J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年08月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 “本気”の先に見える世界を伝えたい 目の前の仕事から学び続けた変革者

不動産流通大手、東急リバブルの野中絵理子氏は、人材開発部のトップを
務める。男性中心といわれる不動産業界において、特別な存在だといえるだろう。
アシスタント職からキャリアをスタートさせて現在に至る野中氏は、「多く
の女性社員に、“働き続けること”による面白さを味わってほしい」と語り、ダ
イバーシティ推進にも精力的に取り組んでいる。その原動力は何なのか話を聞いた。


東急リバブル
人材開発部長
兼 能力開発課長
兼 ダイバーシティ推進課長

野中 絵理子(Eriko Nonaka)氏
1986年東急リバブル入社。庶務担当として営業所に3年間配属。その後職掌転換し、賃貸仲介営業、管理部門に長く携わり、ブロック長を経て2014 年にダイバーシティ推進課長へ。2016年より人材開発部長。

東急リバブル
1972年設立。不動産の売買仲介業を基盤とし、賃貸仲介業、新築販売受託業、不動産ソリューション事業、不動産販売業など多角的に事業を展開。総合不動産流通企業のパイオニアとして業界をリードする。
資本金:13億9630万円、営業収益:824億4900万円(2017年3月期)、連結従業員数:3016 名(2017年3月末現在)

取材・文/田邉泰子 写真/編集部

やったことがないほうを選ぶ

不動産流通は営業が中心であり、男性社会の業界とされるが、ここ数年、その傾向に変化が見られる。東急リバブルが、2013 年に業界大手では初めてダイバーシティの専門部門を設けたことは象徴的な出来事といえるだろう。同課を率い、現在は人材開発部長も務める野中絵理子氏は、働き続けることでこそ得られるものがあると語る。

「仕事に本気で取り組んだ先には、成果が残るものです。しかし、成果だけではなく自分自身の成長や変化を味わうこともできます。それは一朝一夕で手に入れられるものではなく、長い時間をかけ、心の底から手応えを感じる瞬間に味わうことができるもの。他の何にも代え難いもので、仕事を続けてきた人であれば必ず出合える可能性があります」(野中氏、以下同)

男性の多い不動産の世界でキャリアを積み上げてきた野中氏だけに、実に重みのある言葉である。

大学を卒業し、間もなくして父親が他界した。「生きていくために働くのだ」という自覚があった。そして入社して最初の3年、担ったのは庶務の仕事だった。

「現在でいう一般職で、営業所のスタッフを事務面でサポートするような役割ですね。労務管理や書類作成など、お客様を直接担当するわけではありませんが、営業所を支えている自負がありました」

結婚後も、自分自身が生きるために働き続けるのは当たり前だと思っていた。できることが増えると素直にうれしかったし、いつしか、新入社員の面倒を見るようになっていた。

「一般事務職として入社した社員の実習先として、私が働いていた営業所には絶えず新人がやってきました。まだ仕事に慣れていない新人たちは、最初は失敗ばかりで時には涙を見せることもあります。しかし、仕事をこなせるようになり、徐々に意識が変化していく。その変化(進化)は、非常に興味深いものでした」

実習を終えた新入社員が巣立っていくたびに、やりがいを感じた。同時に、気づいたこともある。それは、人が育つために「教育」でできることには限りがあり、成長を決めるのは本人次第だということだ。だからこそ、教育には本人の“意欲”を支える工夫が求められるのではないか――。

そうは言っても、営業所の庶務は主にルーティンワークである。野中氏自身、3年目になると仕事の慣れから、「これは、10 年、20 年と長くは続けられないかもしれない……」。そう思い始めていた。その頃、定期面談で上司からこんな言葉を告げられた。

「『一般事務職では今の職位が上限で、これ以上処遇は上がりません』と言われたんです。これは衝撃でした」

しかし上司の話には、続きがあった。これを機に職掌転換をしないかと言われたのである。想像しない展開だったが、断る理由はなかった。

「岐路に立つと、いつも“やったことがないこと”や“より難しそうなこと”など、無難ではないほうを選びたくなるんです。だから、職掌転換は自然の流れでした。既に結婚もしていましたがそれを理由に悩むこともありませんでしたね」

これをきっかけに、野中氏は総合職になり、賃貸仲介営業の世界に足を踏み入れることになる。

置かれた立場を全うする

入社翌年に宅建資格を取得し、基礎知識は備えていたものの、家主と借り手という双方の顧客に直接自身が営業することは初めてだった。しかも配属されたチームには、若手とパートスタッフしかいなかった。必然的にリーダー役となり、営業とマネジメントという経験のない2つの業務を同時に担うことになったのだ。

「前任者より入居者からのクレームを引き継ぐなど、まあまあシビアな仕事からスタートしました。不動産業は物件ありきで語られがちですが、実際は人間力が試される仕事です。担当を持つと、それぞれのお客様にとっての最適解とは何かを考えることになるので、責任のある仕事をしているのだという実感がありました」

自分の仕事が顧客の人生を左右する。その影響力の強さを実感するたびに、野中氏のプロとしての意識は高まっていった。その思いは、メンバーをまとめていく行動にも現れた。

「私たちは、お客様の“住”と“財”という暮らしの基盤にあたる部分を扱いますから、相応のマナーが必要です。社員やブランドに対する信頼感を高めなければ、お客様からは支持されません。チームのメンバーには、営業所に顧客がいない時間でも、雰囲気づくりも含めて気を配るように働きかけていました」

当時の自分を、「率先垂範型のリーダーだった」と振り返る。

「1日中、自分が置かれた立場を演じていたとでも言いましょうか。オーナーと借り手の関係を良好に保つ架け橋としての役割、メンバーの意識を高めるリーダーとしての役割を担うことを常に考えていました」

これだけストイックな姿勢で臨んでいたのは、庶務の仕事をしていた時代があったからだ。野中氏は、営業社員をサポートする中で、メンバーの仕事を客観的に観察し続けていた。すると、仕事の一つひとつに手を抜かず、顧客に真摯に向き合うことのできる人こそ、高い信頼と成績を残しているということに気づいたのである。

「トップの営業マンになると、お客様が迷いに迷われて、結果的に成約に至らなかった場合でも、『よくご決断をされました』とお客様の決断を後押しする言葉を掛けることができるのです。営業成績に直結することを考えると、特に金額の大きい案件は、成約させたいと思いがちです。しかし、優秀な営業マンは自分の成績よりも、お客様の幸せを優先して考えることができます。そうした言動が信頼となり、新たな紹介につながったり、同じお客様が再び相談に訪れたりと、別の形で返って来る。その様子を、庶務としてずっと見続けていたのです」

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