J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年08月号

CASE 1 大和ハウス工業 60歳以上の社員の「役割」を明確化 シニアのモチベーションを高め、 “生涯現役”を可能にする工夫

大和ハウス工業は、2013 年に定年年齢を65歳に延長。
2015 年には、雇用上限年齢の定めのない「アクティブ・エイジング制度」を導入し、
会社が認める健康な人材であれば、“生涯現役”も可能な仕組みを構築した。
こうした施策を取れるのは、シニアが戦力として活躍しているからこそ。
「人件費はコストではなく投資」と言い切る同社は、
どのようにシニアの意欲を高め、能力を活かしているのだろうか。


菊岡大輔氏
東京本社 人事部 次長

大和ハウス工業
1955 年、「建築の工業化」を企業理念に創業。以来、戸建住宅、賃貸住宅、マンション、商業施設、事業施設等の建築や、都市開発事業など幅広い事業を手掛ける。現在は、国内に限らず世界各国で地元に密着した事業を展開する。
資本金:1616 億9920 万円、連結売上高:3 兆5129 億円(2017年3月期)、従業員数:1万5725 名(2017年4月時点)


[取材・文]=崎原 誠 [写真]=編集部

●定年延長の狙い シニアの意欲を重視

大和ハウス工業が2013年に定年延長を決断したのは、単に人材確保のためだけではない。もちろん、建設業界全体に広がる人手不足の影響は大きい。従来の嘱託再雇用制度では、約半数が定年と同時にリタイアを選んでいた。再雇用者の数は6割、7割と徐々に増えてきてはいたが、それでも、3~4割のベテランが会社を去るのは、同社にとって大きな痛手だった。

近年の60歳到達者は、年間100 ~150人。将来的には年間300人程度にまで増える見込みだが、当面は人手不足のほうが頭が痛い状態だという。また、同社は長期ビジョンとして、創業100周年の2055年に売上高10兆円を掲げており、まだまだ成長軌道にある。再配置先に困るような状況は想定していない。

ただ人が足りないだけなら、再雇用制度を維持したまま、処遇水準を引き上げる方法もあったかもしれない。だが、そうではなく定年を延長したのは、シニアのモチベーションを重視したためだ。旧制度では、自身の評価や所属組織の業績が賃金・賞与に反映されず、処遇が固定的であり、それがシニアのやる気を削ぐ面もあった。また、いったん退職して「嘱託」となることで、一体感を持ちにくいという問題もあった。

「少し前の話ですが、ある大先輩が、若い職員に『嘱託さん』と呼ばれたとおっしゃるんです。大先輩にそんな言い方をする人がいるのかと驚きました。これは極端な例ですが、嘱託になると、シニア自身も周囲も、“正社員とは違う人”という意識を持ってしまいがちです。それでは、両者が一緒に仕事をしていくのは難しいのではないでしょうか。そこで、同じ仲間だという意識づけとして、定年自体を引き上げることにしました」(東京本社人事部次長の菊岡大輔氏、以下同)

ちなみに、旧制度下でもほとんどの人がフルタイム勤務だったので、定年を延長しても、働き方の面で不都合はなかった。

問題は人件費の面だが、同社の経営陣は、「人件費はコストではなく投資」という考え方。年間で億単位の経費増になるが、「投資する以上、それに見合ったリターンを返してくれればよい」と捉えている。

「シニアの処遇を上げるために、60歳以下の社員の賃金を引き下げたり、採用を抑制するようなことはしていません。投資に対してどれだけリターンがあったかというのは数値化できませんが、十分におつりがくるほどの効果が得られていると思います」

●60歳以降の処遇 運用を踏まえ制度を改善

定年退職日は65歳の年度末だが、旧定年年齢である60歳の年度末に役職定年となる。役職定年を設けたのは、組織の若返りのためだ。

ただし、60 歳を超えても引き続き部門長を任せたい人もいるため、「理事」という雇用区分を設けた。また、所属組織の業績と個人の評価を各人の賞与に反映し、「やってもやらなくても同じ」という意識を払しょく。年収水準は役職定年前の6~7割である(図1)。

さらに、1年間の運用を踏まえ、2014 年に制度を見直した(図2)。ポイントは2つ。1つは、理事制度を3階層にし、登用の門戸を広げると共に、昇格の機会を設けたことである。

