J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年08月号

ATDの風 HR Global Wind from ATD <第5回> ATD 国際会議&エクスポ2017のレポート

米国で発足した人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の
日本支部ATD-IMNJが、テーマ別にグローバルトレンドを紹介します。


下山博志氏
ATD-IMNJ 副代表/広報委員長/人財ラボ 代表取締役社長
2004 年、人財ラボを創業。創新ラボの会長も兼任し、教育とI CTの融合を図るラーニングテクノロジーを推進。ASTD(現ATD)日本支部設立に寄与。熊本大学大学院講師、日本イーラーニングコンソシアム理事、早稲田大学大学院技術経営学(MOT)修士。著書に『一流のフォロワーになるための社長の支え方』(総合法令出版)等。

Image by Merfin/Shutterstock.com

今年のATD国際会議&エクスポ(ATD-ICE)は、5月21日〜24 日の日程で、米国ジョージア州アトランタで開催された。

14 にわたるカテゴリーで全300 セッションが組まれたが、もちろん全てに参加することはできない。数十のセッションが同時に開かれたため、4日間で参加できるセッションは1人15、16程度が限界だったと思われる。つまりICEの情報は、まるで巨大な象のようで、一人ひとりは象の鼻や尻尾、足を触って全体を推察しているだけということになる。

鍵になるのがセッションの合間に行う参加者同士の情報交換だ。ICEの参加者は世界約1万人と幅広い。今回も78 カ国より参加があり、人事や人材開発の部長レベル・経営者(25%)、トレーニングや開発に関わる管理者(30%)、ベンダーも含め、直接開発実施実務に関わる専門家(25%)、コンサルタント(20%)と、バラエティーに富んだ顔ぶれとなった。それだけに、印象に残るキーワード、捉え方も人それぞれである。こうした情報に触れることで、象の全体像を自分なりに把握することが可能となる。

もちろん、私を含め、ATD-IMNJの理事や委員も同様だ。毎年ICEに参加して人材開発の最新トレンドを定点観測しているが、期間中はいろいろな集まりに顔を出して情報交換し、参加者の多様な視点に新鮮な学びを得ている。そこで、今回は開催プログラムの内容の他、参加者たちが得た知見から、人材開発の潮流を紹介することにしよう。

今日の人材開発のトレンドは大きく次の3つにまとめることができる。

1. 多様性社会におけるリーダーシップ

近年、日本では、多様性社会におけるリーダーシップや組織の在り方についての議論が、日常的に行われるようになった。ATDでも多様な社会環境について模索するセッションは多い。その視点は「ジェネレーションGAP」「ジェンダーGAP」「文化的GAP」の3つに分けられる。

「ジェネレーションGAP」は常に掲げられるテーマである。すなわち世代の違う人たちをどのように組織の中で扱うのかという議論だ。2000 年以降、ジェネレーションXY(1960、70 年代生まれの世代と80、90 年代生まれの世代)が着目され、近年はミレニアル世代(2000 年以降に成人、あるいは社会人になる世代)の価値観や行動をどのように捉えるかという、世代間ギャップの探求が行われている。これからもこの探求は続くはずだ。マルチジェネレーションの中で働く人々は間違いなく増えるからである。

「ジェンダーGAP」は、男女の違いによるリーダーシップの在り方がテーマだ。振り返ると、過去の基調講演者にはリーダーシップを発揮した女性が数多く登場していた。元陸軍准将のクララ・アダムズ・エンダー、USAネットワークの創始者ケイ・コプロビッツ、元オラクル社の重役リズ・ワイズマン、ハフィントン・ポスト・メディアグループの創設者アリアナ・ハフィントン、元エイボンCEOのアンドレア・ジュング等だ。彼女たちのスピーチには、男性中心の社会構造への問題意識が常に見え隠れしていた。同様のテーマについては、グローバルレベルの調査データも多い。マッキンゼー社、DDI社、ゼンガー・フォークマン社等は定点観測したデータを公開して、ジェンダーレス社会への対応を提唱した。

