、報酬システムなどのハード面も含めた諸次元の一致性を高めるもの」だという定義づけでした。

最後の章では、組織開発の実践者はヒューマンプロセスに固執しすぎではないか、組織の中の人間的側面と、戦略や構造、制度などのハードな側面との一致性の両立が重要であり、双方を統合する新たなアプローチを再発明しないと、組織開発の未来は暗い、と真摯に説いています。

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