「理事は部門長・部長クラスであり、ハードルが高いという問題がありました。副理事を設けたことで、課長クラスの役職を継続してほしい人や、高度な専門性を持ったプレーヤーを処遇しやすくしました」

もう1つは、理事以外の60歳以降の職員を「メンターコース」と「生涯現役コース」に区分したこと。メンターコースは、仕事の中心が後進の指導・育成であり、生涯現役コースは、1プレーヤーとして成果を上げることが期待される。「シニア自身からも周囲からも、『役割が分かりにくい』という声がありました。周囲からすると、『何をどこまでお願いしてよいか分からない』、本人は『どこまで口出ししてよいか分からない』と、お互いに遠慮や戸惑いがありましたので、役割を明確化しました」

60歳到達者全体に占める割合は、理事10%、メンターコース15%、生涯現役コース75%程度だという。

●60歳以降の配置 活躍できる部門に配属

60歳以降の配属先は、最終的には会社が判断して決定するが、本人の意向を確認しつつ、人事部が時間をかけて調整する。

毎年5~6月に行う「ライフデザインセミナー」では、その年に60 歳に到達する全職員を集め、60歳以降の働き方や家庭での心構え、年金を含めたお金の話、健康維持などについて情報提供し、翌年度以降の働き方を考えてもらう。グループ会社のリゾートホテルで1泊2日の宿泊形式で開催され、同窓会的な雰囲気もあるので、同じ立場の仲間と、お互いの今後について深く語り合うことができる。

そのうえで、7~8月に希望調書を提出してもらい、上司との面談を行う。そして、人事部が受け入れ先を探して折衝・調整し、12月末には全員の配属先を決定して、本人に通知する。

60歳到達者の中には、それまでと同じ仕事を継続する人もいれば、違う役割に変わる人もいる。

「例えば、本社・本部勤務だった職員は、それまでの仕事を継続しても違和感はないでしょう。60歳までプレーヤーとして現場監督などをしている人も、体力的に問題がなければ、そのまま続けてもらえばいい。最近の60 代は現場が好きな方も多いです。一方、工事部長をしていた人が一工事担当者に戻り、それまで部下だった人の下で現場の仕事をしたり、営業所長だった人が一営業員に戻って家を売るというのは現実的ではありません。ですから、それまでの経験・培ってきたスキルの活きる部門に再配置します」

例えば、技術系の部門長だった人は、本社の安全指導をする部署や品質チェックをする部署で、経験を活かして活躍してもらう。営業所長だった人は、営業推進部に移り、すぐには商売に結びつかないが、長期の関係づくりをする中で商売のタネを見つける仕事をする。こうした仕事は、落ち着きのあるシニアのほうが向いているだろう。

「経験や人脈の蓄積があること、また、会社の歴史を知っていることは、シニアの強みです。そのような強みを活かせる役割に就け、プレーヤーもしくは指導的立場、対外的な窓口などを担っていただきます。シニアを雇用するために無理に仕事をつくるようなことはありません。シニアの持ち味、経験、スキルの活きる部門に集中的に配属し、シニア中心で回していこうという発想です。そうすることで、体力のある若手を現場の第一線に送り込むこともできます」

60 歳時点では部門長を担っている人が多く、大半の人はポストから降りることが決まっているので、先述のような部署を希望する人が多い。もちろん希望は100%通るわけではないが、できるだけ本人の希望に沿うよう、人事部は受け入れ先の調整にはひときわ力を入れるという。︎

「例えば、『今は東京にいるが、広島で長く働いていたし、家もあるので、60歳以降は広島で働きたい』と言う人がいても、経営上の理由などによっては、受け入れられないこともあります。その場合、『大阪だったらどうでしょう』『グループ会社では、広島に求人があります』などと、本人と話し合って妥協点を見いだします。一番大変なところですが、ここを丁寧にやらなければ、本人のモチベーションの低下に直結しますし、再配置先にも迷惑がかかります。手間暇をかけて丁寧に対応しており、8~9割の満足度は得られているのではないかと思います」

なお、60 歳になって最初の4月は1カ月間、特別休暇が与えられる。本人のリフレッシュや家族孝行に充ててもらう意味合いもあるが、いい意味でリセットしてもらうことも期待している。

「仮に同じ部署で働くにしても、これまでとは、役割や期待されることが変わります。本人に意識を変えてもらう必要がありますし、『いつまでも頼ってばかりではなく、自立しなければ』という周囲の意識を醸成するためにも、この休暇が有効です」

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