J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年08月号

CASE 2 明治安田生命保険 シニア社員を特別扱いしない 準備期間の“マインドセット”が 意識高く活躍できるシニアを生む

生命保険大手の明治安田生命では、定年後も“戦力”として活躍してもらうための雇用制度として、
2013 年に「エルダースタッフ制度」を開始した。その任用にあたっては2年間の準備期間を設け、
60 歳以降の働き方や心構えについて、自ら考えるための機会を与えている。
どうすれば、60 歳以降も意欲的に働き続けてもらうことができるのか。その秘訣を聞いた。


長谷川 誓子氏
人事部 ダイバーシティ推進室 室長

石川和正氏
人事部 人事制度グループ グループマネジャー

明治安田生命保険
生保業界の老舗である明治生命と安田生命が合併し、2004 年に発足。以降、時代のニー
ズに応じたさまざまな保険商品を開発する。2017年からは新たな3カ年プログラム「MYイノ
ベーション2020」をスタート。地域社会に必要とされる保険会社をめざす。経営理念は「確かな安心を、いつまでも」。
総資産:37兆5614 億円(2017年3月末現在)、総従業員数:4万1872 名(2017年3月末現在)


[取材・文]=田邉泰子 [写真]=編集部

●背景 シニアも“戦力”である必要性

明治安田生命が定年を迎えた職員の再雇用に本格的に乗り出したのは、2006 年のこと。高年齢者雇用安定法の改正法が施行された同年より、継続雇用制度を設けた。定年となった60歳から最長で65歳まで、1年単位で嘱託として継続雇用するという仕組みで、業務内容は現場のサポート業務が中心だった。

だが、2013 年にその制度を刷新、定年後も戦力として活躍してもらうための仕組みとして、「エルダースタッフ制度」を設けた。なぜ定年を過ぎたシニア層の労働力に焦点をあてたのか。

背景には、同社ならではの事情がある。2004 年に2つの保険会社が合併して発足したため、合併後は事業の整理や新卒採用の抑制といった人員のコントロールを余儀なくされた。その結果、中堅職員の不足など年代別に見た時の人員構成にいびつさが生じた。また、現在職員のボリュームゾーンは、働き盛りともいえるバブル期入社組だが、今後は健康状態の変化や介護の負担などにより、今と同様のパフォーマンスが発揮できるかは未知数である。中長期的に見て、労働力不足が起こりかねない。そこで、若手職員の育成と同時に、経験豊富なシニア層の活躍が必須と判断したのである。

「長きにわたり勤め上げてきた皆さんですから、若手や中堅にはないノウハウや暗黙知を豊富に持っているはずです。年金を受け取るまでの“つなぎ”としてではなく、これまでの経験を存分に活かして、大いに活躍していただきたいですね」と話すのは、人事部でダイバーシティ推進室室長を務める、長谷川誓子氏(以下、長谷川氏)。

具体的にどのような仕組みを設けているのか。まずはエルダースタッフ制度について紹介したい。

●制度 多様な選択肢を用意

現状、日本では、原則として希望者全員が65歳まで働くことができるが、どのように働きたいかというのは人それぞれである。60 歳以降も現役時代と同じように働きたい人もいれば、家庭の状況により、今までより緩やかな条件で働きたいという人もいる。

そこでエルダースタッフ制度は、次ページ図1のように、定年退職直前のパフォーマンスや役職資格、そして希望に応じて職務ランクを4段階に分けた。業務内容も本人の専門性を発揮するものからサポート業務まで、多岐にわたる。

「フルタイムで勤務するE4やE3に属する人が、全体の7割近くを占めます。月に12日程度の出社になるE1を選択する人は、全体の1割程度。定年を迎えても、“まだまだやれる”という意欲ある人が多いことを裏づけていると思います」(人事部人事制度グループグループマネジャーの石川和正氏、以下、石川氏)

給与体系はランクに応じて決まり、年金受給開始前の生活を意識した年齢に応じた手当も用意している。また独自の評価制度に基づく実績評価給も設けており、その評価が翌年の給与に反映される。“頑張った人が報われる”ように、制度を整えているのが特徴だ。

●施策 2年間にわたる手厚い準備期間

だが、いかに仕組みを整えても、“定年後も戦力に”というのは現実として可能なのだろうか。例えば、体力の衰えを感じる中でのモチベーションの維持は、大きな課題といえる。

「確かに『もういい歳だし、楽をしたい』と考える人もいるでしょう。しかしエルダースタッフとして活躍していただくには、もう一段高い意識を持ってほしい。その思いから、準備期間や研修を手厚くしています」(長谷川氏)

長谷川氏の言う通り、60歳以降も働き続けるための準備は、定年の2年前から、着々と進められる(図2)。

再雇用希望者は、58歳を越えた所定の時期にその旨を申請するが、同時に定年後の居住地も確認する。居住地から通勤圏内の事業所に配属するためだ。それから半年後に再雇用時の委嘱業務を決定。本人に告知すると同時に関連する業務に配置し、未経験の場合でも1年半かけて仕事を覚えられるようにする。

もう1つの重要な施策が、エルダースタッフ登用の半年前に実施される「任用前研修」である。

「研修は終日かけて行います。エルダースタッフとしてのマインドセットを行ううえで、重要なものだと位置づけています」(長谷川氏)

エルダースタッフ制度の確認をはじめ、業務ガイダンスや、定年後の勤務でネックとなりがちな健康管理についても講義を行う。

大切にしているのは、エルダースタッフという新しい立場で、自身が求められている役割を認識し、着任先での働き方を具体的にイメージできるようにすることである。

「ワークショップでは、Will(やってみたいこと)、Can(できること)、Must(すべきこと)の観点で自身のキャリアを棚卸しします。既に着任先で任される業務を前提とした仕事をしているため、将来、エルダースタッフとして自分に求められる役割を具体的に考えることができます。受講者同士の意見交換により、新たな気づきを得ることも多いようです」(長谷川氏)

一方で、エルダースタッフとして働くことの現実についても触れ、理解を深める。例えば、エルダースタッフの活躍状況やコミュニケーションの円滑さといった項目に対する意識調査の結果を伝えている。本人たちが思うよりも、周りの評価はよくないことを伝え、片手間では通用しないことを認識してもらうのだ。

「研修の内容をかなり厳しいと思う方は多いと思います。しかし、60 歳を過ぎても特別扱いする気はありませんし、他の職員同様、一生懸命働いてもらわなければなりません。高い意識を持って働いていただくために、厳しいことを伝えることも必要です」(長谷川氏)

また、先輩の体験談は人気が高い。「『現役時より給料が下がると分かっていても、最初の給与明細を見た時はショックだった』など、きれいごとで済まさずに、かなり生々しい話をするスタッフもいます。一方で、家族の時間や地域参加などに触れる方もいて、定年後の人生全体を考える機会となっています」(長谷川氏)

研修直後の感想では、「立ち止まって考える機会があってよかった」「定年後は、会社に恩返ししていきたい」といった声が上がるという。

●制度の発展と反響 雑用も楽しむマインドがカギ

制度が浸透し始めた2015 年には、現役世代の人事制度を大きく変更した。職種の統合を行う他、全職員を4つの職制グループに分け、プロフェッショナル人財を評価するキャリアラダーを新たに用意した。また、従来は57歳で行っていた処遇調整も廃止した。

さらに、エルダースタッフよりも処遇を上げる代わりに、雇用期間や更新基準が厳しい「プロ・エルダースタッフ制度」も設けた。

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