最後の「文化的GAP」は、民族や国等、文化的背景の違いへの着目である。過去のセッションでは、少数民族やマイノリティに関するセッションが多かったが、今ではグローバル化によるリーダーシップの変化に関心が集まっている。

あるセッションでは、ヘールト・ホフステード教授による、IBMの研究から広がった多文化論を取り上げた。いろいろな国の国民性の違いを明らかにしたうえで、リーダーシップの在り方を説明する、という内容である。その中でも、日本文化の特異性は明らかとされた。とはいえ、特徴ある文化もグローバル化やSNSの広がりにより、既に新たな文化へと変わりつつあるという指摘だった。

以上3つのトレンドのいずれからも、「GAPは理解しなければならない。しかし、人のラベリングをするのはやめよう」というメッセージが読み取れる。リーダーは個人を“タイプ”で見るのではなく、多様性を理解したうえで、個人のマインドセット、アジリティとアジャイル(機敏さ、しなやかさ)を支援すべき、とする主張がリーダーシップ開発の複数のセッションで強調されていた。

マインドセットについての解説では、スタンフォード大学のケリー・マクゴニガル博士の基調講演があった。博士が提唱したのは、ストレスに対する私たちの捉え方(マインドセット)を変えることの重要性である。「ストレスは悪者ではなく、むしろ成長するために必要なものだ」ということを、心理学や脳科学の実験結果を交えながら説明されていた。

2.ラーニングテクノロジーの進化速度

ATDのCEOであるトニー・ビンガムによるオープニングメッセージのキーワードからは、ATDが注目する毎年のテーマが読める。今年のキーワードは「マイクロラーニング(1〜5分程度の動画等、ウェブで学ぶ仕組み)」だった。

ATDで行った調査では、対象企業の38%がマイクロラーニングを既に活用しており、42%が将来、マイクロラーニングを取り入れたいと考えていることが明らかになった。

背景には、世界中でのミレニアル世代の増加がある。その人口は既に20 億人を突破。米国では2020 年に50%の労働力が40歳以下になると推計されている。この世代の特徴は、常にネットにつながり、検索エンジンで仕事や生活の情報や知識を学び、共有するという点だ。

トニーはこのような時代の仕事環境におけるニーズにマイクロラーニングは合致している、と指摘。学習のモチベーションを高めるだけでなく、学習効果が上がるという実証結果から見ても、この仕組みをもっと活用していくべき、と述べた。

マイクロラーニングの考え方は、ICEにおいては3〜4年前から取り上げられていた。エビングハウスの忘却曲線を例にとり、得た知識を忘れないようにするには、情報を細分化して教えることが効果的といった主張が主だった。さらにその後、スマホやタブレットの普及が進む中、特にミレニアル世代を中心に、モバイルの活用が学習環境に効果的とする議論が広がり始めた。マイクロラーニングの事例が出てきたのは2年ほど前だったが、実際に効果が明確なものや、既存のeラーニングとの違いが明確でないものも見られた。

しかし、今やIBM、造船会社の他、多数の事例が散見されるようになり、実装段階で成果も出ている。今回の会場でも、かなりのeラーニング事業者がマイクロラーニングをはじめ、バーチャル・クラス(ウェブを使った授業)に関する商品を扱っていた。なお、バーチャル・クラスについては、リアルのクラスルームとほぼ同じか、あるいはそれ以上の効果があるとの実例が多かった。

トニーはこの数年にわたりマイクロラーニングの重要性を強調してきたが、そのメッセージは、世の中のテクノロジーの進化に人材開発がやっと追いつきつつあることを示している。

なお、今年は労働分析を活用するセッションや、学習のビッグデータをAIによって活用するといったセッションもあったが、いずれもまだコンセプト段階だ。ATDの外で起こっている、第4次情報革命等の流れを考えれば、今後は「HRテック」というセッションも必ず出てくると思われる。

3.人材開発とイノベーション

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